コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
嘘だ…トラビスは咄嗟に力を緩めたと話していた。だから傷は浅いはずだと。でも…血がたくさん流れていた。血が流れすぎたの?傷から炎症を起こしたの?治癒が遅れたの?
ぐるぐると考えてもわからない。ゼノのことは大好きだったのに。バイロン国で僕とリアムのことをわかってくれる、唯一の人だったのに。ごめんなさい…僕のせいだ。ゼノ、ごめんなさい。
「今ここで!ゼノの仇を打ってもいいのですよっ」
ジルの叫びにハッと顔を上げた。
ジルが剣を振り上げて、僕を斬ろうとしている。
「やめろっ」とリアムが叫ぶと同時に、僕は左手をジルに突き出した。
「うわあっ!」
僕の左手から白い光が出てジルの身体に当たる。ジルの身体は大きく飛び、後方の木にぶつかった。白い光はジルの全身を包み、木に縛りつける。
「フィルっ、なにをした!」
「…彼は邪魔だ。僕とリアムが勝負をしていたのに。だから少しの間、あそこで見ていてもらいます」
「しかし…っ」
「ああでも。早く決着をつけないと、彼が窒息してしまう。だからね…リアム、本気で僕を殺しにきて」
「俺は…おまえを愛してる。なのにゼノが死に、次はこのようなことを…。俺はどうすれば…」
リアムが僕を憎み始めている。それでいい。辛いけど、それでいい。
僕はふと、ノアのことを思い出した。ノアの家に泊めてもらった時のことを。
ノアはリコと二人暮らしだったけど、とても幸せそうだった。
国とか背負わないで、あのような家でリアムと二人で暮らせたら、どんなに幸せだろうか。もう叶わない夢だけど、約束通りにリアムが迎えに来てくれた時に、小さな家で二人で暮らしたいと話すつもりだった。
ノアにも会いたい。たった一人の友達だったノア。僕のことを忘れないでくれたら嬉しい。
「くそ…これを解け…」
「喋ると余計に苦しくなるよ」
「おま、え…ラズール…という者、を…知ってるか…?」
「ラズールがなに?どうしてあなたがその名を知ってるの?」
「クルト…王子…から、聞いた…。病で…死ん…だ、らしいぞ…」
「うそだっ!薬を送ったから死んではいない!うそを言うなっ」
「ぐっ…!」
僕は左手に更に力を込めた。
ジルの口から泡が出てきた。
ブツブツと呟いていたリアムが顔を上げてジルを見て、叫びながら僕に突進してきた。
「やめろっ!」
一瞬のことだった。
僕はよけることもできなかった。
リアムが剣を振り下ろした直後に、僕の左手がボトリと地面に落ちた。
「あ…熱い…」
僕は血が吹き出る左腕を掴んで、その場に座り込んだ。
切断された箇所が激しく痛い。そして燃えるように熱い。早く治癒の魔法をかけなければ。早く止血をしなければ。そう思うのに焦って、うまく魔法がかけられない。
でも、どうして斬れたの?左腕には、蔦のような痣があるのに。痣が僕の身体を傷つけさせないはずなのに。なのにリアムに斬られた。どうして…。
ジルにかけていた魔法が解けて、ジルの身体が地面に落ちた。
リアムはジルに駆け寄り、呼吸を安定させる治癒をしている。
自業自得なのだけど、僕に来てくれなかったことが悲しくて辛くて、僕は肩を震わせて泣いた。
その時、僕の身体に大きなマントがかけられ「大丈夫ですかっ」と焦る声が聞こえた。
聞き覚えのある声。でも…まさか。つい先ほど、死んだと聞かされた男の声だ。
僕はのろのろと顔を上げる。涙でぼやけてしまうけど、ゼノの顔が見えた。
ゼノが苦しそうな顔で僕の腕の治癒を始める。
「痛いでしょう。すぐに止血をしますからね。設備の整った場所に移ったら、切断された手をくっつける治癒をしましょうね」
「ゼノ…よかった…。ごめ…なさい」
「なにも謝ることはありませんよ。トラビスに斬られましたが、彼は力を加減してくれましたから。少し皮が切れただけです。だからほら、俺は元気です。それよりもあなたです。こんなひどい目に合って…。リアム様が…やったのですね?」
僕は泣きながら頷いた。嗚咽しながら「僕のせいだから」とまた謝った。
血が止まるとゼノが腕を布で固く縛り、落ちた左手も布で包んで上着の懐に入れた。そして僕を抱きしめた。ゼノの心臓の音が大きく聞こえる。身体も震えている。見上げた顔が怒っている。
僕のことで怒ってくれることが申しわけなくて、更に涙を流した。
ゼノが、僕を胸に抱いて怒鳴った。
「リアム様!あなたはご自分が何をしたかわかっているのですか!」
リアムがジルから顔を上げてゼノを見て、驚いて走ってくる。
「ゼノっ?おまえ…生きてたのかっ!」
「何を仰ってるのかよくわかりませんが。俺は元気ですよ。それよりも!これは一体どういうことですか!」
「ジルから…ゼノが死んだと聞いた。その上、ラズール?とかいう名の者が死んだと聞いたフィルが、ジルを殺そうとしたから…咄嗟に斬った」
「この…白く細い腕を…手首を斬ったと?すぐに止血をしなかったために、フィル様は今にも死にそうになってますが?」
ゼノの声が怒りで震えている。リアムの声も震えている。僕の全身も震えている。
そうか…血が流れすぎたのか。だからこんなにも寒く、震えが止まらない。
「…すまない。助かるのか?」
「さあ?」
「ゼノ、なぜそんなに怒っているんだ」
「あなたがこのような事態になっても、まだ思い出さないからですよ!本当に何をしたかわかってますか?あなたは大切な宝を、自らの手で壊したのですよっ」