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ここはリージョンシーカー本部。アリエッタから解放されて生き生きとしているピアーニャは、ロンデルと共に書類をまとめていた。
「ふぅ、シャービットとツーファンによるヒガイのほうは、おちついてきたな」
「ですね。残るは……アリエッタさんとネフテリア様関係の処理が半分ほど……」
「なんでおとなしいヨウジョと、クニをスべるたちばのオウジョからのヒガイが、ケタはずれにおおきいのだ……」
「世の中って不思議ですよね」
2人の休憩用にお茶を持ってきたリリも会話に入り、苦笑する。
話題はもちろん、数日前に起こった2つの事件。王都で暴れたツーファンとコーアンによる破壊の被害は修理がほぼ終わったが、メレンゲに包まれたニーニルは清掃が終わったばかり。ネフテリアが台車に乗って突っ込んだ建物や、マシュマロになって重量を持ったゴーレムが倒れた事で壊れた家、そしてアリエッタが雹を撃ちまくって穴だらけにした数々の家は、まだ修復されていない。
「こちらの調査も行き詰まりです。どこかの国の工作部隊だという事までは分かったのですが……」
「しかたないか。ジッコウまえにとめたのは、ウンがよかったということにしよう」
台車に乗って暴走していたネフテリアが轢いてしまった『とある国家の特殊機関』は、近くにいたシーカーや兵士達が破壊に驚いて心配して飛び込んできた事で、突発で証拠を全部燃やして逃げざるを得なくなったのだった。計画書の燃えカスから工作部隊だと判断したが、流石に証拠が残る物に自分達に関わる名前は最初から書いていなかったのか、決定的な証拠だけは見つからず仕舞いであった。
「嫌がらせでリージョンシーカーの規模拡大しましょうか」
「そうだな」
「それ、嫌がらせでやる事ですか?」
「国の上層部に『最近エインデル王国に暗殺者が来た。貴国もそのような他国の侵略から守る為に、国から切り離した民間の機関が必要です』とか説明すれば、最後まで断る方が怪しくなるんですよね」
「最終的に、リージョンシーカーの無い国は危険な国みたいな認識になりそうですねぇ……」
「おかげで、ハンブンほどだったリージョンシーカーのフキュウが、イッキにすすみそうだ」
ファナリアにも、他リージョンとの交流を拒否する、排他的な国家は存在する。伝統などの理由で提案を拒否すれば、変な国だと思われるだけで、あまり変化は無い。だが、軍事的な理由で拒否すれば、他全ての国から危険視される危険性がある。
「ただでさえ、国土拡張や世界征服なんてしても、そんな脳筋に広い土地を管理する能力は無いですからね。さらに、ファナリア全土と同等以上の広さがあり、魔法が通用しにくい世界が他にあっては、『えーマジー? 世界征服ー?』『世界征服が許されるのはー15歳までだよねー!』『きゃははは』って笑われますから」
「なんだそのヒドいカイワ…。まぁそうなんだが」
「だからファナリア以外のリージョンを視界から無くすために、リージョンシーカーと塔を壊そうと必死。なんだか可哀想になってきました」
軍事国家に対して、実に辛辣な評価である。
そんな話をしていると、ノックも無しに執務室の窓が開いた。
「ねーねー、ロンデルいるー?」
「はい?」
「いやドアからはいってこいよ」
やってきたのはネフテリア。空中に立つ事が出来るので、どこの窓だろうと問題無く開ける事が出来る。
ピアーニャのツッコミを無視して部屋に入り、しれっとソファに座ったネフテリアは、大きなため息を吐いた。
「やあぁぁぁっと解放されたわぁぁぁぁ。このままミューゼん家に行こうかなーって思ってるんだけど、ピアーニャも行く?」
「いかん!」
「お疲れ様、テリア。今回は結構長かったねー」
「町を破壊したのですから、これでもかなり甘いと思いますけどね」
続いてオスルェンシスがネフテリアの影から出てきた。この数日、国王と王妃がミューゼの家に行っていたのに王女がいなかったのは、騒動のお仕置きで監禁されていたからである。
「で、ロンデルになにかヨウジか?」
「とゆーより、フェルトーレンに用事かな」
「?」
ロンデル前で、触手でお茶をすすっていた小さな黒い悪魔が、その大きな目を向けて身体を傾げた。「よんだ?」と言いたげである。
「大きさ的に丁度よくてね。仲良くしてあげてくれたらと思うんだけど……テオ、リナ」
『キュッ』
ネフテリアが名前を呼ぶと、服の中に隠れていた2匹の小動物が、両肩に現れた。
「トトネマですか?」
「うん。いつのまにか入り込んじゃって。城に着いたらいきなり懐かれてたんだけど……」
「案外お城を見て、身分が高くなれると思ったんじゃない?」
「あはは、そうだとしたら贅沢なトトネマよねー」
「ナマエも、かわいいというよりは、おとなびてないか?」
「そう思う。監禁中暇だったから、どんな名前が良いか暇つぶしに考えてたんだけど、その名前を口にしたら、必死に反応したのよ」
「なるほど? 本人が気に入ったのなら仕方ないね」
名前についての話をしている間、フェルトーレンが黒い触手を使ってクッキーを差し出すと、2匹のトトネマは警戒しつつもそのクッキーを受け取り、齧り始めた。
