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ヒーロー仮免許取得日当日。学校からバスに揺られて試験会場である国立多古場競技場に到着した。入試の倍以上いるんじゃないかと疑うほどの人、人、人の数。キモイくらいね。ゴキブリだわこれ。
「(こんなに綺麗で努力してる蝶が頑張っても報われないのに…こんなクズのゴキブリはみんな潰したくなるわ)」
【(船長がアタシの為に嫉妬してる…ッッ)】
「おい、コスチュームに着替えてから説明会だぞ。時間を無駄にするな」
「「「はい!!」」」
赤い目が一瞬薄暗く染まった。
大きなモニターがあるだだっ広い会場に、ヒーロー志望の他校達でギュウギュウに密集していた。
「えー…ではアレ、仮免のやつをやります。あー…僕ヒーロー公安委員会の目良です。好きな睡眠はノンレム睡眠よろしく。仕事が忙しくてろくに寝れない…!人手が足りてない…!眠たい!そんな信条の下ご説明させていただきます」
辞めればいいのに……同情しちゃう。
「ずばりこの場にいる受験者1540人一斉に勝ち抜けの演習を行なってもらいます」
「ザックリだな」
「まじか」
「現代はヒーロー飽和社会と言われ、ヒーロー殺しことステインの登場以降ヒーローの在り方に疑問を呈する向きも少なくありません」
ステインのヒーローとは見返りを求めてはならない、自己犠牲の果てに得る称号でなければならないという思想…共感するわ。
「まぁ…一個人としては…動機がどうであれ、命がけで人助けしている人間に何も求めるなは…現代社会に於いて無慈悲な話だと思う訳ですが…とにかく…対価にしろ義勇にしろ、多くのヒーローが救助・敵退治に切磋琢磨してきた結果事件発生から解決に至るまでの時間は今ヒくくらい迅速になってます。君たちは仮免許を取得し、いよいよその激流の中に身を投じる。そのスピードについていけない者、ハッキリ言って厳しい。よって試されるはスピード!条件達成者先着100名を通過とします」
てことは1440人落とせばいいってこと?こんな早くに潰せるなんて思ってなかったわ。試験内容は専用のターゲットを3箇所体につけ、2人を専用のボールをターゲット3箇所当てたら勝ち。逆に3箇所当てられた物は失格。
「えー…じゃ、展開後ターゲットとボール配るんで全員に行き渡ってから1分後にスタートします」
室内だと思われていた会場は言葉の通り見事に展開される。屋上や壁が広がったと思えば山やビル街、工場地帯など大掛かりな試験会場になった。
「各々苦手な地形、好きな地形あると思います。自分を活かして頑張ってください。一応地形公開をアレするっていう配慮です…まァムダです。こんなもののせいで睡眠が…」
よく人が集まる場所がいい。狙われやすい所に行くわ。配布されたものをさっさと身につけて移動する。
物事において情報がものをいう。情報があるのとないとじゃ動きが違う。他校の情報がない私達にとっちゃ不利な状況。逆に向こうは体育祭で映像見てるから私らの個性や弱点、スタイルが分かってる。雄英といった有名どころでヒーロー志望にとっちゃヘイトが集まりやすい。だから狙うのは雄英である私ら。ならそこを逆手に取ればいい。それに、私の場合は個性はパワー系と思われてそうね…
開始前のカウントダウンが始まる。
『 START!! 』
ウジムシのように湧いて出たルーキー達に向かって作った手榴弾を5つ投げる。カチン、と地面についた途端眩い光が襲う。突然の閃光に目を覆うルーキー達を行動不能にするべく、地面に向かって拳を振り下ろした。
「ばいばい…ルーキー達」
襲いかかる地鳴りと地割れ。悲鳴と絶叫の嵐にイライラした気持ちが一気に清々しい気持ちになった。
『通過者は控室へ移動して下さい』
「よし、疲れた疲れた」
一次試験が終了し、脱落した参加者が撤収する間に僅かながら設けられた休憩時間。A組はギリギリで全員合格。
賑やかな休憩時間にアナウンスが流れ、モニターを見る。すると大掛かりな建物が次々と爆破されて廃墟へと変貌。
『次の試験でラストになります!皆さんにはこれからこの被災現場でバイスタンダーとして救助演習を行ってもらいます』
「「パイスライダー…?」」
「バイスタンダー。現場に居合わせた人のことだよ。授業でやったでしょ」
「一般市民を指す意味でも使われたりしますが…」
『一次選考を通過した皆さんは仮免許を取得していると仮定し、どれだけ適切な救助を行えるか試させて頂きます』
モニターには崩壊した建物に一般人が多数映る。アナウンスが一般人である彼らは要救助者のプロと説明された。
『HUCの皆さんは傷病者に扮してフィールド全域にスタンバイ中。皆さんにはこれから彼らの救助を行なってもらいます。尚、今回は皆さんの救出活動をポイントで採点していき、演習終了時に基準値を超えていれば合格とします。10分後に始めますので、トイレなど済ましといてくださいねー…』
詳細を知らされない救護活動。ポイントの採点基準の内訳もされず眉を顰める。救護活動なんて苦手分類に入り、それ以上に気に食わないのは画面の向こう側の光景があの事件に似ていること。
「キモ…」
『敵による大規模破壊が発生!規模は○○市全域、建物倒壊により傷病者多数!道路の損壊が激しく救急先着隊の到着に著しい遅れ!』
待機室がまた展開される。
『到着する迄の救助活動はその場にいるヒーロー達が指揮を執り行う。一人でも多くの命を救い出すこと!!!それでは、START!』
「よし、救護って難し〜」
瓦礫に挟まってる市民を助けるために瓦礫を殴りで灰にしたら市民がビックリしてたけど…あれって普通じゃない?
【(普通なわけないじゃない…ただ船長が特別なだけ♡)】
無事合格!まぁ楽しかった!!
真っ暗…さっきまで部屋に戻ってベットに行ったハズ…
『お前のせいだ…』
え?
『あんたについて行ったのが間違いだった』
な、なんでそんな事言うの?
『この厄災が!』
やめて…
『化け物!』
違う…
『死ね!』
待って!違うの!!
『生まれてくるべきじゃなかったな』
『なんでお前なんかが生きてんだ』
『死ねばいいのに』
『よくのうのうと生きてられるな』
『船長なんてもう知らない!』
待ってよ!置いていかないで……ひとりにしないで…ヤダ…みんな死なないでよ…もういいから、何にも要らないから。また会いたいよ…また置いていくの?……え?”また”?
「あれ?何してたんだっけ??」
気づけば寮の自分のベットの上で全身汗だく、髪はボサボサ、極めつけはこれでもかというほどの涙…
「また会いたい…また置いていくのかって……誰の言葉?」