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セリオは、沈黙の中で考えていた。
自分は何者なのか——人間だった騎士なのか、それとも今のゴーストとしての自分なのか。
リゼリアの言葉が脳裏に響く。
「お前の魂は、まだ“人間”としての自分に執着している」
確かに、そうなのかもしれない。
目の前にいるリゼリアが何度も自分を蘇らせたことも、その度に記憶が失われていることも、すべてが事実だ。
ならば、今の自分は本当に“セリオ・グラディオン”なのだろうか?
「……俺は」
口を開きかけたその瞬間、扉が激しく叩かれた。
「リゼリア様!」
若い魔族の兵士が駆け込んできた。息を切らしながら、慌ただしく続ける。
「外で人間の軍が動いています! 先遣隊かもしれません!」
「……また?」
リゼリアがため息をつく。
「どのあたり?」
「北東の山道です。偵察隊を送るべきかと」
「いいえ、まだ様子見でいいわ。数は?」
「十数名ほどですが、装備からして精鋭かと……」
リゼリアは静かに目を閉じる。
「……セリオ、お前はどうするの?」
「どうする、とは?」
「人間の軍よ。お前の“元の仲間”かもしれないわね」
その言葉に、セリオの心がざわめく。
——元の仲間。
人間だった頃の自分が、共に戦った者たち。かつての同胞。
「……お前は、どうするつもりだ?」
「このまま静観するわ。余計な戦いは避けたいもの」
リゼリアは淡々と答える。
「でも、彼らが先に攻撃してきたら、容赦はしないわ」
当然の対応だった。
魔界は人間にとって敵。向こうが攻めてくれば、迎え撃つしかない。
セリオは、自分の胸の奥にあるわずかな迷いを振り払った。
「……俺も行こう」
「いいの?」
「ああ」
人間としての過去に縋るつもりはない。
自分が何者であろうと、今は魔界にいるのだ。
そして、リゼリアが言ったように、ここが自分の“新しい生”になるのなら——
戦うことで、その答えを見つけよう。
セリオは静かに剣を手に取った。