テラーノベル
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病院の窓が、割れた。 破片が飛び散る。
「なっ――!」
新八がとっさに神楽の前に出る。
だが、遅い。
黒装束の集団が一気に病室へなだれ込む。
「坂田銀時はいないな」
低い声。
ベッドは空だ。銀時は別室、集中管理の階に移されている。
「留守を狙うとは、ずいぶん姑息ですね」
新八は木刀を構える。
神楽も傘を構える。
戦闘は一瞬で始まった。
新八は必死に食らいつく。神楽は怒りをぶつける。
だが数が多い。
そして、中央に立つ男――おそらくボスが、ゆっくり手を叩いた。
「やめろ」
ぴたり、と敵が動きを止める。
「神楽ちゃん、君があんまりにも抵抗すると――君の“大将”が危ないよ」
空気が凍る。
「どういう事だ!」
新八が叫ぶ。
男は薄く笑う。
「あいつのいる病室に、うちの部下を二人ほど置いてきた」
血の気が引く。
「今頃、眠ってるやつの、坂田銀時の首元に刃が当たってるかもな」
神楽の呼吸が止まる。
夜兎の聴覚が、遠くの気配を探る。
だが、ここからは分からない。
「嘘だ……」
新八が呟く。
「確かめてみるか?」
男が小型の通信機を取り出す。
映像が映る。
白い病室。
眠る銀時。
その横に立つ、黒装束の男。
刃が、銀時の喉元に触れている。
「……っ」
神楽の爪が食い込む。
銀時は眠っている。
気づいていない。
無防備。
「やめろォ!!」
新八が叫ぶ。
男は肩をすくめる。
「抵抗をやめれば、命は保証してやる」
保証。
そんな言葉、信用できるわけがない。
でも。
今、動けば。
神楽が、一歩前に出る。
「分かったアル」
低い声。
「私、抵抗しないネ」
「神楽ちゃん!?」
「だから銀ちゃん、傷つけないで欲しいネ」
まっすぐ、男を見る。
「好きにしろアル」
男が笑う。
「賢明だ」
新八が腕を掴む。
「ダメだ!!神楽ちゃん!!」
神楽は振り返る。
その目は、静かだった。
「新八」
「銀ちゃん、守って」
それだけ言って、武器を落とす。
敵が神楽の腕を拘束する。
連れていかれる。
「神楽ちゃん!!」
叫びは、空しく響くだけ。
新八は、走った。
病院の廊下を、転びそうになりながら。
集中管理室。
ドアを押し開ける。
「銀さん!!」
ベッドの上。
銀時の体が、異様に静かだ。
心電図の波形が、不安定に乱れている。
そばには、倒れた看護師。
銀時の口から外されたであろう酸素マスク。
「何で…何で……」
銀さんの唇が、わずかに青い。
モニターの音が、急激に変わる。
ピ――――……
「先生!!誰か!!」
新八の声が裏返る。
医師が駆け込む。
処置が始まる。
酸素マスク。
電気ショック。
新八は、足が震えて立っていられない。
「銀さん……起きてくださいよ……」
返事はない。
神楽は連れていかれた。
銀時は危篤。
頭が真っ白になる。
でも。
「……助けないと」
震える声で呟く。
自分一人じゃ無理だ。
走る。
病院を飛び出す。
向かう先は一一
連れてこられたのは、人気のない倉庫の奥。
拘束はされていない。
逃げられないと分かっているからだ。
中央の大型モニターが、唐突に点いた。
白い部屋。
規則正しく鳴るはずの機械音が、乱れている。
ベッドの上。
銀ちゃん。
顔色が、悪いなんてもんじゃない。
唇が青い。
胸が上下しているのかすら分からない。
医者たちが慌ただしく動いている。
コード。酸素。怒号。
「なんで……」
声が出ない。
足も動かない。
「いい顔だ」
背後で、ボスの男が笑う。
「お前は抵抗しなければ銀ちゃん助けてやると言ったはずアル」
嘘だった。
最初から、助ける気なんてなかった。
神楽の瞳から、静かに涙が落ちる。
怒りが湧く元気もない。
暴れられない。
ただ。
銀時が、冷たくなっていく映像だけが、頭を埋め尽くす。
「……私、ついてきたのに」
なのに。
守られてばかりで。
守れなかった。
膝が、床につく。
夜兎の血が騒がない。
ただ、胸が痛い。
「どうだ?お前の仲間がやられる気分は」
男が近づく。
その瞬間。
天井が、爆ぜた。
「神楽ちゃあああん!!」
聞き慣れた声。
煙の中から飛び出してきたのは、新八。
その後ろには――
「御用改めである!!!!!」
土方。
「弱ってる奴を人質にするなんて、なかなか趣味悪ィですねィ」
沖田。
真選組。
神楽の目が、わずかに見開く。
「新八……」
「遅れてごめん!!」
戦闘は一気に激化する。
真選組が前線を押し上げる。
神楽も、ゆっくり立ち上がる。
涙は、もう止まっている。
怒りでもない。
取り返す。
それだけ。
夜兎の一撃が、敵を薙ぎ払う。
沖田が背後を制圧し、土方がボスを追い詰める。
数分後。
倉庫には、倒れ伏す敵だけが残った。
拘束具を外される。
神楽は、新八の腕を掴む。
「銀ちゃんは?」
声が震える。
「銀ちゃんは無事アルか?」
新八の喉が詰まる。
言葉が、出ない。
目が赤い。
でも、無理やり笑う。
「……行こう」
それだけ言う。
病院。
集中管理室の前。
赤いランプが、点いている。
手術中。
神楽の足が止まる。
ガラス越しに見える、慌ただしい医療スタッフ。
「……間に合うアルよね」
誰に言ったのか分からない。
廊下の壁にもたれて、真選組も黙っている。
土方が煙草を取り出す。
「死なれちゃ困る」
沖田は無言で天井を見ている。
新八は、手についた乾いた血を見つめる。
守れなかったかもしれない恐怖。
神楽は、じっとランプを見続ける。
赤い光が、やけに眩しい。
時間が、進まない。
誰も、何も言わない。
ただ。
待つ。
坂田銀時という男が、戻ってくるのを。
万事屋の大将が、帰ってくるのを。
赤いランプは、まだ消えない。
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