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……というかレティ、一体どうしたの?
彼女は少し前まで頬を赤らめてアルフォンス様に『結婚したい』と言っていたのに、今は物凄い剣幕で喧嘩を売っている。
勿論、魔王が絡む呪物なんて、普通なら恐ろしくて関わりたくないと思うのは当たり前だ。
レティは自分が替えの利かない聖女だと自覚しているから、慎重になっているのも分かる。
危険な事がある場合、協力したいと思っても聖女の身に災いが降りかかるなら、自分一人ではなく皆が大きな損失を被ると理解してるからこそ、アルフォンス様の願いであっても辞退する事はあるだろう。
でも自分の手に負えないと思ったなら、「できません」と言えばいいだけの話だ。
なのにアルフォンス様に対して『結婚してほしいです』と言った直後に、こんなきつい言い方をする彼女に驚いてしまっている。
(……なんだかレティらしくない)
嫉妬してしまうほど憧れた聖女は、すべての者に分け隔てなく慈愛を注ぐ女性だ。
そして、彼女は私の優しい姉だ。
子供の頃、レティは自分にだけ出されたお菓子をハンカチに包み、『内緒よ』と私の部屋に持って来て一緒に食べていた。
レティはそれぐらい妹想いな人だと思っている。
確かにドレスの色では悲しい想いをしたけれど、それだけでレティを意地悪な姉とは思っていなかった。
彼女がもとから性格の悪い人だったなら、私はもっと嫌な目に遭っていただろう。
むしろ、周りのみんながレティを聖女として崇めるから、彼女は自然と「自分は敬われる存在で、ある程度の我が儘は許される」と思っていると感じている。
私の知る限り、レティは自分を褒める時に、双子の妹を〝ハズレ姫〟として引き合いに出される事を嫌っていた。
何かを褒める時、別の何かを落とさなくてもいいと知っているからだ。
レティは私を踏み台にして褒められても喜ばないし、そうする事で引け目を感じている私との間に溝ができる事を恐れていた。
そう思える人だからこそ、周囲の人はレティを『素晴らしい聖女』としてもてはやし、自然と私にかかる影は濃くなっていった。
それは仕方のない事だと思っている。
いくらレティが気を遣ってくれても、周りの人たちの心までコントロールする事はできないからだ。
少なくとも、子供時代から十代前半ぐらいまで、私にとってレティはそういう人だったという記憶がある。
そのあとは私も公務に参加しなくなり、双子なのに二人の道は完全に分かたれてしまった。
以前にレティが、城下町を自由に歩く私を羨ましいと言っていたように、隠していた本音があるのは分かる。
けれどアルフォンス様の前で私を「可哀想なフェリ」と言うほど〝下〟に見ていたとは思わなかった。
少なくとも少女時代の彼女は私を半身と呼び、この世でたった二人の姉妹と思ってくれていた。
だから私は周囲の人から比較されても、嘲笑されても、レティを憎まずに生きてこられた。
でも思い返せば、近年の彼女はどこか様子がおかしかった。
十八歳になって結婚を意識し、私にライバル意識を感じるのは仕方がない。
同じ顔をした双子な上、好きな人まで被ったなら尚更だ。
でも近年は「レティってこんな人だっけ?」と首を傾げたくなる出来事が多すぎる。
以前のレティなら、アルフォンス様に突っかかったりしない。
たとえ危険な指輪を前にしても、なんとか彼の力になり、協力して解決しようと思ったはずだ。
それに憧れの人の前で、自分の妹を卑下するなんてしないはずだ。
少なくとも私の知る聡明なレティなら、「自分の評価を上げるために誰かを悪く言えば、自分の評価は上がるどころか予想以上に下がる」と分かっているからだ。
私の一方的な思い込みである可能性もあるし、単にレティの事を分かっていないだけかもしれない。
けれど、双子の妹としての勘が違和感を告げている。
――彼女の身に何かが起こっている。
でも私には、何の役にも立たない感覚魔法しかない。
だからこそ、何もできない自分が歯がゆくて堪らなかった。
緊迫した空気の中、アルフォンス様はゆったりと動作で座り直し、微笑を浮かべる。
「聖女を危険に晒して申し訳なかった」
「…………いえ……」
素直に謝られ、レティは勃然として返事をする。
そのあと彼女は大きな溜め息をつき、少し険の抜けた表情で尋ねてきた。
「城の地下に魔石の本体があると仰っていましたね? それを見せていただく事は可能ですか?」
「ああ、お望みなら見せよう」
アルフォンス様は立ち上がり、私たち二人もそれに倣う。