ここで空気を読んでいないのか、それとも、ここでこその一言を待っていたのかナッキの親友、ヒットが言葉を発する。
「にしても、『存在の絆』ってヤツは便利そうだよなぁ! あれだろ? どんなに遠くに離れていてもナッキやお前ら仲間と話せるって事なんだよな? 凄く便利じゃないかぁ? それ? 俺らにもやれれば良いんだけどなぁー、なぁナッキぃ?」
ナッキは首を傾げながら答える。
「うーんどうだろう? ヒット、僕たちって野生動物じゃない? そんなの出来たらいいけどさ、やっぱ無理なんじゃないのぉ?」
この声にヘロンは言う。
「私がペジオ様と絆を結んだ言葉はこうでしたよ! 『科学の為に』、『真実の求道者であろう!』でしたっ! 如何(いかが)でしょうかぁ?」
ドラゴも時を置かずに言う。
「『六道(りくどう)の守護者』ではこんな感じでしたよ! 『自ら抗えぬ者達に道標をっ!』とか、『一切衆生(いっさいしゅじょう)を救うっ!』とかでしたよっ! ナッキ様っ! 仰ってみたらどうでしょうかぁ?」
ここまで傍観者を決め込んでいたボッチ属性強めなランプが大きな鋏(はさみ)を天に煌(きらめ)く二つの月と周囲を輝かせている色鮮やかなオーロラ状の色彩に向けて突き上げながら、澱(よど)みの欠片(かけら)も見せない態(てい)で言う。
「では皆さん、私と一緒に宣言しましょうか? 永遠の忠誠、完璧な心酔、心の底から思う恋慕、己の存在、その全てを掛けて誓う唯一の言葉、それは『マラナ・タ』、と言います」
全員がキョトンとした中で、再びランプの大きな声が響いた。
「さあ、共に口にしましょう! ナッキ様っ! 『マラナ・タ』っ!」
つられる様に『美しヶ池』中に大きな声が響いた。
『『マラナ・タ』』
と……
その後、時を置かずに、『美しヶ池』の構成員達は、初めて経験する絆通信、種族の垣根を越えて言葉を届かせる事が出来る奇跡に興奮の時間を過ごす事になったのである。
誰が聞いても『ウッシィ』しか答えないブルに問い掛ける声が意外にも多かった。
皆、気になっていたのかどうか、結局ウシガエルのブルが何を考えているかは、誰にも知りえる事は出来なかったのだが……
まぁ、無事? ここ『美しヶ池』にも『存在の絆』が齎(もたら)され、仲間達の間の、言葉の判らない問題が解決されたのである、良かった良かった……
トンボの羽音が理解出来なかったのも今は昔の事である、オーリは言った。
『ええっ! んじゃあ、産んだら産みっ放しってことなのぉ? ドラゴぉ!』
ドラゴは答える。
『そうだよ、美しいギンブナのオーリ、放置、いいや、ネグレクト! それこそが子供を強くしなやかに育て得る! 我々トンボはそう考えているんだからねっ!』
オーリは愕然としながら答えた。
『ま、マジかぁ…… アタシには無理だわぁ……』
他にもカーサがヘロンに継続飛行距離の限界を聞いたり、今まで会話能力を有していなかったトンボ達が、オズオズとしながらも魚やカエル、鳥達に挨拶をしていたりと中々積極的に交流を交わしている。
そう聞けばさぞ賑やかな光景を思い浮かべる事だろうが何分『存在の絆』経由でのやり取りである。
魚も蛙も鳥もトンボもザリガニも、全員が微動だにせず無言でやり取りを交わし、時折、笑顔を浮かべたり驚きの表情になったりと、傍目(はため)には不気味で非常にシュールな絵面となっていた。
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