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横浜ランドマークタワー爆発から時は遡る。
「プロタ! プロタ!」
先程まで串焼きの屋台に並んでいたパルタ人労働者ティランは、現場のある横浜ランドマークタワーの改築部分にて爆発に巻き込まれていた。
プロタとは、恋人の名だ。
ティランの背後から近づく者がいる。彼らこそ警視庁公安部と神奈川県警察警備部にいる警察庁警備局警備企画課『ゼロ』の直属部隊『作業班』だ。
──作業班はティランを手刀で気絶させた!
そうして目出し帽を被せる。
同時に、サイバー空間の細工も忘れない。
警察庁地下、公安中央指揮命令協力者獲得工作センターのサイバー捜査員がティランのパソコンにアクセスし、横浜ランドマークタワーの見取り図と爆弾の設計図を残していく。言うまでもないがこれは警視庁公安部の千代田春警部補の仕業ではない。
時を前後して、ティランの職場のパソコンを中継点とし横浜ランドマークタワーのかシステムにハッキングした形跡を作っていく。
ティランを犯人に仕上げる工作が完全に終わった頃、目出し帽を被らされ犯人姿になったティランは目を覚ました。
彼の元へ公安機動捜査隊が駆け寄る。
助かった、と彼は思った。保護を求めようとした。だが。
「動くな! 警察だ!」
「エ??」
「建造物侵入の容疑で現行犯逮捕する! 横浜ランドマークタワー爆発についても話を聞かせてもらおうか」
「違う! 私ハ!」
冷たく硬い手錠をかけられたティランは絶望した。
* *
神奈川県警察警備部公安第一課では、捜査会議が開かれていた。
凶悪な刑事事件であり刑事部の管轄であるかと思われたが、公安が主導権を握り、刑事部は蚊帳の外に置かれた。
捜査会議では、警視庁からは公安部公安総務課管理官の田村秀俊警視も派遣され、流れで同じく公安総務課サイバー捜査員の千代田春警部も加わり、さらには警察庁警備局警備企画課企画第一係長の桜祐警部も特別に出席を許された。
「被疑者、ティラン。22歳。男。建設業。パルタ人の労働者です」
「犯行の手口は?」
「ランドマークタワー改築現場にプロパンガスを充満させ、パソコンからの遠隔操作で過剰な電圧をかけて爆破する手口が用いられました」
「被疑者は建設業で、ランドマークタワーの改築を担当する立場にあった」
「被疑者の職場のパソコンから、横浜ランドマークタワーの見取り図と爆破に関する検索履歴、さらに犯行声明ともとれるメールが警察庁宛に送付されていました」
「待ってください! IPアドレスに不自然な点があります! まるで犯人のパソコンが真犯人に中継点にされたような!」
その詳しい資料を見た警視庁サイバー捜査員千代田春警部がたまらず挙手した。
「やめたまえ」
隣の席に座る千代田警部の上司である田村管理官がたしなめた。
「我々は共に警視庁から応援に派遣された身だ。パソコンに詳しいのは結構だが、私の立場も考えろ、わきまえたまえ」
千代田春は渋々座った。神奈川県警警備部の視線が痛い。
祐は千代田を心配そうに見ていた。
「ともかく、被疑者は検察公安部に送検することとする!
検察の公安部なら公安的配慮が働いてしまう。そう祐は思った。
* *
ニュースが日本全国津々浦々に流される。
『先日発生した横浜ランドマークタワー爆破テロ事件において、ティラン容疑者が、グローバル人材活用法案の関係で日本人にこき使われて腹いせに工事現場を爆破した趣旨の犯行予告を警察庁ホームページにメールしていたことが、神奈川県警への取材でわかりました』
『グローバル人材活用法案は、故黒部総理大臣の政権時に閣議決定され、一時立ち消えになりかけましたが、安い労働力を求める経済団体に押される形で、民自党の野村幹事長が民自党政務調査会に国会に提出させました。一度は成立しましたが、警察OBでもある畠山総理大臣、そして警察庁、法務省は治安の悪化を懸念する立場から本法案の改正案を審議する予定です』
『民自党野村幹事長は、記者団の取材に対し、テロ事件の発生は警察の怠慢だ、私はグローバル人材活用法案で日本の窮状を救ったのだぞと持論を展開しました』
『一方、警察庁は、グローバル人材活用法案を再審議する立場です』
『現在、神奈川県警は、捜査状況については答えられないとはさています』
……帰り際、電車の中で桜祐は千代田春に耳打ちした。
「今回の件、何か怪しいです、公安が関係しているかも」
「祐くんも公安、しかも元締めの警察庁警備局警備企画課の係長でしょ?」
「まあまあ、春さんも怪しいとは思わないんですか?」
「そりゃ思うよ。犯行声明、起爆装置のIPアドレスが第三者からのものだったもん」
「なら、僕の捜査に付き合ってくれませんか」
「もちろん、何かわかったら報告するね」
「今度のカラオケで報告会をしましょう」