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ガルドのヴァンパイアによる力押しの洗脳によるクーデターで国の実権を握り、それに対抗する魔法省や貴族達の反逆軍を壊滅させた後、ガルドはキルゲ・シュタインビルドを連れて、フィア・ヴ・バラスト王女とユーフェミア公爵令嬢と専属メイドのイリア、そしてルシエ男爵令嬢を揃えて会議室に集合した。
「前王が平民地位向上改革に失敗し精霊信仰と魔法貴族の特権階級による腐敗が進行して数十年、ドカーン! と始まったのが今回のクーデター。因みに魔法で平民を支配して甘い汁を吸ってたのが今回死んだ魔法省と貴族達、そんな連中にふざけんな! と噛み付いたのが凡人代表の私ことガルド・ヴ・バラスト。当初は魔法で平民を虐げ、キャン言わせてた負け組魔法省貴族だが、戦いは数だよ兄貴って当の魔法省貴族は敗北、私の言うことをはいはい言うことを聞くことしか能のない洗脳国家が生まれる。そんなんじゃ収まらないってんで魔法省と貴族の反抗は続くよどこまでも! だけど光の帝国の聖兵が叩き潰してもう全滅! ことの始まりはヴァンパイアの力を持つルシエが、周囲を魅了しているのをシャルル家のブリッジが気付いて利用しようとしたのがきっかけ!」
「誰……?」
「ブリッジは魔法に関して深い知識を有していて、ルシエに魅了されたブリッジは己の状態を異常に思い、ヴァンパイアを知るに至る。そして私に王位を確実にしたくはないか、と持ちかける」
「……は? 王位を確実に、って。私は王位継承権破棄してない?」
「ブリッジはユーフェミアを特にライバル視し、王も、フィアに婿を取らせるべきと考えているのではないかと勘ぐっていた。ユーフェミアとフィアは敵で、本当の味方は私達です、とな」
「……確かにシャルル伯爵家は魔法信仰に拘っていたが、ヴァンパイアを御輿に上げたかった、と?」
「流石に黙ってられないよ、それは。確かにヴァンパイアは魔法の極致で、他者の血を啜らなければならないという点に目を瞑れば利点は多い。ただ、それと同じぐらいにデメリットも大きい。ヴァンパイアが実際どれぐらい生きられるかは正確にはわからないけど、王位に長く居座られ続けるのも頭が痛い問題だし」
「ふっ、国を塗り替え、自らもヴァンパイアとなる事で魔法の探究に勤しみたかったのかもな。国そのものがヴァンパイアを受け入れれば、ヴァンパイアの持つデメリットは大分解消出来る」
「ダメな奴等じゃん!? それ完全にダメな奴等じゃん!?」
「……姫様がそれを言います?」
「イリア、私は他人様に迷惑をかけたくて研究してるんじゃないよ! 一緒にしないで欲しい! 切実に! 私の魔学は学問であって宗教じゃないし!」
「フィア様。貴方はご自分が思っている以上にこの国にとって危険人物だったかわかっていないらしい」
「母上はヴァンパイア化させれば外交にも使えるだろう、とな。実際、私はそのつもりだ」
「……は?」
「正気!? ガルくん!?」
「ルシエ男爵令嬢から魔石を奪ったのは、ルシエ男爵令嬢がガルド様に従わなかったからですか?」
「例え直接見ていなくても推測を立てられる頭があるではないか? 答えはメダライズして奪った方が有用だからだ
「人の事なんだと思ってるのかな、ガルくん……」
「……ふむ、道具、かな」
間髪入れずに返された答えにフィアの唇が震えた。咄嗟に吐き出そうとした言葉は、しかし何も言葉にならず思考だけを冷やしていく。
「……ハッキリと言うねぇ」
「私は、俺は貴方を超えなきゃいけない。超える為には力が必要だった。姉上以上の実績が、姉上以上の何かが。けれどなかった。魔法の才も、政治も、学業も、どれも“人に出来る事”ばかりだった」
「だから私にも出来ない事をしようって? その為に誰かを殺して、化物の力を手に入れてでも?」
