テラーノベル
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その夜八時ごろ、イオンを除く全員が旧万世橋駅跡の地下スペースに集まった。畳の上に皆が車座になって座った座ったところでヒミコが話を切り出した。
「イオンから報告が来た。やっぱり美人局のための釣り餌の女の募集やったとな」
トモエが言った。
「どうしてあのアサミという女の人がやらないんでしょうか?」
ヒミコは表情は変えなかったが、少し呆れたような口調で答えた。
「同じ女がそんなたて続けに不同意性交の被害届出したら、警察もなんかおかしいと思うやろ」
「あ、なるほど」
トモエが首をすくめて口を閉じると、トワノがノートPCの画面を見ながら説明を始めた。
「イオンさんから送られた次の美人局のターゲットの写真なんですが、ネットで画像検索かけたら見つかりました。一年ほど前のオンラインビジネスマガジンの記事。これです」
トワノがPCの画面を皆の方に向けると、そこにはインタビュー記事があり、イオンが見せられた眼鏡をかけた中年男性の顔写真があった。そのプロフィール欄には「関東応化工業 半導体材料開発部部長」という肩書が載っていた。
ヒミコが言う。
「フォトレジストとかいう、半導体製造に不可欠な材料作っとる会社や。それに関しては日本企業三社が世界市場で圧倒的なシェア持っとる」
ウルハが不敵な微笑を顔に浮かべて言った。
「また半導体絡みか。確かにこりゃアタリだな」
トワノがPCを自分の方に向け直して、画面を切り替えて言った。
「あと、イオンさんが接触した男なんですが、飲み物を体にこぼされて反射的に口に出したセリフ、AIで検索しました。『ッシバル!』ですけど、韓国語ですね。日本語の『くそっ』とか『ちくしょう!』にあたるニュアンスです」
マユキが訊いた。
「韓国の半導体メーカーの産業スパイって事かしら?」
これにはヒミコが否定的な見解を述べた。
「いや、裏の世界の人間やろ。会社員がやるにはやり方がえげつなさ過ぎてリスクが大き過ぎる。韓国マフィアが日本のトクリュウと手を組んどる。そんなとこやないか?」
「あの、すいません……」
トモエがまたおずおすと右手を小さく上げて尋ねた。
「トクリュウって何ですか?」
マユキがはっきり聞こえるようにため息をついて答えた。
「匿名流動型犯罪グループ、略してトクリュウ。SNSで実行犯を募集してオレオレ詐欺の受け子や強盗犯に仕立てる連中の事。最近よくニュースにも出てるでしょ。トモエさん、ねえ様にも言われたでしょ? ニュースぐらいちゃんとチェックしときなさい」
トモエは小さくなって下を向いた。ナミネがソバージュの髪の先を人差し指でクルクルといじりながらヒミコに言った。
「で、アネキ。乗り込むのか?」
ヒミコは静かに首を横に振った。
「まだや。ウチらが手を汚す必要があるかどうかは、こっちで決める事やない。明日朝一番でウチが報告しに行く。例の所へな。イオンが標的の男はんに接触させられるんは六日後の夜の予定やそうや。それまでには返事もろわんとな」
コメント
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第36話、読み終わりました。今回は情報整理の回でありながら、じわじわと世界観の広がりを感じさせる構成が印象的でしたね。特に「ッシバル」から韓国マフィアとトクリュウの連携を導き出す流れは、現実の犯罪構造をしっかり取材した上での伏線配置で、設定好きとしては滾りました。ヒミコが「例の所へな」とだけ言って詳細を伏せるところも、読者に想像の余地を残す巧みな仕掛け。続きが気になります。