タキシードに身を包んだ彼と手を携えて歩いていると、疑似体験だとわかっていても、本当の挙式さながらに気持ちが高揚する。
やがて式場へ着き、真っ白な扉が両側に押し開けられた。
中はパンフレットにあったように全面がガラス張りで、床面のガラス板の下には、ヴァージンロードの赤じゅうたんの代わりに、真っ赤な薔薇の花が敷き詰められていた。
ウェディングマーチの流れる中を、二人でゆっくりと祭壇ヘ進む。
「そちらでお写真をお撮りして、お持ち帰りいただけますので」
そうガイダンスを受け、二人で祭壇の前へ並ぶと、
「私を愛してくれて、ありがとう」
彼から低く抑えたトーンで、ふと密やかに告げられた。
「私の方こそ……。愛してもらって、ありがとうございます」
はにかんで答えた瞬間に、カメラのシャッターがカシャッと切られた──。
「とても良いお写真が撮れました」
カメラマンの方から笑顔で声をかけられて、よけいに照れくさくなる。
「では、フェアの体験は以上になります。よろしければこの後にお式の詳細なご相談をすることも可能ですが、久我様はどうされますか?」
プランナーの男性にそう尋ねられ、
「君は、どうしたい? まだ差し当たって検討をすることもできるが」
彼が私へ向き直った。
「そうですね……、」と、しばし考え込む。
言われてみれば結婚式場を決める際には、いろいろと見比べてみたりするようだったけれど、初めてのブライダルフェアでこんなにも満足させていただいて、もうここ一択で決めてもいいように感じた。
それに、ガラス張りの式場もだけれど、何よりデザートビュッフェが、すごく魅力的だもの……。
心の中でそう思い至って、「こちらに決めたいです」と、彼に答えを告げた。
「主役でもある君が、そう言うのなら、決めようか」
彼から優しげな笑みが返る。
「はい」と、にっこりと笑って返すと、この人と本当に式を挙げるんだという気持ちが、ひしひしと押し寄せた。
──フェアの中で思いついたことを彼と話し合いながら、大体の内容を詰めて行った。
そうして日程等の詳細な取り決めは、貴仁さん自身の都合を確かめてから、また後日にということになり、パソコンでプリントアウトされた模擬挙式の写真をいただいて、私たちはホテルを後にした。
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