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「むーっ!」(ぴあーにゃを盾にするとは卑怯なりっ。捕まる前に変態だけでも撃ち落とさないと!)
戦況をしっかり把握しているアリエッタは、既に捕まる前提で行動していた。行動の方向性には難ありかもしれないが。
そんなわけで、ケインに向けて撃ち出す雹を大きくし、さらに多く発射し始めるのだった。
「ちょっいてえ! でけえよ!」
「うひぃぃぃ。アリエッタちゃん何してんの。あーしにも掠ってるってばあっ!」
数が多くなれば、ケインに当たらない雹も増える。ケインの足元を押さえながらうずくまっているラッチにも、その流れ弾の被害が出始め、当たらなかった分は背後の町に降り注ぎ、被害をさらに大きくしていく。
その事に気付いたアデルが、茫然としながら呟く。
「こんな町の滅び方、見たくなかったな……」
ふわふわもこもこに加えて雹と穴だらけの町。その原因である悪意の無い一般人の女の子2人。
どう処理すれば良いのか分からないので、気絶中のネフテリアに丸投げするしかないと考え、深いため息をついていた。
そして、どうか王都には引っ越してこないでほしいと願うのだった。
「もう少しですピアーニャ総長!」
「だいじょーぶなんだろうな! どこにもぶつからないよな!? あとでおぼえてろよ!」
空中では、オスルェンシスの言うとおりに、目隠しされたピアーニャが真っ直ぐに突き進む。それ程距離は離れていないのに、非常に長く感じるのは、理不尽な扱いによる緊張からだろうか。
もし何かが飛んできても、オスルェンシスならば防御は問題無いと信じているので、強引に止めさせる事はしていない。文句を言っているのは、自分からアリエッタに向かっているのが嫌だからである。
「む、このままではマズイか。総長、左!」
「うおい! いえばわかるから、わちをまげるなあ!」
オスルェンシスは、影で掴んでいるピアーニャの体を操縦桿のように倒し、移動方向を示した。
丁度アリエッタに向かって飛んでいたので、真っ直ぐ進むとぶつかる事に気付いたのである。
抗議しつつも動かされた通りに『雲塊』を動かすピアーニャ。
そしてついにアリエッタに接近した。
「パフィさん!」
「のよ!」
「わぁ!」(もはやこれまでっ。無念なりぃ!)
パフィがすれ違いざまに差し出された影に掴まる。そのまま影を引っ張って『雲塊』に乗せる事に成功。
こうしてアリエッタの捕獲と、パフィの救出?が完了したのだった。
捕まったアリエッタには、すぐさまピアーニャがぬいぐるみの様にあてがわれ、大人しくしているようにと念を押した。怒られている事を察したアリエッタは、ちゃんと謝り、ピアーニャを抱っこして、パフィの隣で大人しくする事にした。
「うぅ、はなせぇ~……」
「……というわけで、ニーニルに仮宿の設置、復旧と清掃の人員が多数欲しいのですが」
「よーしみんなで行くぞ。兵士半分連れて行く!」
「テリアとシスにはお説教ね! サンディちゃんが来てるのに言わないなんて!」
「ちょっと王様!? 何言ってるんですか!」
騒動が一旦落ち着いて、王城に戻って報告をしていたアデルだったが、ガルディオとフレアはそれどころではない様子。なにしろ2人の密かな初恋の相手だったサンディが、パフィの元に来ているのだ。会いたくて仕方がないのだろう。
「こうなったら最後の手段だ。ニーニルをストレヴェリーの町に改名し、住んでもらおう」
「最後の手段早いな!? っていうかニーニル消す気ですか!?」
「それは良い案ね!」
「良い案じゃねえですよ!」
王と王妃のとんでもない案に、アデルとボルクスが全力でツッコむ。
その後ろで、ツーファンとコーアンが縛られ、逆さに吊られていた。暴れまわって建物を壊した罰である。
「良いじゃない。住人にはピアーニャ先生とわたくしが立候補します」
「王妃様はダメでしょ!」
「なら私がいこう」
「もっと駄目だろ国王様は! 立ち上がんな!」
無礼だとか不敬だとか考えられない勢いで、無駄な会話が進んでいく。
その横から、棒立ちになっているディランが口を開く。
「ピアーニャガイクナラ、ワタシモイコウ」
「ちっ、まだ調教が完璧じゃないようね」
「舌打ちした!? ってゆーか調教ってハッキリ言うな!!」
王族に、復興しないといけない町への移住希望者が多すぎる。
流石に城を開けるのは問題だという事を思い出したガルディオが、少し考えて別案を提示した。
「城ごと引っ越すというのは」
『やめえええええい!!』
この後、ボルクス達が必死になって王族を説得するのだった。
「なるほど、そんな事が……」
「店には被害はありませんでしたけど、外に出たらモコモコだったので、ビックリしましたよ」
