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「じゃあ、新しいお家でまたね。」
私はナグに微笑んで、その場を去った。
ナグはちょっと不安そうな目をしたけれど、「ニャ〜」といつもの可愛い顔を浮かべた。
元の飼い主さんの承諾もあり………ナグは私達について行くことになった。つまりはナグも一緒に引っ越すってこと!
荷物とナグを乗せたトラックは先に遠い地域にある新居に向かった。
「じゃあ、私達も持てる荷物をまとめていきましょうか。」「そうだね。12年間…?ありがとうございました!」
私はバッと家に向かい感謝の意を込めお辞儀をして、母さんの車に乗った。
「ちょっと待って!ナグ用の食器忘れてたわ、ハイこれ。」
おばあちゃんが早歩きで、車の後ろの荷台に新しい荷物を乗せた。
「ナグ、新居喜ぶかしらねぇ〜。」「どうだろうな。喜ぶより前に驚いて暴れちゃうかもな。」
おじいちゃんとおばあちゃんが話しているのを聞き、自然と笑みがこぼれた。
確かに、おじいちゃんの言う通り、びっくりして暴れちゃうかもなぁー。まぁ、多分おばあちゃんが抑えてくれるでしょ。
母さんが「じゃあ出発するわね〜」と運転席から声を出したので、私は天音と叶実とのグループLINEにメールを送って、シートベルトをかけた。
隣はおばあちゃん。
「ナグ、もうお家来てから7ヶ月?くらいよね。もうちょっと今までの家で遊んでほしかったわ〜。」「そうだね。でも7ヶ月ってだいぶ家にいたほうじゃない?これから新しい家でもいっぱい遊んでくれればいいし。」「そうだね〜。でも……」「?」
おばあちゃんはいつもよりにこりと笑って言った。
「あの時明希があの場にいなかったら、ナグは今よりもっとひどい境遇にあったかもしれないし、明希ちゃんには感謝しないとね!」「いやいやいや……あそこでいなかったらやばかったのはおばあちゃんじゃないの?私と天音と育と波瑠っていうメンツだったら多分拾ってあげるとかそういうのなかったかもだし。断じてそう思う。」
私はキッパリと言ってから、窓から見える道路に目をやった。
かなり混んでるな………
事故にあいそうでコワイなぁ……
まぁ、母さんは運転上手だし大丈夫でしょ!!!
少しホッとしてちょっとだけ目を閉じたら、そのまま私は寝てしまっていた。
ウー、ウー、ウー………
パトカーのサイレンのような音で目を覚ました。
「あれ、おばあちゃん窓開けてたの?」「うん。だって暖房より外の風を吸ったほうがいいでしょ?」「そうなのか、な…?」
私は首をかしげていると、急にブレーキがかかった。
「か、母さんどうしたのっ!?」
運転席に座る母さんの顔色は、驚くほど真っ青になっていたのだ。その母さんの視線の先には、パトカーと、その隣くらいの距離に、ナグや他の荷物を乗せたトラックが______
えっ、うそ。
私やおばあちゃんも、顔を青ざめた。
悪い予感は、見事に的中した。
ナグと他の荷物を乗せたトラックは、安全に新居へ進んでいる時。
後方から、車が違反ラインギリギリのスピードで衝突し、後ろの荷台はほぼ破損。運転手さんは幸い怪我なしで済んだが、ナグは__
助からなかった。
新居でナグが楽しそうに遊ぶ姿は、命そのものなくなった。
あれから1年前の月日が流れ、私の誕生日が来た。
あっという間にお風呂からあがって部屋にいると、ノックの音が聞こえた。
「明希、ちょっといい?」
おばあちゃんの声だ。
「ど、どうしたの…?」「渡し忘れていたの。これ、おまけの誕生日プレゼント。」
そう言って手に置かれたのは、小さい布造りの…
「お、お守り…?Nって書いてある。」「そう。これには、ナグの遺骨が入っているの。ナグの葬儀の前に申し出て、遺骨をすこしもらったから、作ったの。」「そ、そんなのおばあちゃんがもらったほうが……!」「おばあちゃんはもうあるわ。おやすみ。」
おばあちゃんは少しさみしそうな笑みをして、部屋のドアを閉めた。
おばあちゃん、1番ナグに思い入れがあったはずなのに………。
でも、気持ちを切り替えるのも、大事……だよね。
私はそう思って、もらったお守りを握った。