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バレンタインから数日がたち、ついこの間まで色んな店の目立つところに置かれていたバレンタイン関連の商品が姿を消していた。
売れ残ったものには値引きシールが貼られ安売りされている。
あっ、これギリ来年のバレンタインまで持つじゃん…買ってこうかな…
手を伸ばしかけてやめた。
来年も一緒にいるかなんて分からないじゃないか。
時期が過ぎれば、需要が無くなれば、値引きされ それでも売れなければ待っているのは”捨てられる”という運命だけ。
なんとなくこの売れ残った商品と自分を重ねてしまった。
ネガティブな気持ちを切り替えるためにこのコーナーから離れようと思い歩いていたら、つい先日までバレンタインとでかでか書かれ、ハートの風船で飾り付けられていたところが桜模様に一変していた。
春の到来を思わせるピンク色の飾りのなか売られていたのは花見用の商品だろうか。
俺は花粉症だし、花見はそこまで好きってわけじゃないけど木兎さんは好きそうだな。
黒尾さんとかも好きそう。場所取り進んでやってくれそう。いや、やらされてるのか。
木葉さんも黒尾さんと同じイメージあるな。幹事とか割とやるタイプだもんな。
研磨は嫌がるかな…?昨年も花粉なんて無くなればいいのにっていってたしな…
月島も花粉症そう。勝手なイメージだけど。でも花見は好きだったりするかも、ショートケーキ好きとか可愛いとこあるし。
みんなで花見…楽しそうだな、俺から誘ってみようかな。
「おっ!赤葦じゃん!」
「…!お久しぶりです。」
突然 背後から声をかけられサッと振り向けばそこには黒尾さんが立っていた。
シンプルだけどちゃんと考えてコーディネートされているのであろう服。
長身の黒尾さんにとても似合っていた。
前会った時も思ったけど、やっぱり…
「黒尾さんの私服、すごくかっこいいですよね。」
似合っているからこそ奇抜なヘアスタイルが目立っているところには触れないでおく。
そこら辺にあった服を何も考えず適当に着ているような俺には理解できないおしゃれなのかもしれないし…
まぁ、その変な…じゃなくて奇抜な髪型までも俺なら愛せますけどね。
「ありがとう。えっと…なんかそんな事言われたの初めてで、その…マジ嬉しいわ。」
黒尾さんは照れたように視線を逸らした。
普段、音駒の主将としての頼りがいのある姿とはまた違った一面を見れたようで嬉しかった。
「本当に似合っててかっこいいですよ。」
しばらく立ち止まって話していると一緒に服を見に行こうということになった。
俺の服を黒尾さんが見繕ってくれるそうだ。
俺は(自分では普通だと思っているのだが)ファッションセンスがあまりないらしいからとても助かる。
「じゃあ行きますか?」
「ああ、でもお前今なんか見てたんじゃないの?買ってかなくて大丈夫?」
そう言われて花見コーナーにいた事を思い出した。
「今すぐ必要な訳では無いので大丈夫です。黒尾さんやみんなと花見でもしたら楽しそうだなって思って見てたんですけど…」
「いいな!花見!俺、超穴場な桜が綺麗な公園知ってるぜ。」
「行きましょう、花見。また桜が咲く時期に計画立てましょう。」
少し未来の約束が出来た。なんだかすごくホッとしてる。
黒尾さんが案内してくれたのは俺一人じゃ絶対入ろうとも思わないオシャレなお店。
聞き慣れない外国語の曲がかかっている店内にあるのはストリート系?とかなんとかの服。
「赤葦はこういう系が似合うと思うんだ。それにここ比較的安めだしオススメ。」
らしい…そもそも俺は服の相場が分からないのだけど。
せっかくなので全身コーディネートしてもらうことにした。
小遣い多めに持ってきたしまあなんとかなる。
「まずはこれな!」
カゴに入った服たちを渡され試着室に入る。
まずはということは何セットか着るのだろう。
ささっと着替えてカーテンを開ける。
「あ〜、似合うっちゃ似合うんだけど…ちょっと違うな。今度はこっち着てみて」
