「いってきまーす」
ゆったりとした休日は一瞬で過ぎ去り、また月曜日がやってきた。
「愛芽奈、お弁当持った?」
相変わらず心配性の姉が玄関まで走って聞いてくる。
「持ったよ」
「白杖は?」
「持ってるってば(笑)見たら分かるじゃん」
今、右手で持っているにも関わらず確認してくる姉は本当に母そっくりだ。
「だって…」
「もう行くよ?行ってきます」
「行ってらっしゃい、気をつけて」
うっすらと見える黄色い線の上を、白杖で周りを確認しながら歩く。
さっきの姉とのやり取りでお分かりの通り、私は弱視なのだ。
とは言っても、完全に見えないわけではなく、光や人影はなんとなく分かって、目が見える人が白い霧の中にいる時の視界みたいな感じの見え方。霧っぽい白いのが邪魔で、めちゃくちゃ目に近づけないとよく見えない。
黄色い線、と言ったのはいわゆる点字ブロックで、その周りを白杖で叩き、危ないものが落ちていないか確認しながら歩く。
「…ん?」
白杖に何かが当たった音がした。
この金属音は…自転車か?
この道はよく点字ブロックの上に自転車が停められていて困る。移動させようにも、見えない私には危なくて出来ないし、周りを歩く人に頼むしかないのだ。しかし、この通勤・通学ラッシュにそんな親切を働いていただける人もなく…
「あの、すみません。この自転車どかしていただくことって…」
「………」
案の定、無視された。
「…はぁ…」
思わずため息が出る。今日はどうやら運が悪いらしい。
点字ブロックが無い道を歩くのは怖いが、自転車に引っかかってコケる方が怖いし危ない。
仕方なく別の道から行くことにした。
遠回りだが、元々通ろうとしていた道の次ぐらいには安全な道を行く。
「……ひっ…!」
後ろからベルを鳴らしすごい勢いで自転車が来た気配を感じ、咄嗟に避ける。すごく急いでいた、遅刻しそうなのだろうか。
やっぱり慣れていない道は怖いな。点字ブロックもなければ、道は若干でこぼことしたコンクリートだ。気を緩めるとつまづきそう。
「え!?日にち間違えてた!?」
前からそんな大声が聞こえてきて、反射で少し体が跳ね上がる。
「やばいじゃん、こっちは明日って聞いてたんだけど!?」
集合日時でも間違えていたのだろうか。
「これ遅れたら契約取り消しかな!?取り消しだよね!?『社長に運命かかってますよ』って…もう…とりあえず行けばいいんでしょ行けば!!」
焦ったような少し怒ったような声が近づいてくる。
男の人の声だ…
「あの、○○社ってどこにあるか知ってます?」
怖い…けど、この人は道を聞いてるだけ、何もしてこない…大丈夫…
「ふーっ…」
一旦深呼吸をして、落ち着こうとする。
「あの…?大丈夫ですか?」
「あ、すみません…もう1回言ってもらえますか?」
「○○社への行き方を知りたくて…これ、どっちの路線に乗り換えればいいんですっけ?なんか調べても色々出てきて…結局どっちなのか…」
その人は私にスマホを差し出してきたようだが、それに表示されている小さな文字は、到底私には見えない。
「えーっと…」
見えないから、自分の頭の中でどの路線だったか思い出すしかない。
言われた会社は私が勤める会社の本社だったが、普段電車を使わないのでよくは知らない。
「その会社だと△△駅が最寄りでしたよね、えーっと…」
「あれ…?このどっちかじゃなかったですか?」
「あ、いえ…!あの、えっと」
私がドギマギしていると…
「お兄さん、△△駅ならこっちの路線に乗り換えるといいですよ」
「あ、やっぱり!ありがとうございます!」
どうやら他の人が見かねて代わりに教えてくれたらしい。
「あと、乗り換えで待ってる時、先に来る電車はその駅に停まらないのでもうひとつ後のやつに乗ってくださいね」
「ありがとうございます!」
尋ねてきた人は、急いでいたようで、走って行ってしまった。
助け舟を出してくれた人にお礼を言い、改めて歩き出す。
私がこの世で1番怖いもの。それは、目が見えないことで他人に迷惑をかけてしまうことだ。
変に思われたかな…あの人、急いでたみたいだし、私が白杖持ってること気が付かなかったんだろうな。
あいにく、今日は白いスカートを履いていたから余計に見えにくかったらしい。
通りすがりのお兄さんにも迷惑かけちゃったかな。
心の中では2人に土下座しながら、平然と歩き会社に向かった。
