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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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キルゲ・シュタインビルドはエーゼ・ロワンから知らされた『アドマイヤ・ミケランジェロ生徒会長が婚約者を刺して逃亡した』という情報で、王都に戻ってきていた。

 現在、王国では祭の途中で多くの国家から来賓を招いていて、問題が起これば政治的に大変なことになる。


 光の帝国が王都の治安維持を委託されているので、問題が起これば光の帝国が軽んじられる原因になりかねない。またキルゲ・シュタインビルドと入れ違いで黒崎創建は一時的に別の場所へ派遣されている。


「何やってんのよあの女は……」 


 アイリスディーナ・ベルンハルトは自室で舌打ちと共に言葉を吐き出した。 


「アドマイヤ・ミケランジェロ生徒会長は王都の北に逃亡したようね。おそらくまだ王都は出ていないわ」 


 事務的にそう言うのは、ソファーに腰かけているエーゼだった。 アイリスディーナは苦々しい顔でエーゼを見て、もう一度舌打ちした。 


 ミケランジェロによる婚約者殺人未遂の詳細が、アイリスディーナの耳に届いたのはエーゼのおかげだ。

 ニャルラトホテプ教団壊滅を狙うアンダージャスティスの副リーダーという立場でありながら、アンダージャスティスを利用する光の帝国のキルゲ・シュタインビルドを心酔している。

 エーゼのアンダージャスティスの副リーダーという立場から得た情報網は役に立つ。ニャルラトホテプ教団の噂も数多く提供してもらった。 


「ミケランジェロ国王はミケランジェロ国の問題として処理をしたいようです。王国へは手出し無用の要請を出したわ」 

「怪しいわね」 

「ええ。王国の法で裁くこともできますが、両国の関係に影響が出ます。おそらく、介入は控えるでしょう」 

「ま、お父様は様子見するでしょうね」 


 アイリスディーナは事なかれ主義の父の顔を思い浮かべて、また舌打ちした。 


「アドマイヤ・ミケランジェロの婚約者はミケランジェロ王国の公爵家次男クルーテオ・テオ・テスカトリポカです。捕まれば厳しい罰が科せられます」 

「王族だから死罪はないとしても幽閉か流罪か……。とりあえず、ミケランジェロ王国より先にアドマイヤ先輩を確保して話を聞きましょう」 

「待ちなさい。この件に関してアドマイヤ生徒会長は誰にも話していない。私たちが介入し、両国の問題となることを避けたんでしょう」 

「だから、何?」 


 アイリスディーナの瞳が、エーゼを見据えた。 


「安易な行動は控えなさい」 

「つまり見捨てろと?」 

「それも視野に入れるべきよ」 

「何それ、アイリスディーナ先輩も色々と事情があるんでしょうけど、見捨てるのは……なんというか、嫌だ」 

「嫌って……貴方達そんな仲良かったっけ?」

「だって、これ完全に嵌められたでしょ。学校が燃えた時も変な奴ら一杯出てきたし」


 エーゼはキルゲ・シュタインビルドの方を向く。


「……キルゲ様は、どうするべきと考えてますか?」

「秩序を維持する者として、アドマイヤ生徒会長を追いかけましょう」

「つまり、私はアンダージャスティスとしてじゃなく、光の帝国キルゲ・ジャスティスの副官として探すというわけね」

「はい、そうなります」

「アンダージャスティスに流して良い情報はありますか?」

「貴方が本当は私側だとうこと以外、全てアンダージャスティスに流してしまって構いません」

「わかりました」

「……」


 アイリスディーナは気に入らない様子で、二人を見る。


「何かしら? アイリスディーナ」

「別に? なにもないけど?」

「ふっ、貴方は腹芸なんて無理でしょう」

「馬鹿だって言いたいの?」

「馬鹿とか、そういう話じゃない。人には得意、不得意がある。貴方は……なんというか、感情的で直情的。考えて暗躍するタイプだはないし、人を騙して毒を仕込むタイプじゃない。貴方は、全ての情報が揃って、何をしたら最善の結果になるかわかったあとで一気に集結に導くために動いてほしい」

