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それから六日目の午前中まで、ヒミコからトモエを含むホワイト・リズムのメンバーに指示は一切なかった。トモエは毎日気が気ではなかったが、他のメンバーは気にしている素振りもなかった。
トモエとヒミコ以外のメンバーは、時折秋葉原の街のメイドカフェやステージに仕事へ出て行くらしく、トモエはその予定調整や支払い伝票の整理などに追われて、イオンの事を話題にする暇も無かった。
六日目の午前八時頃、トモエが事務所で書類仕事の用意をしていると、ヒミコとウルハが二階から降りて来た。ヒミコがトモエに声をかけた。
「ウチはちょっと野暮用で出て来るさかい、事務所の留守番頼むで」
そう言ってトモエの前をすたすたと歩いて行くヒミコを見てトモエはちょっと目を見張った。いつも紺色やグレーのパンツスーツにローファーの靴といういで立ちのヒミコが、タイトスカートにハイヒールという格好だったからだ。
ヒミコが外へ出た後、トモエはウルハに言った。
「ヒミコさんがスカートって珍しいですね。まさかデート?」
ウルハは意味ありげな笑みを顔に浮かべて答えた。
「アネゴがあの格好で行く所と言ったら、仕事の依頼主だな。今日あたり、いよいよかもしれねえぜ」
約一時間後、ヒミコは赤坂の古ぼけた低層ビルの中の法律事務所にいた。フロアの奥にはその事務所の所長の執務室があり、内側から施錠され、窓のブラインドを完全に下ろした部屋の大きな机の椅子に、四十前後の頑強そうな体付きのワイシャツ姿の男が座っていた。
ヒミコはその男の膝の上に横向きに座っていた。ヒミコのスーツの上着は机の上に置かれて、ブラウスのボタンは上から二つ目まで外され、タイトスカートは少しめくれ上がって、パンストに包まれた太腿が途中まで露わになっていた。
首に両手を回され、ヒミコに抱きつかれた格好のその男は、憮然とした表情で言った。
「毎回毎回、いちいちこんな格好をしなきゃ話もできんのか? ここは国家情報局の秘密の出先機関だ。法律事務所を装っているんだから、ここまで小細工をする必要があるのか?」
ヒミコは無表情なまま、掌をその男の股間にぐいっとあてて言った。
「そういう割には、ここはピクリとも反応してまへんな。命かけて危ない目に遭うのはウチらなんやさかい、男はんの本気と覚悟確かめるには色仕掛けが一番なんどすわ、尾崎はん。女の色香にうろたえるようなお人の言う事は信用できまへんからなあ」
尾崎と呼ばれた男は顔をしかめて言った。
「勝手にしろ。じゃあ詳細を言うぞ。そいつらのバックにいるのは、韓国の財閥の一族の男だ。と言っても傍系の分家筋でな、日本企業の半導体関連ノウハウを入手して、一族内での地位向上を狙ったようだ。うだつの上がらないボンボンの独走、暴走に過ぎんと、これは韓国の情報部が出した結論だ」
ヒミコは大きく開いた胸元を見せつけながらさらに訊いた。
「ほう! 韓国政府には話がついとる、そう取ってよろしいんですかいな?」
「ああ、その財閥からも同意は得てある。そのボンボンは一族のビジネスの要職から追放される。そいつが利用している韓国マフィアと日本のトクリュウは、口封じをしてくれという事だ」
ヒミコが言う。
「日本のお家芸の半導体関連技術を、美人局なんて方法で手に入れようとした連中のボスが韓国財閥の関係者やった。そんな話が表沙汰になったら、日本国内で嫌韓感情に火がつきかねん。北朝鮮が軍事力を向上させとる今、日韓関係がこじれるのはどっちも避けたい。それが本音ですかいな?」
「そんなところだ。そしてその韓国マフィアとトクリュウの案件屋の連中は、どうしても証拠が掴めず、どっちの国の警察も逮捕に踏み切れんやつらだ。自分たちでは手を汚してないだけで、二けたは人を殺している」
「それで蔭(おん)の白拍子の出番という事ですかいな? 仲間割れで殺し合って、全員死んだ。そういう筋書きでよろしゅうおすか?」
「それでいい。ただし急いでくれ。不同意性交等罪で告発された神州化学工業の技術者、いつまでも任意の事情聴取で留めておくわけにはいかんからな。所轄の警察は、企業秘密を渡すように脅迫されているという話を信じてはいない。こちらで逮捕状の請求を止めておくのも限界だ」
ヒミコは尾崎の膝から降りて机の反対側に回り、服を整えてスーツの上着を羽織った。尾崎はヒミコの残り香を振り払うかのように、掌をパタパタと動かしながら毒づいた。
「まったく、女狐(めぎつね)が……」
ヒミコは皮肉を込めた口調で言い返した。
「油断も隙もない女狐やさかい、こういう仕事でお役に立てますんやろ? ほな、今夜中には片付けますさかい、警察への手回しの方、よろしゅうに」
ヒミコはくるりと背を向けて部屋から出て行った。尾崎は顔をしかめたまま、机の上の電話の受話器を手に取った。
コメント
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やっと更新された第37話、めっちゃ好きな展開だったわ! ヒミコがスカート&ハイヒールってだけで「あ、これは仕事モードだ」って察しがつくのが良い。法律事務所のシーン、色仕掛けで男の本気度を測るところがもう完全にプロの仕事だよね。尾崎が「女狐」って言いながらも動かされてる感じがまた絶妙。 「今夜中には片付けます」って台詞、最高すぎるでしょ。次回の戦闘描写が待ち遠しい🔥