テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
◆ 第4章 溶けていく時間 目を開けたユメトが最初に見たのは、
見慣れた夢の空ではなく、真っ白な天井だった。
そして――
「……ユメト?」
震えた声で自分の名を呼ぶ遥だった。
現実の遥は、夢の姿と同じで、
でもどこか……少しだけ幼いようにも見えた。
「……ここ、どこ?」
「俺の部屋。お前、突然俺の前に落ちてきたんだよ……!
本当に……死んだかと思った……!」
遥は真っ赤な目をしていて、
泣いたあとだとすぐに分かった。
ユメトはゆっくり起き上がる。
身体は重くない。痛くない。夢と同じように動く。
――でも。
(なんか……変だ)
指先が、薄く透けていた。
「……遥。なんか、俺……」
「うん……気づいた」
遥はユメトの手をそっと包み込む。
触れられる。温かい。
でも、その手は少しだけ透き通っている。
「夢の住人が、現実に長く留まれないんだって……。
ずっとこのままいたら、きっと……消える」
遥の声が震えた。
ユメトは微笑んだ。
「そっか……。やっぱ、戻らなきゃダメなんだね」
「でも、戻り方が分からない……!」
遥は歯を食いしばる。
ユメトは優しく言った。
「じゃあ、探そ。
一緒に、夢の世界に戻る方法」
その夜から、二人は毎晩手をつないで眠った。
● 毎晩、夢の世界に入ろうとする日々
夜。
「……ユメト、寝た?」
「んー……今寝るとこ」
ユメトは遥の隣で目を閉じる。
二人で眠れば、また夢の空へ戻れる気がしたから。
けれど――
その夜の夢は、漆黒だった。
何も見えず、何も感じない。
夢の世界へ続く道は、固く閉ざされているようだった。
● 数日が経つたびに、ユメトは薄くなっていった
遥が朝目覚めると、ユメトの身体は前日より透明になっている。
「……ユメト、指……ほとんど見えないじゃん……」
「ははっ……手袋したらわかんないよ」
冗談のつもりでも、声が震える。
遥はその冗談に笑わない。
それが逆に胸に刺さる。
「大丈夫……また夢の世界に戻れるよ。
だって、俺と遥の夢はつながってるから」
ユメトは言う。
「……うん。俺も信じてる」
遥は小さく返し、ユメトの透けた手をぎゅっと握った。
● そして――その夜。
二人が眠りにつくと、ようやく夢の景色が戻った。
白い霧が晴れ、雲が裂け、
そしてその中から黒い翼を持つ男が降りてきた。
「やっと見つけた……ユメト」
夢の世界の管理者――クロウ。
「クロウ……!」
ユメトの顔がぱっと明るくなる。
だが、クロウの表情は険しい。
「ユメト。この扉だ」
彼が指さすと、
夢の空に古い木の扉が浮かんでいた。
「この扉をくぐれば、夢の世界に戻れる。
でも――二度と、遥の夢には入れない」
遥は息を呑んだ。
ユメトの喉がキュッと締め付けられる。
「そんな……」
夢の中の風が止まり、世界が静かになった。
ユメトは震える声で言った。
『……1日だけ待って。
ちゃんと、遥にさよなら言いたいから』
クロウは目を閉じ、短くうなずく。
「分かった。明日の夜、ここで待つ」