「……なんとなく仲良くしてくれそう」
「だね。この子達どうするの?」
「結構大人しいから、好きにさせるつもり。ずっと肩に乗ってるし」
小さなやり取りを見て和んだ一同は、再び潜り込んでいた暗殺者の話を始めた。実はネフテリアにとっては初めて聞く話であり、少し驚いている。
「確かに何かぶつかったなーとは思ったけど、いやまさかそんな……」
しばらくブツブツと言っていたが、気を落ち着けるように息を吐き、がばっと顔を上げた。
「一般人に被害が無くてよかったね! これも計算のうちよ!」
親指を立てて満面の笑みを作っているが、汗はダラダラと流れ、目は泳いでいる。この後すぐに、ピアーニャとリリによって、ボコボコにされるのだった。
「偶然良いように進んだものの、一般人だったら大問題だったのよ?」
「はひ、しゅみましぇんでひた……」
自身の過失が原因なので、ネフテリアも文句は言わない。
一旦休憩し、反撃がてらに気になっている質問をする事にした。
「ところで、リリお姉様」
「何?」
「ロンデルとは上手くやってる?」
「いきなり何の質問ですかねっ!?」
リリが中心の話をすると思ったら、自分が中心だったロンデルは驚いて、思わず叫んでいた。
当のリリは、少し頬を赤らめ、優しい目になって質問に答える。
「大丈夫よ。ちゃんと頑張ってるから」
「へぇ~」
「何の話ですかね……」
誤魔化すように顔を背けたロンデルを見て、ピアーニャとネフテリアはニッコリ笑顔でハイタッチするのだった。
次の日。
「サンディさんサンディさーん!」
血相を変えたルイルイが、全力疾走でミューゼの家へと突っ込んだ。
「ママならラスィーテに帰ったのよ、一回エインデルブルグに寄るって言ってたけど」
「おおぅ……」
リビングに入るなり、膝から崩れ落ちた。
「ママに用だったのよ?」
「あぁ、いえ。昨日の葉について聞きたかったので、出してくださったサンディさんを呼んだのですが」
「誰でも良さそうなのよ。話を聞くのよ」
「はい、ありがとうございます」
騒いだ為、何事かと集まってきたアリエッタ、ミューゼ、ネフテリア、オスルェンシスも加わり、
「って、なんでまた王女様がいるんですか。国王様達帰ったばかりですよね?」
「暇つぶしを兼ねて、街の修理の司令塔やってるの」
「それって暇つぶしでやる事なのよ?」
ツッコミは入れたが、背後でペコペコ謝るオスルェンシスを見て、一旦気にしない事にした。
ルイルイが、今回1人でやってきた理由を話す為、鞄から一束の糸を取り出し、テーブルに置く。
「おお~、綺麗な糸~」
「凄いのよ」
その糸は、キラキラと輝いていた。一見銀色に見えるが、角度が変わると様々な色にも見える。
「アリエッタの髪みたいに綺麗ねー」
「ふぇ? かみ、きれい?」
「うふふ、アリエッタの髪も綺麗よ~」
複数の単語に反応したアリエッタの頭を撫でると、嬉しそうに笑顔になる。膝の上に2匹のトトネマが乗り、戯れ始めた。
「確かにこれは、虹色になったアリエッタちゃんの髪そっくりね。アイゼレイル人って、こんな綺麗な糸も作れるの?」
「いえ、その事で相談に来たんです。なにしろ、こんな色が出るのは初めてなので」
「どゆこと?」
ルイルイの話によると、昨晩帰ってから糸生成をしてみたところ、自分でも初めて見るような美しい糸が出来たという。アイゼレイル人は食べた草葉によって、糸の質が変わる……という事は、その日に食べた葉と言えば、
「あの赤い葉なのよ」
「だよねー」
「何でしょうか、あの葉は。どこからどう見ても、最高級としか思えない糸が出来ちゃったんですけど」
ネフテリアが糸を触ってみる。すると、すぐに驚きの表情になった。
「うわ、さらさらふわふわ…細いのに不思議な手触りね。強度は……っなにこれぜんっぜん千切れないんだけど!」
「それでいてこの輝きですか。素人目に見ても超高級ですね……」
オスルェンシスからも感嘆のため息。
その様子を見たルイルイが、意を決して口を開く。
「この糸をこれからも作りたいので、あの赤い葉が欲しいのですが、手に入りますか?」
服飾店として、糸にはこだわりたい。綺麗な糸を使った布で、服を作ってみたい。そんな想いが顔にまで溢れていた。
「いいのよ。どうせお隣になるのよ。最大で1日1皿くらいなのよ」
「うえぇっ!? いいんですか!?」
「その代わり、最初はアリエッタに似合う服を作るのよ」
「もちろんです!」
「?」(なになに? 何の話?)
「いいなー、お城にも何か作ってもらわなきゃ」
赤い葉の提供があっさり決定し、細かい商談はサンプルの作成後にする事になった。なお、この話はネフテリアによって他言無用と念を押された。
服のサンプルを無断で着せられる事になったアリエッタは、何も分からずのんびりとトトネマと戯れている。それを見たパフィがクネクネと蠢いているが、全員にスルーされている。
出されたおやつを食べながら、ネフテリアは呟いた。
「それにしても、葉っぱを食べて糸を出すかぁ……まるでウン──」
『それお姫様が言っちゃ駄目な言葉あああああ!!』
「おぼっ!?」
大人達全員に殴られ、オスルェンシスの影の中にぶち込まれるのだった。