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終焉 上
雨の夜。練習場を出たところで、凛は待っていた。
冴を見つけると、その瞳には憔悴と怒りと、そしてどうしようもない迷いが揺れていた。
「……もう限界なんだ」
凛が先に口を開く。
「避けても、考えないようにしても……兄貴が頭から離れない。サッカーすら、集中できなくなってきてる」
冴は一歩近づこうとして、立ち止まった。
胸が張り裂けそうになる。
「……凛、俺も同じだ」
その告白に、凛はかすかに震えた。
「ふざけんなよ……! 兄弟なのに……っ」
拳を握りしめて俯いた顔に、涙がにじむ。
冴はたまらず凛の腕を掴む。
「俺だってわかってる。許されないことだって。けど、抑えられないんだ……お前が欲しい」
凛は必死に振りほどこうとしたが、力が抜けたようにその場に崩れ落ちた。
「……俺も……同じだよ」
搾り出すような声。
雨音が二人を包む。
許されない感情を認めた瞬間、胸の奥に広がるのは救いと絶望の混じった痛みだった。
冴は凛を抱きしめた。
強く、壊れるほどに。
二人とも泣いていた。
この先に未来はない。
兄弟だから、一緒にはいられない。
でも、この瞬間だけは――互いに縋らずにはいられなかった。
「凛……愛してる」
冴の言葉に、凛は震えながら応えた。
「俺も……でも、だから終わらせなきゃいけない」
二人は抱きしめ合ったまま、まるで最後を悟ったように目を閉じた。
サッカーで並び立つ未来だけを選び取り、禁じられた想いは雨に溶かす。
それが唯一の答えであり、二人に許された幸福と地獄だった。