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放課後の美術室は、ひっそりと息を潜めていた。シンと静まり返った空間に、キャンバスに絵筆を滑らせる、濡れたような音だけが響く。まるで外界から隔絶された、二人だけの世界。
「……何の用だ」
教室の隅、無造作に置かれた椅子に腰掛けていたKが、低く絞り出すように言った。
腕を組んだまま、少し不機嫌そうにNを見つめている。
だが、その視線はどこかNの次の言葉を、行動を、待ち望んでいるようにも見えた。
「ふふ、そんなに睨まないでくださいよ。会いたいって、顔に書いてありましたから」
Nは悪戯っぽく笑い、手元の絵筆を止めた。
その筆先にはまだ乾ききらない群青色の絵の具が、とろりと濡れた光を放っている。
「書いてない……勝手に呼びつけるな」
「でも、ちゃんと来てくださったじゃないですか」
Nの視線がKの頬に絡みつく。Kは反射的に視線を逸らしたが、その頬がほんのりと赤く染まっているのをNは見逃さなかった。
「……服汚さないでくれよ」
Kの言葉にNは唇の端を吊り上げた。
「じゃあ肌なら大丈夫ですか?」
「は?」
次の瞬間、Nの指先がKの頬に触れた。ひやりとした絵の具の冷たさが熱を帯びたKの皮膚の上にねっとりと伸びていく。絵の具独特の微かにツンとする匂いが二人の間に漂った。
「ッ、なにを……ッ!!」
Kの肩がびくりと揺れる。拒絶の言葉を紡いだが、Nの指は止まらない。冷たい絵の具が肌の上を滑る感覚に、背筋を電流が走るような震えが走る。
「凄く似合いますよ、この色」
Nの目が細まり、穏やかな声とは裏腹にその指先はいたずら好きの子供のように奔放に、Kの頬を撫でる。絵の具がなめらかに、ゆっくりと、Kの肌を染めていく。
「気持ち悪いッ……やめろ……ッ」
Kは再び言葉を絞り出す。だがその声は微かに震え、どこか甘さを含んでいる。抵抗したいのに体が動かない。指先の冷たさとは裏腹に、絵の具が触れた場所からじわじわと熱が広がり、体の奥が粟立つような奇妙な感覚に襲われる。
「気持ち悪いのに、動かないでくれるんですね」
Nの言葉が耳の奥で甘く響く。頬に触れていた絵の具の指が、今度は顎へと滑り、そのまま首筋へと這い上がっていく。Kは息を詰めると、Nの視線がKの赤い顔を捉え、その瞳の奥に得体の知れない熱を宿している。
「……顔、真っ赤でかわいい」
「おまえ……ッ///、本当に……ッ///」
Kの瞳が激しく揺れる。Nの指が首筋をゆっくりと辿り、そのまま耳の裏へと回る。ひんやりとした絵の具が、耳朶をかすめる。
「嫌いですか?」
Nの問いにKは答えなかった。だが、その沈黙は拒絶ではなかった。むしろNの問いを受け入れているかのような甘い沈黙。Nはそのまま笑みを深めた。