そういえばあの道を聞いてきた人、髪色がピンクに見えた気がするけど気のせいかな…社長とか言ってたけど、あのなりでどっかの会社の社長をしているのか…時代も時代だな。
私が働く会社は、割と大きな会社の支社だが小さくアットホームで、圧倒的ホワイトだ。
色々と失敗しがちな私を、みんな優しく見守り、時に助けてくれる。
この会社に就けていなければ、今頃メンタルがズタボロにやられてとっくにやめていただろう。
社会人になってから約3年。最近ようやく一度も大きな失敗せずをに1日を終えることが出来るようになってきた。それが普通だろって思われるかもしれないが、私からすればそれはものすごい成長なのだ。
「生野さん、この資料の文章間違えてるところあるんだけど、直せるかな?」
「すみません、すぐ直します!」
「いやいや謝らなくていいよ、午前はそれ直したらもう休憩入っていいからね」
「ありがとうございます!」
みんな優しくて暖かい。
だけど、どうしても特別扱いされている気がしてしまう。仕方ないことだと思いながらも、違和感を覚えてしまう自分が嫌いだ。
いつも何かが足りなくて、面白くなくて。毎日毎日、同じことの繰り返し。それが私には窮屈で退屈で仕方がない。
まあ、私なんかが働かせてもらってるだけ感謝しなきゃだな。
「そういえばさ、今日の朝」
昼休みに、一緒にお弁当を食べている同僚の日比野雛にそう話しかける。休日でも一緒に遊ぶほどには仲良しだ。
「ん?なんかあったの?」
「また点字ブロックの上に自転車停められてて」
「ええ、またぁ?ほんと困っちゃうね」
見えない私の気持ちを分かってくれようとしてくれる、とってもいい子。
「で?どうしたのよ」
「仕方ないから別の道で行った…それでね?なんか知らない男の人に道を聞かれたんだけど」
「え!?大丈夫だったの…?」
「大丈夫だから今ここにいるんじゃん(笑)それにおじさんじゃなかったからまだマシだったよ。同世代ぐらいのお兄さんだった」
「そっかそっか…それで?道教えられた?」
「…ううん…スマホ差し出されてどっち?って聞かれたから答えられなくて、通りすがりの人が代わりに教えてくれた」
「白杖持ってたのに聞いてきたんだ?」
「急いでたみたいだし…ほら、今日白のスカートじゃん?見えにくかったのかなーって」
「そういう問題?(笑)」
それからはいつものように談笑しながらお昼を食べ終えた。すると雛から、こんな提案がされた。
「ねぇ知ってる?今日、本社にどっかのアイドル事務所の社長が契約結びに来てるって!なんかコラボするらしいよ」
「へー、初耳」
「でさ、その社長がかなりのイケメンらしいよ…!」
「へー」
「興味無い?(笑)」
興味無いというか…イケメンかどうか見えんのよ…と、心の中でツッコんでいると、雛が察してくれる。
「あーそっか、分かんないもんね…ごめん」
「いやいや…謝らなくてもいいけど」
「でもちょっと残念じゃない?イケメンなんて眺めてなんぼだもんね」
「そうなんだよー…残念!中学まではイケメン眺めんの大好きだったのにー(笑)」
イケメンは気になるが、見えないものは仕方ない。
「でも私見に行ってみたいんだよね!着いてきてよ!」
「え?それは本社に行きたいということ?」
「そういうこと!!」
「ダメだって…!怒られない?」
「大丈夫だって!上手いこと言えばウチの社長は100許してくれるだろうし、本社に入るツテあるし!」
「ツテ…?」
なんだか嫌な予感がしながらも、好奇心で雛について行くことにしてしまった。
「すいませーん、□□支社の者なんですけど、入ることって出来ますー?」
「ん?…あー!雛ちゃーん!もちろんもちろん、いいよ♡」
「やったー!さすが山内さん♡」
こういう時のために、予め本社のまあまあ偉い方のおじ様に媚びを売っていたらしい。すごい。
「はい、お友達も一緒にどうぞ♡」
「ありがとー♡」
あっさり通された…
「ほんっと男って単純だよねー(笑)」
「すごいね雛…」
「ここか…?」
「ねぇ怒られるよ…?」
「大丈夫だって…!」
ヒソヒソ声で話しながら、ガラス張りの会議室を覗いてみる。
「あ…!あの人だ絶対…!」
「え、どんな顔…?」
「なんだ、あんたも気になってんじゃん(笑)」
「あ…」
無意識のうちにイケメンに気になってしまっていた。
「えっとねー…なんて言えばいいだろ、なんか癖がない顔で…王道イケメンって感じ?」
「へー…濃いか薄いかで言うと?」
「薄い…のかな。どちらかと言えば塩顔?」
