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「……そうか」
短く、熱を帯びた声でそう呟いた後、彼は再び私の方へ向き直った。
その瞳には、先ほどまでの不安は消え
代わりに獲物を見据えるような、昏く深い光が宿っている。
「……そんなことを言われたら、もう、あまり優しくしてやれないからな」
シュタルク様はそう言って、私の額に熱い口づけを落とした。
その瞳には、今までの「汚したくない」という名の
自分に言い聞かせていた偽りの優しさはもう欠片も残っていない。
代わりに宿っていたのは
私を一口も残さず喰らい尽くそうとする、濃密で逃げ場のない独占欲だった。
それからの日々は、まさに「蜜月」という言葉が相応しいものになった。
シュタルク様は、もはや自らの衝動を隠そうとも、抑えようともしなかった。
執務室でコーヒーを運べば、書類を置く間もなくそのまま膝の上に引き寄せられる。
首筋に熱い唇を落とされ、敏感な耳たぶをわざとらしく甘噛みされる。
「ひゃ……!き、急に噛まないでください…っ!」
「……そんなに無防備に近づくからだ」
低く掠れた、鼓膜を震わせるような声で囁かれ
私は彼の腕の中で、心地よい戦慄に身を任せることしかできない。
かつての「汚したくない」という、あのもどかしいほど綺麗な言葉は
今や「誰にも触れさせたくない、俺だけのものだ」という剥き出しの執着へと姿を変えていた。
◆◇◆◇
季節が巡り、二人の距離が重なり合うのが当たり前になったある日の夕暮れ。
「シュタルク様、今日も本当にお疲れ様です」
いつものように、玄関ホールで帰宅した彼を迎える。
以前と違うのは、彼が私の姿を認めるなり大股で歩み寄り、私の腰を強引に引き寄せて
使用人たちの目さえ憚らずに深い接吻を落とすようになったことだ。
「あぁ。……今日も一日、君の顔を思い浮かべては、夜にどうやって可愛がってやろうかと、そればかり考えていた」
離れた唇から漏れる、不穏で、けれどこの上なく甘い囁き。
私は顔に火がついたように赤らめるけれど、彼を拒むことなど到底できなかった。
シュタルク様のキュートアグレッションは
満たされることで治るどころか、さらに深く、根深いものへと進化している。
けれど、私はもう、それを受けて不安になることはない。
彼が私を噛むのは、愛おしくて堪らない証拠。
彼が私を泣かせるのは、私を独り占めして、自分の色に染め上げたいという渇望。
「シュタルク様。今夜は、バラのお風呂を用意してくださったみたいですよ。……もしよろしければ、一緒に入りませんか?」
私の誘いに、シュタルク様は口角を僅かに上げ、獰猛な美しさを湛えて微笑んだ。
「……なら、そのバラの色よりも鮮やかに、君の肌を赤く染め上げてやらないとな」
不器用で、愛を拗らせていて、誰よりもその情念が重い私の旦那様。
私に向けられる彼の牙も、激しい執着も
その全てが私への最高の賛辞であり、愛の証。
私たちは、世界で一番歪で、そして世界で一番幸せな夫婦として。
今日もまた、甘く刺激的な
終わりのない夜へと溶けていくのだった。