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#さのじん
自分夢の中
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その日の撮影は延期になった。
マネージャーからは、舜太が体調を崩したとだけ説明を受けた。
控室に戻った時、既に舜太の姿はなく、俺が蹴り倒したパイプ椅子も綺麗に元の位置に戻されていて、まるで何事もなかったかのようだった。
今後のスケジュールについてマネージャーから話を聞いている間、仁人の様子を窺うと、腕を組み難しい表情を浮かべていた。太智と柔太郎も舜太が心配なのだろう。顔を曇らせている。
俺は複雑な気持ちだった。
舜太が今ここにいない理由はわかっている。
俺はどうしたらいい?
今までのように、末っ子として可愛がっていた時にはもう戻れないかもしれない。
それどころか、仁人に対する独占欲が優ってしまって、関係の修復よりも、このまま仁人と二人でどこかへ逃げてしまいたい衝動にすら駆られている。
自分の中にこんなにも粘着質な感情が渦巻いていることに驚かされる。
今こうしている間も、すぐそばに立つ仁人を抱き寄せて、先ほどまで散々貪ったのに、まだその唇を味わいたいなんて思っている。
きっと、舜太も同じ気持ちだったに違いない。
「俺、後で様子見に行ってもいいですか?」
思考の波に沈んでいく中で、ふと耳に飛び込んできた仁人の声。
顔を上げた先には、意を決したように、まっすぐ前を向く仁人の姿。
あぁ、やっぱり、こいつがリーダーで良かったわ。
欲に支配されかけていた俺の思考は、仁人のおかげで引き戻された。
仁人が見ているもの。
それは、紛れもなく、MILKそのものだ。
俺たちメンバーが大事に築き上げてきた、命とも言える存在。
俺たちの生きてきた証だ。
そうだ、壊さない。壊させない。
見失うな。
「寝てるかもしれないから、行く前に連絡だけ入れてあげて」
マネージャーの言葉にこくりと頷いた。
「仁人、舜太のことよろしくなー」
「ありがとね、仁ちゃん」
スケジュールの確認もあらかた終わり、太智と柔太郎が口々に言葉を残して部屋を出ていく。
皆を見送った後、俺と二人だけの空間になった瞬間、仁人はそれまで纏っていた固い空気を解いた。
深く息を吐くのと同時に、先ほどまで見せていた力強い表情は一瞬で消え、顰められた眉は微かに下がり、大きな目はどことなく潤んで、不安定に揺れ始める。
きつく握りしめられた白い手が、微かに震えているのが見て取れて、言葉とは裏腹に仁人が緊張していたのだと分かった。
「仁人…」
「勇人、ついてきてくれる…?」
控えめな口調、それでいてこちらを引き込むように懇願する大きな瞳に、俺は反射的に頷いていた。無意識のその仕草に、状況を忘れて、俺の心臓がドクンと跳ねる。
「…ありがとう…、それじゃ、いこっか」
仁人は、俺の反応に安心したように、ふわりと目を細めて少しだけ表情を緩めて見せた。
再び、心臓が痛むのを感じて、俺は思わず胸元の服を握りしめた。
舜太のマンションについたのは、それから程なくしてだった。
勇人にはエントランスまでついてきてもらい、ロビーで待っていてくれるように頼んだ。
緊張しているのが伝わったのか、向かうタクシーの中で、勇人はずっと手を握っていてくれた。自分のよりも大きくて骨ばった手からじんわりと伝わる熱は、まるで俺に大丈夫だと語りかけてくれているように感じられて、思った以上に気持ちを落ち着かせることができた。
エントランスでのインターホンを鳴らすためにその手を離した時、勇人は一瞬何か言いたげに口を開いた。問うように見つめ返すと、小さく首を振って無言のまま、しかし大きな手を俺の頭に置いてくしゃりと撫でてくれた。
そんな勇人の優しさに甘えてしまいそうになる気持ちを、今一度引き締める。
すっとカメラに写らないように勇人が
脇にずれた。
それを見て、俺は舜太の部屋番号を押した。
少しの呼び出し音の後
「…えっ!?仁ちゃん…!?」
舜太の驚く声がして、ロビーへの扉が開かれた。
俺は目だけで勇人に別れを告げて、一人舜太の部屋に向かった。
部屋の前に着くと、インターホンを押すよりも前に、ガチャリと扉が開かれた。
中から、困惑した表情の舜太が出てくる。
「仁ちゃん…、なんで来たの…」
そう言う舜太を一旦無視して、俺は扉を半ば強引に開くと、少し暗い玄関へ身を滑り込ませた。
静かな空気音と共に、後ろで玄関の扉が閉まった。
入った空間は、当たり前に舜太の匂いがして、あの夜のことが生々しく思い出されてしまって、体に緊張が走る。
それでも。
ここに来たのは、舜太に伝えたいことがあったからだ。
俺はゆっくりと息を吸って、呼吸と思考を整える。さっきまでの勇人の顔を思い出す。大丈夫、大丈夫。
「舜太」
入った向きのまま、斜め後ろに立っている舜太に向かって、口を開いた。
「ごめん」