「そっか…じゃあ帰ろ」
踵を返そうとすると、雛が私の腕を掴んで引っ張ってきた。
「え!?嘘でしょ愛芽奈…あんなイケメン若手社長滅多にいないよ、話しかけなきゃ!」
「はあ?無理無理」
「社長だよ社長!!玉の輿乗れるかもじゃん!!」
「別にそんなの求めてないよ…」
言い合ってるうちにだんだん大声になっていっていることに当人たちは気づかないでいると、ちょうど会議が終わったようで、中から人が出てくる。
「やばっ…雛、隠れるよ…!」
「えっ!?」
「すみません、御手洗借りてもいいですか?」
向こうでイケメン社長が聞いている声がする。
「もちろん、あちらに向かってすぐ右ですから」
「ありがとうございます」
やばい…こっちに向かってくる。
ダンボールの裏に咄嗟に隠れたので、バレないかハラハラしていると、
急に白杖が引っ張られた。
「!?」
「なにこれ、危な…」
「やめてっ…!?」
どうやら、私自身は隠れられていたが、白杖が通路に張り出していたようだ。
大事な大事な白杖が引っ張られたことにものすごい恐怖を感じ、次気がついたときには…
「…いっ…!?」
「…え…?あっ…ん…?」
「ちょっと何やってんの、愛芽奈!?その人言ってた社長だよ…!?」
「あ…ええっ…!?」
契約相手の社長のみぞおちを蹴っていた。
「本当に申し訳ございませんでした…」
「それで…君たちは誰なんだ」
「□□支社の社員です…」
「なんでわざわざそこから?仕事でか?」
「いえ…契約相手の社長さんが気になって興味本位で…本当に申し訳ございませんでした…!」
本社の偉い人たちに問い詰められ、雛と2人で頭を下げる。
「君たちの支社はちょっと緩すぎないか…?」
「緩いのが売りなもので…」
「それがいいことか決めるのは本社だけどな」
「すみません…」
やはり嫌な予感は当たっていた。こんなことになるなら好奇心なんかいらなかった。
「本当に申し訳ございませんでした…!」
イケメン社長さんに向かっても頭を下げた。
「いえいえ…俺の方こそ、その杖?勝手に引っ張ってしまって申し訳ない…」
「あ、これ、白杖って言うんです」
「白杖?…あー、なんか聞いたことある気がします。たしか目が不自由な人が持つやつですよね?」
「そうですそうです!これで周りの…」
「おい、社長にあんなことしておいて親しく話しかけるなんて失礼だぞ」
「あ…すみません、つい…」
「部長、こいつ、弱視なのに雇われた社員ですよ…□□支社社長の情けで」
そんなふうにコソッと言う声が聞こえる。
「やっぱりそういう普通じゃない奴は雇ってもいいことないんですよ」
「目が見えないと思考も悪くなっちゃうんですかね…?(笑)」
奥にいるらしい社員たちもコソコソと私の悪口を言っているらしい。楽しそうな声で、普通の人たちが。
「…なんなんですか…?さっきから…」
私が俯いていたからだろうか、雛がその人たちに怒ったような声が聞こえる。
「ちょっと雛…!?いいから…」
「私たちが小さい支社の社員だとしても、あなたたちはその本社なんだから、雇ったなら最後まで面倒見てくださいよ!?」
「ちょっと君…お客さんもいるから…!」
「ないこさん、本当に何と謝罪すればいいものか…」
雛を抑えようとする声が飛び交うが、イケメン社長さんは、おそらく仏のような笑顔を浮かべたような声で許してくれる。
「ああ、僕は大丈夫ですよ。みなさんそんなに怒らなくても…こんなので契約取り消します!とか言わないんで安心してください」
「本当に申し訳ございません…今日はお引き取りしていただけると…」
「はい、また次の会議で…そうだ、その社員さんとちょっとお話させてください」
「えっ…?」
きっと、その場の全員がそう思っただろう。
なぜか私は、社長さんと話すことになってしまった。
「あなた、今日の朝に道聞いた人ですよね?」
「え?」
「なんでオドオドしてるんだろうって思ってたんですけど…目が見えなかったんですね。すみません…焦って全然見てなくて…」
「あ…あの時の方ですか!?」
確かにそう言われると、目の前の人の髪色はピンクに見えるし、声もこんな感じだった気がする。
「あの時はすみませんでした…迷惑かけちゃいましたよね」
「全然!なんか俺…初めての感覚がしたというか…」
「…はい?」
「人に蹴られるのとか初めてで…びっくりしたけど…なんか…」
「は…?」
なんだこいつ…変態か?
