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「レティシアは聖属性の権化と言っていいから、魔石の前に立ったら具合が悪くなるかもしれない。先にそれは言っておく」
「私から言い出した事ですから構いません」
「では行こうか」
そう言って彼が向かったのは続き部屋だ。
(どこへ行くのかしら?)
隣室は休憩用のベッドやソファセット、暖炉があり、ごく普通の作りの部屋だ。
アルフォンス様は壁際やサイドボード、マントルピースの上にある合計五つのランプに、順番に魔力を注いで灯りをつけていく。
ランプを決まった順番でチカチカと瞬かせたあと、彼は自身の親指を風の魔術で少しだけ切り、一滴の血を媒介に魔術の鳥を作り上げた。
その鳥がマントルピースの上に飾られてある絵に放たれたかと思うと、音もなく、暖炉がマントルピースごと回転した。
「わ……っ」
こんな仕掛けがあったと思わなかった私は、一歩後ずさって驚く。
けれどレティは動じていない。
「我が城にも、王族の血を使った魔術にしか反応しない隠し扉があります。私たちに隠し扉を開ける方法を明かしても、皇族の血がなければ無駄だから大丈夫という事ですね」
アルフォンス様は「その通りだ」とニヤリと笑った。
隠し通路は思っていたより広く、アルフォンス様が中に入った途端、ポポポポッと淡い光が宿って前後の通路を照らしていく。
多分これも、皇族の血に反応した魔術なのだろう。
「こっちだ」
アルフォンス様は先を歩き始め、私たちは彼のあとを追う。
私たちはしばらくまっすぐ歩いたあと階段を下り始め、少しヒールの高い靴を履いている私とレティは、手すりに掴まって慎重に進む。
石でできた通路の壁にはランプがあり、アルフォンス様が進むと彼の歩調に合わせるように魔術の火が灯っていった。
階段はどこまでも続き、地の底に向かっているのでは……と思えるほどだ。
「もう少しだ」
アルフォンス様が言って一分もしないうちに、私たちは最下層に着いた。
「はぁ……」
私は溜め息をついたレティに笑いかける。
「このままずっと下り続けるのかと思ってしまったわね。足が変になりそう」
いつものように話しかけただけなのに、レティは私を一瞥してからプイとそっぽを向いた。
その態度が私の胸を深くえぐる。
最近のレティにはモヤモヤした気持ちを抱えていたし、いきなりアルフォンス様に求婚する上に私を見下すし、ショックを受ける事ばかりだ。
けれどそれらの事より、なんでもない普通の会話を拒否されたほうがずっと堪えた。
私は泣いてしまいそうになるのを必死に耐え、努めて平気なふりをして尋ねた。
「ねぇ、レティ。私をライバル視するのは仕方がないわ。『抜け駆けされた』と思って不愉快だったわよね。……でも普通に話すのも嫌かしら? 私、レティとずっとこんな関係のままなんて嫌よ」
改めて尋ねたからか、彼女は渋々という様子で私を見てくれる。
けれど私とうり二つの顔には、なんの表情も浮かんでいなかった。
「今はそんな話をしている場合ではないでしょう? 魔石をなんとかしなければならない緊迫した状況なの。子供っぽい話はあとでしましょう」
すげなく言われた上に「子供っぽい」と言われ、私はカーッと赤面する。
「レティシア、その言い方はないだろう」
アルフォンス様が仲裁しようとしたけれど、彼女は頑なだった。
「魔石は聖女に良くない影響を及ぼす可能性があるのですよね? でしたら長居せず、さっさと用事を済ませてしまいましょう」
彼女の言う事も一理あると思ったのか、アルフォンス様は溜め息をついてから「そうだな」と言った。
そのあと彼は気遣うように私を見てくる。
アルフォンス様を心配させてはいけないと思った私は、ニコッと笑うと「大丈夫です。ありがとうございます」と口パクで伝えた。
「奥へ進もう」
彼は何か言いたげな表情をしていたけれど、また先を歩き始める。
地下通路の壁はレンガでできていて、足元もきちんと舗装されている。
頭上を見ると思っていたより大きな空間で、アーチ状のヴォールト天井が続いていた。
アルフォンス様が進むにつれ、壁のランプが灯っていく。
緊張して進んでいくと、次第に何かのうなり声のような低い音が聞こえるようになった。
「これは……」
レティもその音に気づいたらしく、彼女は表情を歪めて耳を押さえる。
「慣れない者にはつらいかもしれない。魔石が放つ波動の音だ」
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