「……それで納得してあげるわ。確かに私は頭より体を使うほうがあっている」

「貴方の欠点は私は埋める。だから私の手が届かない部分を貴方が助けて」


 その言葉にアイリスディーナは笑みを浮かべる。


「上等よ」


 キルゲ・シュタインビルドはその二人を見て呟く。


「良いチームワークですね。世界の平穏のためにできることを分担してやっていきましょう。最終確認です。私は外交官と治安維持組織のリーダーとして来賓の警護をしつつ、聖兵に指示を出します。エーゼさんは情報収集して、アイリスディーナさんは戦闘準備。よろしいですね?」

「はい」

「了解よ」

「では、作戦開始」



「暗躍の結果、色々とわかってきたわ」 


 エーゼは前を歩くアイリスディーナの背中を見ながらそう言った。 

 アイリスディーナは魔法のランプを持って螺旋状の暗い階段を下りていく。 もうずいぶんと下りている。冷たい湿った空気が、ここが地下だと知らせる。 


「クルーテオ・テオ・テスカトリポカはニャルラトホテプ教団と繋がっている」 

「そうなの」 

「問題は証拠がない」 

「国と宗教が絡む問題だから普通の証拠では足りない」 

「なるほどね。お父様にきつく言われたもの。ニャルラトホテプ教団と聖王教会のクルーテオを結びつけたいなら、国民と周辺国家が納得する理由が必要だって」 

「聖王教会に異端認定されると、終わりだものね」 

「聖王教会全ての門徒がニャルラトホテプ教団と関わっているわけではないわ。上層部のほんの一部が繋がっているだけでしょう」 

「だから厄介ね」 

「そうね」 


 コツ、コツ、と二人の足音が階段に響いていく。 


「お父様は聖王教会とはもめるなの一点張りだし。だったらニャルラトホテプ教団はどうするのよ」 

「今まで通り放置するつもりね」

「今まで通り……?」 


 アイリスディーナの足音が一拍遅れた。 


「アンダージャスティスも、ニャルラトホテプ教団も全部も色々な場所に潜り込んでいる。王は動けない」 

「……ま、今はいいわ。そういえばミケランジェロ国王の様子が少し虚ろだったわね」

「虚ろ……」 

「私は今回初めてお会いしたから分からなかったけど。少し甘い匂いもした」 


 甘い匂い。 

 エーゼには心当たりのある薬品があった。 


「もう、手遅れね……薬品による傀儡化か。なら心置きなく殺せるわね」 

「ニャルラトホテプ教団は動き出している。お父様のやり方だと、いずれこの国も……」 


 そして二人は無言で階段を下りた。 


「着いたわ」 


 アイリスディーナが足を止めたそこには、深い縦穴と梯子があった。 


「王都地下道の入り口の一つよ。知っているでしょ?」 

「遠い昔、王族の脱出用につくられた王都全域に広がる地下道ね」 

「そうよ。地図とか鍵とか暗号とかいろいろ紛失して今はもうただの迷路だけど」 

「それで、なぜここに?」 

「あなたを始末するためよ」 

「できると思っているの?」


 そして腰の剣に手をかけて……笑った。 


「冗談よ。ちっともビビらないのね」 

「貴方より強いつもりよ」 

「この地下道にアドマイヤ先輩が逃げ込んだ可能性があるわ。今から探しに行くわよ」 


 早速梯子を下りようとするアイリスディーナ。 


「待ちなさい」

「何?」 

「このこと、誰かに伝えているの?」 

「伝えるわけないじゃない。止められるもの」 

「迷宮になっているけど脱出できる確信はあるの?」 

「簡単よ。来た道戻ればいいだけじゃない」 

「私は仕事があるの。思い付きで巻き込むの止めて」 

「嫌よ、付き合いなさい」 


 二人はしばらく睨み合った。 


「文句があるなら帰りなさい」 


 アイリスディーナがエーゼを置いて階段を下りていく。 エーゼはもう放置して帰ろうかと思ったが、まだアイリスディーナに死なれては困る。 


「ちっ、わがままお嬢様が。お守りも仕事ね」 


 小さく呟いて、アイリスディーナの後を追った。 

異世界侵略部隊隊長キルゲ・シュタインビルトの華麗なる活躍

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