…まさか私の事そういう目で…?
「…っ…」
あの時のことを思い出してしまい、全身がゾワッとする。
「同い年ですかね?何歳ですか?」
何?個人情報聞き出そうとしてる…?
「い…言えません…」
「え?あ、言いたくなかったですか…すみません」
やだやだやだやだ…逃げた方がいい…?
「大丈夫、痛くないからねぇ…おじさんの言うこと聞いてたら」
「はぁ…はぁ…!」
「…?大丈夫ですか…?」
恐怖が限界に達したのか、足が自然と逃げて行く。
「ごめんなさい…!」
本社の大事な契約相手なので一応謝り、走って逃げる。白杖を持っていないことも忘れて。
だが、慣れない本社の床なのでつまづいてしまう。
「あっ…!」
コケる…!と思った瞬間、何かが私の体を支えた。
「あっぶな…大丈夫ですか…?」
どうやら、社長さんが支えてくれたらしい。
「やめ…離してください…!」
支えてくれた手を引き剥がして、また逃げる。
「あの…白杖は!?」
「はぁ…はぁ…」
「愛芽奈!?どうしたの!?」
会社の外まで走って逃げると、待ってくれていた雛がびっくりしたような声色で聞いてくる。
「あの社長さんが怖くなって…逃げてきた…」
「…そっか…やっぱりまだ怖いか…」
「追いかけてくる前にもう帰ろう…!」
また走り出そうとすると、雛に止められる。
「待って落ち着いて!走ったら危ないから…!てか白杖は!?」
「あ…忘れてきた…」
「ええ!?どうすんの…もう出禁になっちゃったし入れないよ…」
「もういいよ…家に予備いっぱいあるし」
疲れ果てて支社に帰ると、あのゆっるい穏やか社長にもさすがに怒られ、散々な一日を過ごした。
「ただいまー…」
「おかえりー!遅かったね…って…白杖は!?」
キッチンから出てきたお姉ちゃんが、穏やかな声からびっくりしたような声に変わる。
「ちょっと…説明すると長くなる。簡単に言えば、会社で失敗しちゃった…かな」
本当は泣きそうなのを堪えて、誤魔化すような笑顔を作り、そう答える。だが、姉にはバレバレなようで、すぐに何があったのか吐かされた。
「そっか…大変だったね」
「全部私が悪いのに…」
「全部ではないよ、愛芽奈はそれでも頑張ったんでしょ?」
「うーん…そうなのか…な…」
お姉ちゃんは、甘い。私に甘すぎる。
「…私、もう働くの辞めたい…」
「…え…?」
「ダメなのは分かってるけど…分かってるけど!私に優しい世界じゃないんだもん…」
「愛芽奈…」
「優しい人がいるのは知ってる。職場の人はみんな優しいし、家族も優しくしてくれる…さっきの社長さんだって、ちょっとおかしいとこはあったけど、優しくないわけじゃないんだと思う…」
「うん…」
「でも、でも…生きにくいんだもん…なんで私だけこんな目に会わなくちゃいけないの…!?」
「愛芽奈、あのね…」
「たっだいまー!!」
勢いよくドアが開けられる音がし、振り向く。
どうやらお父さんが帰ってきたらしい。
「…はぁ…お父さんってさ、いっつも何かとタイミング悪いよね」
「え?なんかお取り込み中だった?ごめんごめん」
お姉ちゃんが、お父さんに呆れたような顔をしたのが見えなくても分かった。
「…ふふっ…でも、逆にちょっと元気取り戻したかも」
「ほんとー…?だってさ、お父さん」
「ん?何の話してたんだ?」
お父さんの鈍感ぶりに、思わずお姉ちゃんと顔を見合わせて笑った。
「愛芽奈、大丈夫…?」
昨日のことを心配し、朝から不安そうな顔を浮かべているであろうお姉ちゃん。
「…うん、大丈夫」
完全に大丈夫、とは言いがたかったが、心配性な姉を落ち着かせるために笑顔でそう答える。
「新しい白杖も持った…よね」