ニーニルの町がメレンゲに埋め尽くされた事件から数日が経ち、ミューゼの家にフラウリージェのノエラとルイルイがやってきた。
ミューゼの家だけは、周囲が大惨事な中メレンゲを少々被っているが全くの無傷で残っていた。なので、アリエッタ達は国が仮で用意した宿には移動せずに、普段通り過ごしていたりする。
「まぁ、実害ではなく精神的な方向で被害はありましたけど……」
そう言うと、ルイルイは沈痛な面持ちで顔を背けた。
隣のノエラもため息をついて、横の方を気にしながら顔を青くしている。
「まさかムッキムキの男性に、可愛らしい服を注文されるとは思いませんでしたわ。あの方達は、なぜサイズを計る時に全部脱いで、見せつけるようにポーズをとったのでしょう」
「あの変態達はまた……」
「全部って、大丈夫だったのよ?」
「はい、凄く逞しく…って思い出させないでくださいませ」
「聞いてないのよ、何を思い出したのよ……」
青ざめながら頬を赤くするという器用な事をやっているノエラを見て、ミューゼとパフィは苦笑いしか出来ない。
メレンゲ事件のアリエッタ捕獲後、雹でボッコボコにされたケインは、治療魔法で打ち身を治してもらいながら、脅し半分でフラウリージェの場所を聞き出していた。その後日、王城から出てきたコーアンと合流し、店に突撃したのだった。
その日、フラウリージェは絶叫に包まれた。恐怖に満ち溢れた悲鳴だけでなく、歓喜に満ちた黄色い声も混ざっていたのをノエラが聞き逃さなかったお陰で、採寸や試着はむしろ捗り過ぎたという。
「ただ1つ、筋肉の膨張で破れないようにするのが難しかったですわ。伸びる布と糸が必要ですもの。ちょっとルイルイに無茶な注文してしまいましたわ」
「あはは……3日だけサラダが辛かったです……」
「サラダ?」
「アイゼレイル人は食べ物~というか、食べる葉によって、産み出す糸の質が変わるのですわ」
『葉っぱ……』
ノエラの説明に、パフィとシャービットが反応する。
アイゼレイル人は、丸い尻尾から様々な糸を出す事が出来る。そして身に着けている糸を自由に操る事も出来るという能力がある。
ここしばらく膨張する筋肉に耐えうる伸縮性のある糸を作るため、ヨークスフィルンから弾力のある特殊な葉を取り寄せていたのである。
「そのせいで、不味くてムニムニする葉っぱばかり食べてたんですよー……やっと解放されたので、何か美味しい葉っぱが食べたいです」
「それじゃあ、これ食べるといいの」
サンディがげんなりしたルイルイに差し出したのは、皿に盛りつけた赤い葉。
「これは?」
「最近調味料に使ってる葉なの。これは甘くしてあるの」
「甘く…してある? はむっ……おいしい!」
一口食べて気に入ったのか、ガツガツ食べ始めた。
その姿を見て安心したノエラは、先程から気になっていた事を聞く事にした。
「ところでそのぉ~……なんで国王様がここに?」
「やっと話題に出してくれたか! 反応が少ないから不安でどうにかなりそうだったぞ!」
「寂しがりやかっ!」
「ひぃっ! パフィさん! 国王様にそんな言葉で……」
「こんなの近所のおじさんおばさんなのよ」
「王都は近所ではありませんわ!? それにおじさまとおば……ええええええ!? 王妃さまああああ!?」
結局ガルディオとフレアは、城の側近や兵士達による説得(物理)を振り切り、揃ってニーニルへと来てしまっていた。目的は当然、サンディとの対面である。
部屋の隅で嬉しそうにサンディとお茶していたのを、ノエラはうっかり目撃してしまっていたのだ。フレアは後ろ姿だった為、その正体を知ったのは今になったが。
2人とも兵士から逃げ、町に溶け込むために、身なりを一般の服に整えている。その為、顔を見なければ正体は分からないのだ。
その時、家の扉が勢いよく開き、ズカズカと入ってくる足音が聞こえた。
「国王様! 王妃様! こんなところにいやがりましたか! 帰りますよ!」
『え~~~~』
「心底嫌そうな顔すんなあああああ!!」
ミューゼの家に王族の権威といった物は持ち込まないようにしているのか、迎えに来たオスルェンシスとのやり取りも、極度に気楽なものになっている。
先日からサンディとふれあう事が出来て結構満足したのか、縛られながらも王城に変える事にしたようだ。
「サンディちゃん、今度はお城にきてね~!」
「ご希望とあらば、歓迎パーティーを開きますからなー!」
「ありがとなの~!」
「ほらキリキリ歩いてください」
「懲りないおっさん達なのよ……」
まるで犯罪者のように扱われる国のトップ達を、ノエラは目を点にして見送るのだった。
その隣では、甘い葉を食べて満足したルイルイが、幸せそうに休んでいた。