「国だ。俺には国が必要なんだ。だって、それは俺に与えられるもので、貴方が得るものじゃないだろう。俺が王太子だ、ならば俺は王太子であらなければならない。次の国王になり、国の頂点に立つ。ならば、この力は俺が持つべき力だ」
「……国を支配する為に? それが自分の力だと言う為に? ――つまらない奴ですね、ガルド」
フィアは吐き捨てるように言い放った。瞬間、フィアの顔からごっそりと表情が抜け落ちていく。
思考が冷えていく。感情が冷めていく。けれど熱を失った訳じゃない。奧へ、奧へと篭もっていくように。感情の熱を糧にして思考が冴えていく。
「……本当につまらない。私が貴方の邪魔をした? 邪魔されるような所にいた。貴方が悪いじゃないですか。私が何のために気狂いを演じていたと思うんですか。誰も、こっちに近づいて来ない、ようにじゃないですか。そこまで想像が出来ませんでしたか? ガルド」
フィアは呆れた目でガルドを見る。
「人に出来る事しか出来ない? 当たり前じゃないですか、人なんですから。それを精一杯やるのが人です。それを何ですか、私が化物ですから自分も化物にならないといけない? 誰がいつそう言って、いつそうしろって言ったんですか? あぁ、いえ。自分で決めたのですか? そうですか、それは良く悩んだ事でしょう。苦しんだ事でしょう。ですがガルド、何故根本的な事を考えなかったのですか?」
座っていたフィアが立ち上がり、少しだけ体を沈ませる。重心をいつでも前に傾けて、走り出せるように。
裾から魔力ブレードを手にして魔力の光を放ち、刃を形成する。どこまでも青空のように澄み切って、落ち着いた魔力の刃だ。乱れる事のない刃が私の心を示してさえいるかのようだった。
「同じ土俵で貴方が私に勝てる訳ないでしょう」
今日の天気を語るような気軽さでフィアは言い切る。そんなフィアの言葉にガルドの表情が激しく歪んだ。しかしその口元には笑みが浮かんでいる。
「姉上……」
激しく顔を歪めるガルドに、フィアは斬り捨てるように言葉を続けた。
「貴方はただ良き王になれば良かった。どこまでも人らしく、よく悩み、よく話し、人の手を借りながら目指せば良かった。一体、何の為の婚約者ですか? 何の為の側近ですか? 何の為の貴族であり、王族であり、親であったのですか? 人は積み重ね、受け継ぎ、続けて行く事も宝だと言うのに」
「……貴方にはそれが貴く思えたのかもしれない、だが」
「その価値も見えなくなった曇りきった眼など、王の瞳ではないのです。勘違いしないでください、ガルド。他人が貴方と私を比べようとも、私は貴方の言う化物です。ただ化物でいさせてくれれば良かったのです。何故、同じ土俵に上がったのです。そんなに私と競い合いたいのですか。それこそ愚かでしょう」
フィアはただ残念な思いから首を左右に振る。
「自分の異常性なんて、自分が一番わかってる。だから身を引いた。この国にとって求められたものを邪魔しないように。ただ私はひっそりと、私の夢を追いかけられればそれで良かったのに」
「幼いな、姉上。それすら許されない状況だったというのに」
「そんなに化物に国を治めさせたいですか。人でなしが治めれば苦しむのは民だと言うのに? そんな事もわからなかったんですか? ガルド」
フィアはガルドを強く睨み付ける。奥歯を砕かんばかりに力を込めれば、歯ぎしりの音がフィアも自分の耳にも届いた。
「ヴァンパイアの力で国を支配すれば良い? 力による支配が何を生むのか想像もしないので? 他国に知られればどのように見られるかも?」
「その為の力ですよ。どのように見られようと、ならば全てを呑み込む、全てを支配する……そう、だからこそ強い王になれば良い! 全てを統べてこそ、王だろう! 王は強くなければ臣下の欲望を抑制できず破滅する」
