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その日の業務が終了し、締めの作業も終わって、そろそろ帰ろうかと思っていた。
……と、そこへ、
「永瀬さん、悪いけどちょっと先生のところへ行って、今日のカルテをもらってきてくれないかしら?」
松原女史から、用件を言いつけられた。
「はい」と返事をして、診療ルームへ向かう。
ドアをノックすると、「どうぞ、何か用ですか?」という声が聞こえた。
「あの、今日のカルテをいただいてくるよう、松原さんから頼まれまして」
室内へ足を踏み入れ、目の前の白衣の医師に告げると、
「ああ、わかりました」
と、カルテをデスクの上でトントンと揃えて、私に手渡そうとした──その一瞬、
ふと互いの指が触れ合い、思わず自らの手を引っ込めたせいで、カルテがバラバラと床に落ちて散らばった──。
「あ…すいません!」
咄嗟に拾おうとしゃがんだ私の前に、
「私も、拾いますよ……」
白衣姿の政宗医師が、スッと片膝を突く。
「あの、大丈夫ですから……」
あまりに近すぎる距離感に、思わず腰が引けると、
「永瀬さん?」
不意に、低く落とした声で呼びかけられた。
「え、あ…はい」
真近に迫る端正に整った顔立ちに、つい声が上ずる。
「君、私に恐怖心を抱いてますよね?」
すると政宗医師から、そう言わば唐突に訊かれた──。