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<<突然の出逢いと一瞬の別れ>>
太宰が堕ちた日____________________________
15歳だった 太宰治はその日 ひとりで街を歩いていた
陽も沈みかけた頃 彼の足は ある本屋の前で止まった
「……文庫本一冊で この虚しさは紛れるかな」
独り言を吐いて 店に入った太宰は
そこで一人の少年と目が合った
棚の端で膝を抱えて座っていた その少年は
ボロボロの鞄を脇に置き まるで空気のように存在していた
「……そこ 座っていい?」
「……好きにすれば」
目も合わせず返してきたその声に
太宰はなぜか息を止めた
「君 名前は?」
「陽塚 治」
「ふーん 陽塚くん 何読んでるの?」
「……何も 読んでない 考えてただけ」
「何を?」
「死ぬほど馬鹿馬鹿しいこと」
そう言って 少年――陽塚は 太宰の顔を一瞬だけ見た
その瞳に 太宰は 触れた気がした
ああ――この人も
僕と同じだ
それから 太宰は日々の中で 何度も手塚に会った
本屋 公園 河原 夜の廃ビル
どこにいても 彼は静かで 淡々としていて
でも どこか人の心を突き動かす そんな“隙”があった
「なあ 陽塚くん 君って なんでそんなに冷たいのに 優しいの?」
「……自分でもわからない」
「じゃあさ 僕が分かってあげる」
「……勝手にしろ」
そのやりとりが 太宰の中に じわじわと焼き付いていった
気づけば 他の誰といても つまらなくなっていた
15歳の夏が終わるころ
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殺気と暴力と混乱の中で
手塚の静けさだけが
唯一の“真っ当さ”に思えた
「……君と話すと 馬鹿な自分が少しだけ 救われる気がするんだよ」
「……そんなこと言うな 気持ち悪い」
「気持ち悪くても 僕は君を見てるから」
それは執着でも 恋でもなく
信仰に近かった
傷だらけの太宰が初めて
“奪いたい”ではなく “触れたい”と思った存在だった
「……太宰って めんどくさいよね」
「……でも君は 僕の隣に座るじゃないか」
「……それは 勝手についてきたんだろ」
「うん 勝手に 好きになった」
言葉にした瞬間
陽塚は一瞬だけ 目をそらした
それを見た太宰は
心の奥で
確かに “落ちた”音を聞いた
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