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目を覚ましたセリオは、しばらく無言で天井を見つめていた。
——今の夢は、何だったのか?
過去の記憶。だが、違和感があった。自分の視点ではなく、まるで別の誰かの視点から見ていたような感覚。
そして、リゼリアの最後の言葉。
「お前を、私は手放さない」
その意味を考えていると、部屋の隅に座るリゼリアと視線が合った。
「目が覚めたのね」
「ああ……少し、妙な夢を見た」
「そう」
リゼリアは微笑んだが、それ以上は何も聞かない。
だが、セリオの方は聞きたいことが山ほどあった。
自分はなぜ蘇ったのか。なぜ、何度も復活しているのか。
——そして、リゼリアは何を考えているのか。
「……お前に聞きたいことがある」
「何かしら?」
リゼリアは静かに問い返す。
「お前は、俺を何度も蘇らせているらしいな」
「ええ、そうよ」
あっさりと認めるリゼリアに、セリオは一瞬言葉を失う。
ならば、次の問いをぶつけるだけだ。
「なぜだ?」
「お前を魔界に迎えるため」
迷いなく、リゼリアはそう答えた。
「……俺を、魔界に?」
「ええ。セリオ、お前は生前、人間のために生き、人間のために死んだ。ならば、今度は魔族のために生きてもいいと思わない?」
「……何を言っている」
セリオは顔をしかめる。
「俺は、人間として生まれ、人間として戦った。それが——」
「お前はもう人間ではないわ」
リゼリアの声が、静かに響いた。
「今のお前は、魂だけの存在。魔界で蘇った時点で、人間だった頃とは違うのよ」
セリオは言葉を失った。
それは、痛いほど理解している事実だった。
鼓動はなく、血も流れず、温かさも感じない。
——俺は、本当に人間なのか?
「……それでも、俺は——」
「セリオ」
リゼリアが、ふっと微笑んだ。
「お前は何度も死んで、そのたびに蘇った。でも、その記憶は残っていない……なぜかしら?」
「……それを聞きたいのは、こっちの方だ」
「魂の定着が不完全だからよ」
リゼリアは、静かに言葉を紡ぐ。
「私は何度もお前を蘇らせた。でも、そのたびに完全には戻らなかった。記憶が欠落し、魂が安定しない。それは……本来ならあり得ないことなのよ」
「……本来なら?」
「ええ。普通、ネクロマンシーで蘇った者は、完全な記憶を持っているか、あるいは人格の崩壊が起こるかのどちらか。けれど、お前はそのどちらでもない。魂の根幹が、生前の“人間だった頃”の状態を維持しているのよ」
「……つまり?」
「お前の魂は、まだ“人間”としての自分に執着しているの。だから、魔界で生き続けるためには、もう一度“新しく生まれる”必要があるわ」
リゼリアの赤い瞳が、じっとセリオを見つめた。
「お前は、どうするの?」
その問いは、セリオにとって初めての“選択”だった。
——人間としての過去に縋るのか?
——それとも、魔界で新たな生を受け入れるのか?
セリオは、答えを出さなければならなかった。