後ろで微かに空気が動いた。
俺は続ける。
「あの時、お前がどんな気持ちだったか…いつから苦しい想いをさせてたか分かってやれなくて…それと」
「あの日のこと、なかったことにして、、ごめん」
「…っ」
初めて、振り向いて舜太の顔を見た。
今にも泣き出しそうな彼は、あの日と違って、いつまでも可愛い末っ子のように感じられた。
舜太をしっかりと視界に捉える。
もう目は逸らさない。
「仁ちゃんが謝るんは…ずるい…」
「うん、そうね…」
「俺…、ごめん…っ、仁ちゃんが好き、大好き…っ」
「うん、ありがとう…」
しっかり受け止めてあげたい。
自分よりも背の高いこいつは、しかし抱きしめたら折れて倒れてしまいそうなくらいの線の細さで、今にも崩れ落ちそうな危うさを感じた。
「あんなこと、仁ちゃんにやったのに、なんで来てくれたん…?俺、絶対嫌われ…」
「嫌いになんか、なれねぇよ」
遮った俺の言葉に舜太が目を丸くする。
ちゃんと届いてほしい。
俺は言葉を選びながら、自分の気持ちを形にしていく。
「確かにお前のやり方は…乱暴すぎた、俺は記憶無くすくらい…、その、トラウマにはなってるし思い出した時は軽いパニックだったし、、でも、それでも、お前に対する信頼や、これまで一緒に走ってきた思い出までなくなったわけじゃない」
辛そうに目を細めて、俺の話を聞いている。その表情を見て、俺は賭けてみる。
「俺にやったこと、償う気持ちがあるなら、MILKに残ってしっかり成果で証明しろよ」
「…っ、えっ?」
「俺から逃げようなんて考えんな」
まっすぐに見つめると、驚いて固まった後、舜太はくしゃりと顔を崩して、ついに嗚咽を漏らした。
両手で落ちる涙を拭いながら、俺の言葉に応えるように、大きく何度も頷いてみせた。
「仁ちゃん…ごめん、ごめん、、ほんまにごめん、っ」
「それが、俺からお前に与える罰だ」
「ぅん、うん…っ!」
心の蟠りがとれたように、舜太は声をあげて泣いた。
その涙を見ながら、俺も握りしめていた手を解いた。思った以上に強く力を込めていたらしい、手のひらに深く爪跡が残っている。
仁ちゃん、ほんまに好き…、とぽつりとつぶやかれて、もう一度俺は舜太を見つめた。
こんなに可愛い感情を、どうして今まで見過ごしてしまっていたんだろう。果たして、今まで何回、こいつは一人で泣いてきたんだろう。
怖かったはずなのに、俺は舜太の頭に手を伸ばしていた。撫で付けた髪は、整髪剤のせいで少しだけ固くて、舜太がいつまでも可愛いだけの弟分ではなくなっていることを感じさせられた。
いつの間にか大きく追い抜かされた背。
そのまま、自分の知らない何者かになってほしくなくて、俺は彼には酷なことを言っている。
「俺、MILKやめへんよ、仁ちゃんの近くにずっとおる」
その言葉に安堵を覚えている自分は、なんてずるいのか。
「あと、仁ちゃんにアタックするのも、やめない」
「えっ…!」
予想外。
泣いてきらきらと光る瞳を、いたずらっ子のようにくるりっと動かしてみせた。俺は、舜太の頭に手を乗せたままで、大袈裟な声を上げた。
「おま、、ちょっと、、それ反省してる?」
「もちろん、ちゃんと仁ちゃんに、俺のこと意識してもらえるように…」
そこまで言って、舜太は少し口を閉じて俯いた。どうしたのかと思い、下から顔を覗き込むと、子供っぽく拗ねたような、それでいて艶っぽい表情に見返される。
「仁ちゃんと勇ちゃんが…、付き合っていても」
キス見た…、と小さく呟かれる。
「…ぅ、そ…」
舜太から思ってもいなかった告白を聞いてしまい、俺は耳先まで急速に熱を帯び始めるのを感じた。
見られていた…
「悔しいけど、俺には、仁ちゃんにあんな顔させられない…」
あんな顔…
俺は無意識に自分の頬に手を当てる。
沸騰しそうなほど熱くなる頭が、クラクラとし始める。そんな俺の様子を、悔しそうな顔で見てくる舜太。
何が悲しくて、俺なんかを好きになってしまったんだろうな、こいつは。
ファンが知ったらショックで泣き叫ぶだろうに。
「仁ちゃんのこと、諦めないから。いつか俺も仁ちゃんのこと、メロメロにしてみせるから覚悟しといてな」
少しだけ無理して笑う。
舜太なりの傷心と気遣いを感じて、俺は再び冷静になった。
俺も、今はまだ作った笑顔だけど、その気持ちに応える。
「難易度高いからね?」
「うん」
ふふっとお互いに溢れた声は、少し鼻声だった。
コメント
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いやあああ読んだ読んだ!!😭💕💕 仁人が舜太のもとに行って「嫌いになんかなれねぇよ」って言ったシーン、マジで胸が熱くなったよ…!! あの重たい空気の中で、ちゃんと向き合おうとする仁人の強さと優しさが沁みた…(涙)それに最後の「アタックやめない」宣言からの仁人の照れ顔!? もう三角関係が加速しすぎてて頭がついていかないんだけど!!?? 次どうなるの!? 早く続きが読みたいよおおお😭🌸✨