黒尾さんは何度も楽しそうに俺に着替えさせた。
こんな感じのやり取りを数回繰り返して黒尾さんによる完璧コーデができたようだ。
「これだ!絶対これ 赤葦に似合う!」
服を受け取り、試着室に戻る。
着替えようと服を持ち上げたときいいことを思いついてしまった。
カーテンを少し開けると前に立っていた黒尾さんに「早いな、着替えれた?」と聞かれた。
「あの、これの着方がわからなくて…」
「どれどれ…」
「黒尾さん。着替えさせてください。」
「え?」
黒尾さんの手を掴んで試着室に引きずり込んだ。
試着室に男2人。それはそれは狭くて必然的に距離が近くなる。
「では、お願いします。」
そう言うと黒尾さんは静かに服の後ろに手をかけた。
黒尾さんが服を見ているのをいい事に俺は鏡越しに黒尾さんを見つめた。
やっぱりかっこいいな…音駒の女子もほっとかないだろうな。
今は部活が1番でもいつかは…
「好きです。」
気づいたら口に出していた言葉。
しかし、運が良いのか悪いのか黒尾さんには違う意味に聞こえたようだった。
「あっ…服な!すげぇ似合ってるよ。」
自分で言うのもなんだけどなかなかにかっこいいと思う。
流石 黒尾さんのコーディネート。
でもそういう意味じゃなかったのにな…
着替えが済むと黒尾さんはすぐに試着室から出ていってしまった。
その後、黒尾さんに選んでもらった服を購入して店を出た。
「赤葦、まだ時間大丈夫?」
連れてこられたのは黒尾さん行きつけのカフェだった。
本当に大人っぽいよな、黒尾さん。
正面に座る黒尾さんに見とれていたら話を切り出された。
「そういえばさ…この前の大丈夫だった?」
「この前?」
「ほら、ストーカーの…」
あぁ、あれか…
「大丈夫ですよ。あれ以来ものがなくなったりとかつけられてる感じとかしないです。ありがとうございます。」
「そうか、よかった。」
1つしか変わらないはずなのに珈琲を啜る姿が酷く大人びて見えた。
それがなんだかとても寂しく感じた。
まぁ、熱い珈琲を何度もフーフーしてたのは可愛かったけど。
最近あったこととか部活のこととか、色々話してるうちにあっという間に時間は過ぎて…
空は薄暗くなっていた。
「暗くなってきたら危ないし、送ってくよ。」
駅に行く途中に俺の家があるからと言っていたが遠回りをしていることに気づいてない訳では無いだろう。
大した距離じゃない。
多分急げば15分くらいで家に着く。
俺はわざと歩くスピードを落とした。
俺に合わせるように黒尾さんが隣を歩いた。
歩くのが遅いから疲れたと思われたのか鞄持ってやるよと服の入った鞄を軽々奪われてしまった。
そしてついに俺の家の前にたどり着いた。
いくらゆっくり歩いたっていつかは家に着く。当然のこと。
「じゃあまたな。あかあ…」
「待って!…待って、ください。」
咄嗟に引き止めてしまった。
「どうした?」
「あ、えっと……..まだ 黒尾さんと話してたいなって…」
何言ってるんだ俺。
こんな雰囲気でじゃあもうちょっと立ち話でもとはならないだろ…
もっと上手く誤魔化さなきゃ…
「その、久しぶりに会えたから!離れ難いというか、…寂しくて」
本当に自分でも何言ってるのかわかんなくて、
でも多分 これが本音。
もう嫌だ…この人といると甘えたくなってしまう。
「赤葦…俺も久しぶりに会えて楽しかった。良かったらだけどまた一緒に出かけよう?連絡もいつでもしてくれていいし」
「ありがとうございます。引き止めてしまってすみません。」
「いいよ。じゃあまたな。」
「はい、また。」
黒尾さんが歩き出し、俺も回れ右して家の門を開けようとした。
その時、
「赤葦!…俺もお前とまだ居たいって思ってたし、今もちょっと寂しい!」
少し離れた距離にいるため大きな声で黒尾さんが言った。
「お前だけじゃ無いからな!」
なんで俺が求めてることがわかるんですか?
俺が不安になってるって気づいてたんですか?
黒尾さんといると自分を作ることが出来なくなるから困るな。
「…はい!」
黒尾さんに聞こえるように俺も声を張って答えた。