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だいぶ魔法が使えるようになったので、沙織はシュヴァリエに実戦をやりたいと伝えてみた。
リュカの姿のシュヴァリエは、クリクリの目を更に大きくして、ステファンに確認すると言ったが……。
(そんな驚く事だろうか?)
学園の実習では、自分が怪我をしたり、相手に怪我をさせてはいけない。手加減必須では、訓練しても意味が無いのだ。
(さすがに死にたくないからなぁ〜。せめて防御は完璧にしとかなきゃ)
呪いの祭壇を壊すつもりだが、どんな相手が待ち受けているかも分からない。
(魔物とか、魔王……? それとも、悪魔や魔女だったりして?)
もしかしたら、悪意ある生身の人間だって可能性もある。
今更ながら、この乙女ゲームを沙織自信がやっていなかったこと、友人の説明を真剣に聞いてなかったことが悔やまれる。
(うーん。ヒロインの攻略対象は、今のメンバーの他に、隠れキャラとかは居なかった筈だけど……)
気づかずに、大事な所で足元をすくわれたら敵わない。
シュヴァリエは、多分――。あの有料ガチャのレア助っ人だから、攻略対象には入っていなかったのかもしれない。ステファンに姿を貸すとか、本当に主人思いの真面目な人間だ。
(それにしても……真面目なのにあの姿)
リュカの仕草に、本家ステファンを上回る愛らしい表情をする。あの、撫でると気持ち良さそうに細める目が、何とも可愛い。
(ムギュ〜ってしたら、シュヴァリエは嫌がるだろうか? ……うんっ、ダメ元で一度頼んでみよう!)
――そんな事を考えて一日を過ごしていたら、シュヴァリエが帰ってきた。
「お帰りなさい、シュヴァリエ。ステファン様は何て言っていたかしら?」
『行って参りました、サオリ様。ステファン様は、学園の休日を使い、魔物が多い死の森へ行ってはどうかと、仰っていました』
「死の森!? なんとも嫌な名前の森ね……。そんなに魔物が多い森なの?」
『はい。国境付近の森で、まず普通の者は近付きません。国外に出るときは、兵士が在中する国境門を使いますから。犯罪者が逃亡で、あの森を抜けようとする場合がありますが……魔物を倒し、逃げきるのは不可能でしょう』
「……え!? そんな危ない森なの? だから、死の森? それって、ヘタしたら私……死んでしまうのではない?」
『そこは、ご安心ください。サオリ様の結界や魔力障壁、攻撃力なら全く問題ありません。サオリ様が結界を張り続けておけば、良い散歩コースになると仰ってました』
「……それって意味があるの? もしも、魔力が切れたら不味くない?」
『サオリ様の魔力量なら、全く問題無いそうです。戦わなくとも、結界の強度もわかりますし、色々な魔物を見られる筈だと』
「見られるって……。なるほど。ステファン様は、私に危ない事はさせないつもりね?」
シュヴァリエリュカは、可愛らしい表情に何とも言えない笑みを浮かべた。
(ちょっと過保護では……って、あれ? 魔力が強ければ、その森を抜けるのは簡単てこと? なら、アレクサンドルはどうなのかしら?)
「ねぇ、アレクサンドルがその森を抜けたとは考えられないかしら? 王族だし、魔力も豊富でしょ?」
『確かに。サオリ様の魔力量には全く及びませんが……』
(そうね。どうせ私はチートですよ)
◇◇◇
「それは、あり得ないと思います」
ステファンは首を振り、意見を真っ向から否定した。
沙織は気になってしまったら、居ても立っても居られない性分だ。だからすぐに、シュヴァリエとステファンの元に来てしまった。魔道具とは、本当に便利な物だ。
ステファンは、突然やって来た沙織たちに驚いてはいたが、仕事を片付けながらも話を聞いてくれた。
「どうして、あり得ないの?」
「アレクサンドルは、まだ学園を卒業していないレベルです。魔力はありますが、あの森を抜けられる程の防御も攻撃力も未熟です。サオリ様も、実技実習されたでしょう?」
「確かにそうね……。オリヴァーの障壁もまだまだ不安定だったわ」
「スフィアに会いたくても、それでは命がいくらあっても足りません。それならば、まだ学園の誰かと通じて、国境門を抜ける策を考えるのではないかと」
「でも……。もし大切な友人を巻き込みたくなかったら? 私なら、一人で突っ走ってしまいそうだわ?」
「……まあ、サオリ様なら……やりそうですね」
(んっ?)
「いいわっ! 取り敢えず、次の休日にその死の森を私が散歩してみるわよっ。もし、倒れてたら連れて帰るから」
ムンッとやる気を見せると、ステファンは苦笑する。
「では、必ずシュヴァリエを連れて行ってください。万が一にも、何かあったら困るので」
「あら、嬉しい! シュヴァリエは頼りになりそうだわ!」
『ご安心を。何があってもお守り致します』
「まあっ! 可愛い子っ!」
沙織はリュカの姿のシュヴァリエを、ムギュ〜っとした。完全に、シュヴァリエをリバーツェとして見ていたのだ。
――シュヴァリエは突然の事に硬直する。
(あ、ついムギュ〜って、やっちゃった! まあ、いっか。モフモフが気持ち良い!)
ステファンは複雑な顔でそれを見ていた。
「私はもしかして、カリーヌ様にあんな感じで扱われていたのか……」
そう、独り言を呟いた。
◇◇◇
――そして、翌朝。
「サオリ姉様、またステファン様の所へ行かれたのですか?」
ミシェルがそっと訊いてきた。
(本当に、私の行動が筒抜けだわ……。あの件、隠しても無駄かしら?)
「今度の休日に、死の森でね。実戦で、魔法の練習して来ようかと思って」
「は……死の森って!? 正気ですか?」
「そうよ。でも、カリーヌ様に心配かけたくないから、内緒にしてよね! カリーヌ様の側には、ミシェルが居れば安心だから」
ミシェルに有無を言わせない笑みを向ける。
「もちろん、カリーヌ姉様は僕が守りますがっ。サオリ姉様が、一人でそんな場所に行くのは流石に……」
「ふふっ、一人ではないのよ。ステファン様に助っ人を貸して頂いたの」
「その者は、信用できるのですか? 男性ですよね?」
「そうよ。大丈夫、信用出来るわ。一応、お義父様も知っている人だから、手紙で伝えておくわ」
それだけ言うと、カリーヌに呼ばれたのでミシェルから離れた。
ミシェルは、沙織の後ろ姿を見ながら――なぜだかよく分からない、胸の騒つきを感じていた。