「随分と偏った思想ですね。教育係はちゃんと仕事出来ていたんですか? それとも洗脳にでも遭いました? そういえばルシエの魅了がかかっても効いていないとか言ってましたね。その思い込みは自前? それとも既に誑かされていたと?」
「値踏みするなよ、この私を」
「安く買い叩かれるような事をするからでしょう。いっそ化物の私に首輪を括り付ける事ぐらいはしてくれればとは思っていたのですがね……流石に高望み過ぎましたね」
ままならない事だと、フィアはこれ見よがしに鼻で笑ってみせた。
「まったく、父上も母上もお嘆きになる事でしょう。生まれた子が揃いも揃って不出来とは。王国の未来もどうなったものかわかりませんね」
「……何故、です?」
「はい?」
ガルドは鋭い目つきでフィアに問いかけてきた。
「優れた者が王になるのならば、自らが優れていると自称するならば、貴方が最初から王であれば良かったのに」
ガルドの瞳はフィアを捉えて離さない。
「俺が王太子だ。王太子であらなければならない。だが、王とは何だ? 誰にも認められぬ王とはなんだ? 望まれぬ王とは何の為の王だ。俺が望まれたのは国を導くと認められたユーフェミアの為の箔付けだ。俺には何もない。何もなかった、与えられるものしかなかった。そこに俺というものはいない。ただ王太子だ、ただの王だ ただの、何者にもなれない俺だ」
「……それが親からの愛というものです」
「愛、愛だと、これが愛だと。こんなものが愛だと? 違う、こんなものが愛であってたまるか。王という楔を作る為の、ただ生贄を選ぶだけの見せかけだ」
「王とは贄ですよ。昔からね。だからこそ愛の形も歪む。しかし歪んでいようと愛は愛」
「ならば俺は俺の道を自らで決める、欲しいならば奪い、この手に収める。全てを呑み込まなければならぬのなら、人である事など、何の価値すらもない」
「……そう。なら仕方ないですね。貴方の王道がそうだと言うのなら、私も王道をもって語らねばならないでしょう。王とは民の礎、国を為す為の楔、そこに個は要らない。安寧を維持し、国という容れ物が壊れてしまわないように、枯れ果ててしまわないように。えぇ、王が生贄だと言う貴方を否定はしません」
「貴方が、父上が、母上が、この国が俺に押し付けた全てた。それが俺という全てだ」
「知らねば幸せになれた事でしょう。そして知らなければ王としてはなり立たない。王とは幸せにはなれない。個である事を望んでしまった時から、きっと永遠に。王には王であるという幸せしかないのですから。国の礎となれぬと言うのなら、私を超えるというのならば屍を踏みしめてみせなさい。それが永遠に叶わぬと幻想に呪われながら、己を悔いなさい。私達は最初から不幸だったのだと。それでも飲み込めずに生きれぬというのなら――ここで果てなさい。それが〝人でなし〟である私からの慈悲です。ガルド・ヴ・バラスト」
ガルドに魔力ブレードを突きつける。
「一応、聞いておこう、姉上。貴方は、それで何をするつもりだ?」
「何をする………?」
今までの語りからすれば、今の光景に至る理由など分かろうものだ。だというのに、自分の首元に向けられた魔力ブレードの切っ先が目に入っていないかのようなガルドの口振りに、フィアの眦が釣り上がった。
「決まっているッ、貴方を止めるためだよ。ガルド」
その言葉と共に、フィアの魔力ブレードが首元へ近づく。
「こんなやり方は間違っている! 人の気持ちを利用し、踏みにじり、それに何の呵責も覚えない。これのどこが王だと? こんな光景しか作り出せない貴方に何が変えられるって言うの?」
否定的な言葉を叩き付ける。
ひょっとしたら、と少しだけ思った。しかし、魅了による洗脳などという人道を無視したこんなやり方でしか、何かを変える事が出来ないのならば、それはあるべきではない。
期待を裏切られた反動か。
フィアはガルドの事を、そう決め付けた。
