テラーノベル
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楽の目の前に現れていたのは、先日の鬼道だった。
「やっぱてめぇか、しつけぇな。てめぇの悪霊は殴んねぇっつってんだろ」
「それはもう聞いたよ。今日は君とは戦わない」
「は? 俺たちを呼び付けたのはてめぇらだろ!」
「ふふっ、馬鹿共が勝手にしてることだ。僕はそんなものに興味はないんだ。むしろ好機とさえ言える……!」
「好機……?」
「あぁ、僕と手を組もう、楽」
そうして、鬼道は手を差し伸べた。
鬼道は一体の霊も憑依させてはいない。
言っていることが本当だと、楽でも理解していた。
「手は組まねぇよ……。けどまあ、取り敢えず俺たちは戦わなくていいんだな?」
「今はそれでいい。じゃあ、ボスのところまで行くぞ」
楽は少し呆然としながらも、鬼道に着いて行った。
その頃、睦月とシスターは、金髪の青年と交戦。
「アハハハハ!! まるで虫みたいだね!!」
睦月は近付くことが出来ず、遠方から放たれる波動攻撃を異能で貫通させて避けていた。
「隊長! 私の力を使ってください……!!」
「ダメだ……きっとコイツらは、シスターの力すら計算の内でこうして俺とシスター二人にしたんだ……」
「でも……それじゃあ隊長は……」
そう、勝てない。
近付けないで、少しずつ傷を負う現状に、金髪の青年も腹を抱える様子でじわじわと痛め付けていた。
「大丈夫だ……任せろ……」
「ハハッ! 強がりも甚だしいね! 僕は物覚えの悪い老人とは違う! 睦月飛車角、十年前のNo.6、逸見桂馬、十年前のNo.5だ! その異能を計算し、過去のデータから絶対勝てないように考え尽くされてるんだ!!」
鼻高々に笑う。
しかし、睦月はその言葉に、ニヤッと笑みを浮かべる。
「異能力も人間の体力みたいなものだ。じきに僕の攻撃も避けられなくなる。もうそろそろ限界だろ……?」
そして、金髪の異能教徒は手を翳す。
「死んでくれ、異能祓魔院。全ては神の為」
見えない波動が放たれる中、睦月は動かなかった。
「隊長!!」
「 “ D ” 」
次の瞬間、睦月は左へ大きく移動し、攻撃を交わす。
「な、なんだ!?」
「やっと来たか……昨日は何時までゲームしてたんだ?」
「えっと……朝の六時っスかね……。八幡さんに電話で叩き起こされて急いで来たんスよ……」
「あの、彼は……?」
フラッと現れたのは、ボサボサの黒髪にメガネを掛けた青年だった。
シスターも異能教徒も呆然と見遣っていた。
「異能教徒のデータにはないだろう……。そりゃあ、シスターでも知らないほど、この仕事に参加しない、もう一人のアルバイトだからな……!」
「あ、初めましてシスターさん。一応アルバイトで、八幡さんに呼ばれた時にしか行かないんスよ。止水歩って言います」
「歩! 悠長に挨拶してる暇はないぞ!! 次の攻撃が……」
「Aっス。大丈夫っスよ。もう分かったんで」
そして、睦月は途端に右に大きく飛ぶと、ズパン! と波動は地面に直撃した。
「貴様……! 何者なんだ……!? なんで僕の攻撃が読める……!? 見えているわけはない……どうして……」
睦月はニヤッと立ち上がる。
「驚くのも無理はない。何故なら彼は、“無能力者” だからな」
「無能力者だと……!? だったら尚更……」
「分からないか。神の言葉しか信用しないお前たちには到底分かる訳ないな。異能探偵局にも、そして俺たち異能祓魔院にも、無能力者が雇われている。彼らは、異能力者である我々と同等に仕事をこなす。それは何故か」
「次はDっス」
睦月は再び、大きく左へと避ける。
大きな音で波動は地面に直撃。
睦月はニヤッと笑い、立ち上がる。
「何故なら、彼らは天才だからだ」
睦月は止水を見遣る。
「こちらから攻撃を仕掛けたい。行けるか?」
「んー、十三秒で倒せます」
その言葉に、金髪の異能教徒は顔を歪ませる。
「ハッタリだ!! 僕の攻撃が避けられても、僕に近付くだけでお前は吹き飛ぶ!! シスターの力だって僕たちは計算の内だ!! 僕は倒せない!!」
「試してみるか?」
次の瞬間、睦月は勢い良く走り出す。
「A D D W W D A A D W S……W」
止水の謎の英語に合わせ、睦月はその言葉に合わせ横移動と前進を繰り返し、攻撃を全て交わしながら正確に近付いていた。
「な、なんなんだ、その英語は……!!」
そして、遂に相手の眼前へと迫る。
「三秒止まって、スペース……」
三秒後、睦月は大きく飛び上がる。
「これも……避けられた……!?」
「隊長、最後、Qで必殺技です」
「あいよ!」
睦月は右手を貫通させ、金髪の体内に腕を侵入させると、そのまま脊椎に少しだけヒビを入れた。
そのまま、叫ぶことなく金髪の異能教徒は気絶した。
「大丈夫だ、異能警察には医術の達人がいるからな」
「隊長の必殺技、逸見さんみたいにかっこよくないんで正直やり甲斐がないっス」
「お前……! 俺が医療を学んでなければ出来ない芸当なんだからな!?」
「あ、あの……先程から止水さんの言われている、英語……? は、なんなんですか?」
一人着いて行けないシスターは、トトト……と二人に近付く。
「あぁ、コイツはゲーマーなんだ。パソコンゲームのキーボードのキーなんだ。Aなら左、Dなら右、スペースはジャンプだ」
「え、えぇ……」
少し引き気味にシスターは呆然とした。
「でも、この意味不明な伝達のお陰で、相手には動きを悟られないで済む。それに、歩の凄いところはゲームのキーでの情報伝達ではない」
「は、はぁ……。と、言いますと……?」
「コイツは、相手の呼吸、目の動き、筋肉の動きで次の攻撃を予測する天才なんだ」
「それって……武道の達人の芸当じゃないですか!」
すると、睦月は声を出して笑う。
「ハハハ! そうなんだよ! それをコイツは、ゲームのやりすぎで習得しているんだ!」
すると、止水は徐に鞄からPSPを取り出す。
それを睦月は掴む。
「歩、神崎を助けに来たんだろ?」
止水は黙って睦月を見た後、PSPをしまった。
「そうっスね……まあ、神崎には恩があるんで……まあ、少し、少しだけっスけど……」
「なら、ゲームは全部終わってからだ」
「了解っス」
そうして、三人は奥へと進んだ。
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