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ゼノの言葉に、傍目にもわかるほどにリアムの身体が大きく揺れた。ゆっくりと手を上げて髪をつかみ、大きく目を見開いて僕を見る。次の瞬間、リアムが悲痛な声で叫んだ。

「うわあああっ!」

「やっと…思い出されましたか?」

ゼノが聞くと、リアムが顔を歪ませた。そしてゼノを押しのけて僕を抱きしめた。僕の肩に顔を埋めて嗚咽している。可哀想なくらいに震えている。

「リア…厶…?」

「フィー…俺は…なんてことをしたっ!おまえに剣を向けて…斬ってしまった…すまない…っ」

「思い…出したの?」

僕は右手でリアムの首に触れた。

リアムが驚いて顔を上げる。もはや雨なのか涙なのかわからないけど、ぐしゃぐしゃに濡れた苦しそうな顔で、何度も謝る。

「すまない…ごめんっ、俺の腕も同じように斬ってくれっ」

「ばか…言わないで。僕が…そうなるように…仕向け、たん…だから。リアム…僕のこと、わかる?」

「わかるさ。俺が愛するフィーだ!もう二度と忘れない!心から愛してるっ」

「よかった…嬉し…。僕、も…愛してるよ…」

せっかくリアムが思い出してくれたから、もっと話していたい。もっと触れていたい。だけど眠くて眠くて、もう目を開けていられないんだ。身体に力も入らなくて、右手がパタンと落ちる。

「フィー?しっかりしろ!」

「リアム様、早くこの場を離れて高度な治癒ができる近くの城へ移動しましょう。雨に打たれて身体が冷えすぎてますっ」

「わかった!」

「俺が運びましょうか?」

「いや、いい。俺が運ぶ」

「わかりました」

もうろうとする意識の中で、会話だけがはっきりと聞こえる。

「ところでジル、もう動けるな?」

「ああ…。しかしおまえ、生きていたのか」

「すこぶる元気だ。おまえは誰から俺が死んだという嘘を聞いたのだ。不確かな情報をリアム様に伝えるな」

「すまない…。宿を飛び出していくリアム様を追いかけようとした時に、クルト王子が来て、おまえが死んだと仰ったのだ。リアム様について行き逃げた男の首を斬れとも」

「ラズールという男のこともか?」

「ああ。それもクルト王子から」

「ならば、ラズールのことも嘘だろうな。フィル様、大丈夫ですよ。ラズールは生きてます。病も治って、元気になってますよ」

ゼノの優しい声が聞こえる。

僕は微かに首を動かした。

そうか…よかった。ラズールに会いたい。でも今の僕を見たら、すごく怒るだろうな。怒ってなにをするかわからないな。

ラズールのことを考えていたからか、いきなりラズールの声が聞こえてきた。

「フィル様…?フィル様!お怪我をされたのかっ!第二王子っ、あなたが傍にいてなぜこのようなことになっている!」

ふふっ、やっぱり怒ってる。きっとすごく怖い顔をしてるだろうな。後で僕も怒られるだろうな。

僕はもう、意識を保っていられなかった。意識が沈んでいく時に、リアムの腕が離れ違う人に抱きしめられた気がした。



今日はとてもいい天気だ。窓から射し込む陽が暖かくて心地がいい。風もなく穏やかな庭の様子を眺めていたら外を歩きたくなった。

僕は机に向かって書類を見ているラズールを振り返る。

「ラズール、庭に出たい。いい?」

「いいですよ。ここ数日で一気に暖かくなりましたからね。少し歩きましょうか」

「じゃあ外でお茶を飲もう」

「わかりました。用意させますので少しお待ちを」

ラズールが立ち上がり扉を開けて鈴を鳴らす。すぐに来た使用人に用件を言うと、ラズールは棚の上にある黒のショールを手に僕の傍へ戻ってきた。そしてショールを広げて僕の肩にかける。

僕は右手でショールを摘んで、ラズールを見上げた。

「もう暖かいからいらないよ?」

「ダメですよ。まだ体調が戻ってないでしょう?」

「ええっ、元気だよ。あれから三ヶ月たってるんだから」

「でも念には念を。俺のいうことを聞いてくれますよね?」

「…わかったよ」

少し口を尖らせた僕に笑って、ラズールがしっかりと僕の肩を抱く。そしてまだ思うように動かせない僕の左手を握りしめて、窓からテラスを抜け庭に出た。


三ヶ月前、僕はバイロン国にいた。

イヴァル帝国とバイロン国の間で戦が起こり、その時に捕虜としてバイロン国に入ったのだ。心配してついてきたトラビスと一緒に。

そしてその時に、バイロン国の第二王子に左腕を斬り落とされ重傷を負った。流れすぎた血と雨に打たれて冷えすぎた身体で死にかけた。トラビス以外の味方がいない国では確実に死ぬしかなかった。

だけどラズールが来た。僕の代わりに毒矢を受けて動けなかったラズールが、回復して国境を越え助けに来てくれたのだ。

実のところ僕はラズールが来る直前に気を失ってしまい、前後のことをよく覚えてはいないのだけど。前後どころか、捕虜になってからのこともぼんやりとしか覚えていない。僕は十日間も意識が戻らなかったから。そのせいでバイロン国にいた時のことを思い出そうとすると、頭の中に靄がかかったみたいになる。

だから今覚えていることは、全てラズールから聞いた話だ。

僕は意識が戻るとイヴァル帝国の王城にいた。城の中で一番日当たりのいい一階のこの部屋で、ラズールに手を握られていた。

ラズールは僕と目が合うなり顔を伏せて震えた。顔が見えなかったけど、泣いていたと思う。しばらくして顔を上げたラズールの目が、真っ赤になっていたから。長いまつ毛が湿っていたから。

僕が「ごめんね」と掠れた声で言うと、「本当にですよ…」と泣き笑いの顔で、僕の髪を撫でた。

「フィル様…左手ですが、今できうる限りの治癒をしました。動かせますか?」

「左手…?」

「斬り落とされたでしょう?」

「あ…そうか…」

「少し赤く痕が残ってしまいましたが…」

「そうなんだ。ありがとう、ラズール」

「いえ…、間に合わなくて申しわけありません」

「…よく覚えてないのだけど、僕は…金髪の男に斬られた…?」

「はい。彼はバイロン国の第二王子です。俺は彼を絶対に許しません。そしてあなたも許してはなりません」

「わかった」

ラズールがとても怒っている。なにが理由で斬られたのか思い出せないけど、僕も許す気はない。

僕はゆっくりと左手に力を入れる。ひどくゆっくりとだけど、なんとか指が動く。でも物を持ったり掴んだりは難しそう。

僕がそう言うと、ラズールは「そうですか」と苦しそうに顔を歪めた。

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