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3日後、学校から帰って自宅にランドセルを置き、折り紙に行くと茶髪のおじさんが来ていた。
『いやぁ~、睦月、ありがとな! お前のおかげで損失防げた上に儲かったよ。ほら、約束の千円』
菓子折りとポチ袋を渡された。
『今日、為替が大きく変わって車業界全体が株安になったんだ。それから、睦月が勧めてくれたクラフジ、あれ、昨日特許出して連続でストップ高になった』
『えっ、ホント!?』
ストップ高とは、専門用語で株価が前日の終値に対して値幅制限いっぱいまで上昇した状態のことを言う。つまり、爆騰して大儲けしたのだ。
『睦月のチャート見る目、すげーな。トレーダーになれる素質あるよ』
茶髪のおじさんは満足そうに笑うと、またいろいろと教えてくれ、と帰っていった。僕が初めて自分の力で稼いだ千円だ。知識が活かせられて、すごく誇らしい気持ちになった。
僕の読みは外れていなかったとこれで立証されたんだ。だったらこの調子でどんどんお金を増やしていこう――そう思っていたけれど、佑里香先生に咎められた。この時、彼女は大学生になっていた。
宿題でわからないところがあると嘘を言って、僕は佑里香先生に家庭教師をしてもらっていた。最近佑里香先生がきれいすぎて、僕はもうあまり目を合わせられなくなっていた。でも、傍にいたくて、わざと『わからない問題があるから教えて欲しい』と時間を割いてもらっていた。
『ねえ、先生聞いてよ! 僕、初めて千円も稼いだんだ!』
『どうしたの?』
『株で儲けたんだ!』
ことの顛末を先生に話した。人助けをしたのだから褒めてくれると思っていたのに、結果は違っていた。
『睦月君、それはだめよ』
『えっ……どうして?』
『小学生がよくわかっていないことに首を突っ込んで、お金を稼ぐなんて、そんなことしちゃだめよ』
えっ……これって悪いことだったの……?
『ごめんなさい』
なんとなく不満に思ったが、佑里香先生に嫌われたくなくて謝った。先生は僕が株の勉強をしてお金持ちになるのは嫌なのかな。
『わかってくれたらいいの。さ、お金を稼ぐことを考えるよりも、今はしっかりわからないところを勉強しようね』
『はーい』
すでに自力で簡単に解ける問題を教えてもらいながら、僕は先生の息遣いにドキドキした。隣で僕のために真剣に教えてくれる先生に邪な思いを抱いていると露見すれば、きっと嫌われてしまうと思っていたので、悶々とする日を送っていた。
でも、それはとても貴重な日々だった。愛する人の傍で、将来を悲観することなく生きていけたのだから。
後悔してもしきれなかった。もっと毎日、『先生、僕と結婚して』と呪文のように繰り返し、彼女の記憶にプロポーズの言葉が残るように、約束を取り付けておけばよかった、と。
だって、夢にも思わなかった。
母親が付き合っていた反社会的立ち位置の男とこじれて、佑里香先生にお礼もさよならも言えず、黙って再び夜逃げする羽目になるなんて。
この日を最後に、もう先生と会えない日々が8年も続くだなんて――