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第11話 〚隠された傷〛
翌朝。
澪は、胸の奥に引っかかる違和感を抱えながら教室に入った。
理由は分からない。
ただ、昨日からずっと、胸がざわついている。
(……何か、あった気がする)
席に着き、本を開く。
けれど文字が、頭に入ってこない。
「おはよう、澪」
声に顔を上げると、
橘海翔が立っていた。
いつも通りの表情。
いつも通りの声。
……でも。
「……海翔くん」
澪の視線が、
彼の前髪の奥に引き寄せられる。
少し不自然な前髪。
見え隠れする、白いガーゼ。
「……どうしたの、それ」
海翔は一瞬、言葉に詰まった。
「……ああ、これ?」
「ちょっと、ぶつけただけ」
笑って誤魔化す。
けれど。
――頭の奥が、きりっと痛んだ。
予知。
昨日の夜。
暗い廊下。
恒一の歪んだ目。
振り下ろされる拳。
床に落ちる血。
澪の手が、震える。
「……嘘」
小さく、でも確かに。
「ぶつけた傷じゃない」
海翔は、驚いたように澪を見る。
「澪……?」
澪は、ぎゅっと拳を握った。
「誰に、やられたの」
教室のざわめきが、遠くなる。
海翔は、少し黙ったあと、
静かに言った。
「……心配しなくていい」
「もう終わったことだ」
その言葉が、
澪の胸を強く締めつけた。
(終わってなんか、ない)
(私の知らないところで、
海翔くんが傷ついた)
「……私のせい?」
澪の声が、かすれる。
海翔は、はっとして首を振った。
「違う」
「澪のせいじゃない」
「でも……」
澪の視界が、滲む。
その瞬間。
予知が、もう一度流れ込んだ。
――見えない視線。
――教室の外。
――こちらを見つめる、誰か。
澪は、確信した。
(まだ、終わってない)
「……海翔くん」
澪は、勇気を振り絞って言った。
「何かあったら……」
「一人で抱えないで」
海翔は、少しだけ目を伏せ、
それから、優しく笑った。
「……ありがとう」
その笑顔が、
澪には、少し苦しそうに見えた。
教室の外。
廊下の角。
西園寺恒一は、
二人の様子を、黙って見ていた。
(……澪)
その視線は、
まだ、離れていなかった。