だから―――
「ガルド、貴方は間違っている。だから、私が貴方を止める―――!」
それは、まるで使命感のように。
そうしなけなけらばな、ない、と胸が軋む程に強く思いながら、フィアはガルドを断罪するかのように糾弾した。
だが、そんなアルガルドの言葉に返ってきたフィアの言葉は淡白なものでしかなかった。
「結局、それか……」
「何?」
怒りもせず、反論もせず。
ガルドは、ただ、フィアの言葉をつまらなさそうに一蹴する。
「俺を間違っているといい、人身御供のような前政権を正しいと言うわりに、貴方の口から出る言葉は他者の否定ばかりで、自分の言葉がない」
「確かに、こんな間違ったやり方じゃなく、正しいやり方で中から王国を変えるのを期待して……卑怯かもしれない。だから、だからといって貴方が間違っている事には変わりないッ。だから、私が―――」
「聞き飽きた。綺麗事を綴ってないで、掛かってくると良い」
得意だろう? と嘲笑うガルド。
「私と同じように、力で物事を押し通すやり方が」
「ガルド……!!」
「卑怯というなら、そうなのだろう。だが、言ったはずだ。結果こそが全てだ、と。むしろ、私には、貴方の方こそ不可解だ。姉上」
その言葉の意味が分からず、フィアは訝しそうな表情をする。
「私が卑怯で卑劣と言うならば、それなりのやり方や立ち回りがあっただろう。だというのに、貴方は何も考えず、上辺だけの理想の王を語り、俺に刃を向ける」
相手を卑怯者と罵り、そういう存在だと理解していながら、フィアは何の対策もせずに、真っ正面からガルドに剣を向けた。
「それは何故だ? 姉上」
「そ、それは………」
答えに詰まる。
どうしてか、と問われれば、フィアには答えられなかった。
―――いや。
答えたくなかった。
「答えられないか? ならば、私が代わりに答えてやろう」
そんなフィアの心情を知ってか、ガルドがフィアの心を見透かすように口を開いた。
「どうでもよかったんだろう?」
瞬間。
フィアの身体中から熱が消えた。
あれほど荒ぶっていた感情が凪ぎ、代わりに心臓が痛い程に激しく鼓動を刻み出す。
「本当は何もかもどうでもいいと思っているからだろう? 勝つのも敗けるのも。王国も、民も、未来も、道理も誇りも、信念も願いも、何もかも。ただ自身の欲求を満たす知識欲が貴方を動かす。王たる私に、王がどうあるべきか知っているかのように剣を向けて、語っているにも関わらず、貴方は自身が王になるという選択肢を最初から除外している。魔法が使えないから? 民の笑顔のため? 政治? そんなものは後付つけの言い訳に過ぎない」
ガルドはフィアに向けて、はっきりと言う。
「貴方は魔学を探求したかった。だから残りは全て切り捨てた。しかし道徳や良心が痛むから安全圏からこうやって私の方法に口出しする。殴られないと知っていながら、理想の王を語って自分が責任を取ることもなく、ただ相手のやり方を批判する。代替案すら出さずに。それを人はなんと呼ぶか知っているか?」
ガルドは嘲笑を込めて言う。
「卑劣で、卑怯」
「……」
「貴方が化物による統治を否定するなら、まずは貴方が人のまま王となる方法を見つけなければならない。それができないのならば、貴方はこの国の行く末に関わる資格がない。人を統べる資格がない。自身の言葉の行動と責任が持てないのなら、人の行動を阻むことすらおこがましいのだ」
「……私は……わ、私は」
フィアは震えた手で魔力ブレードを収めて、席に戻る。
「さて、キルゲさん、姉上、ルシエ、ユーフェミア、イリア。ここからは現在の王として、国の行く末の話をしようと思う。既にプランは練っている。これからの洗脳国家バラストの輝かしい未来を掴むために、忌避のない意見を聞かせてくれ」
ガルドは手元の資料を全員に配った。
「議題は『インフラ整備』、『軍事増強』、『資源調査』だ」