「うん…」
「何かあったら、お姉ちゃんに電話して。仕事中でも出来るだけ出るから」
「分かった…頑張ってくるね、行ってきます」
「うん、行ってらっしゃい」
「羽依奈?愛芽奈もお父さんも行ったよ」
「…そう」
「…何か食べたいものある?買ってくるよ」
「いらない。お姉ちゃんももう行く時間でしょ?…早く行って」
「…分かった」
新しい白杖、軽くて使いやすいな。
どこのメーカーだっけ…おうち帰ったら確認しとこ。
今日は自転車に道を閉ざされることもなく、いつも通りの道で通勤出来た。
もしかしたら今日はいい日になる兆しかも。
「すみません、ここに弱視の社員の方いらっしゃいますか?」
「ええ。あ、これ彼女のですか?私、渡しておきますよ」
「いえ、直接会って謝りたいことがあるので大丈夫です。ありがとうございます!」
「え…」
完全にフラグを回収してしまったようだ。会社がある方向から、あの社長の声がする。
昨日を思い出し、少し膝が笑い出す。
どうしよう、どうしよう。
ここで雛が来るまで待つ…?でももう来てるかもだし…
「…あ!!」
やばい、見つかったっぽい…
「すみません、昨日、白杖忘れて走ってっちゃいましたよね。返しに来ました」
「あ…ありがとうございます…すみません、昨日は失礼な真似を…」
逃げたくなるのを堪えて、必死に受け答えする。
「いえ…こちらこそ怖がらせてしまってすみません…では、これで」
良かった…あっさり去ってくれるみたい。
「…痛った…」
痛い?どうしたんだろう。
「え?大丈夫ですか?」
あ…まさか昨日私が蹴ったみぞおちが…!?
「すみません!!私があんな…!」
「違います、目にゴミが入ったみたいで…」
目に…ゴミ…?目に…
「え!?大変じゃないですか!?見せてください」
「…ん!?」
「目、開けられますか?ギュッと瞑ると良くないです。擦らず、ゆっくり瞬きしてください」
「…は、はい……あの…?」
「え?……あっ…!?」
どうやら、目を大事に思う気持ちが恐怖心に勝ち、彼の顔を手で掴んで近づけて見ていたらしい。
「びっ…びっくりしたぁ…」
「す、すみません…!!」
「あ、でも、ゴミ取れました!」
「よかった…!」
今更怖くなったのか、男性に顔を近づけたのが照れるのか、心臓が破裂しそうなほどドキドキしている。
「…ほんとに…びっくりした…」
「すみません…」
社長さんが動揺したような、照れたような声で半笑いで言う。
自分でしたことだが、こっちもびっくりした。私が男の人にこんなことをするなんて、一体何を思ったのやら…
「…あの…お名前聞いてもいいですか?」
「え…」
どうしよう、言っていいのかな。
あれだけ顔を近づけても何もしてこないということは、そんな気が無いのだろうか。信じても、いいのだろうか…
「…絶対、何もしません。ただ、あなたの名前が知りたいだけです」
「……生野愛芽奈です」
「…愛芽奈さん…愛芽奈さん!」
「はい…?」
「ありがとうございます!また!!」
「また…?また!?」
それは…また来るってこと!?
この時から薄々勘づき始めていた。この男に懐かれ始めたことを。
続く
今更、「恋です!」というドラマにハマってしまいまして、それをちょいと参考にしたお話を衝動書きしてしまいました。なので、完結するかは謎です。そんなんばっかり。
TVerで見てるんですけど、杉野遥亮かっこいいですよねほんと…無理、好き。
※ヒロインの名前は、『愛芽奈』と書いて『めいな』と読みます。
※おそらく実際の4番さんと年齢が違うと思います。このお話の中では、彼は24歳という設定です。愛芽奈は25歳です。