TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

結局新たな店を見つけるのが面倒だと言う話になって、同期会はコンビニでお酒やおつまみを買って、足利あしかがくんの家ですることになった。


みんなにお伺いを立てて、大好きなカマンベールチーズをカゴの中に入れさせてもらったところへ、

足利あしかがさぁ、防音だけは完璧だから少々騒いでも平気だよぉ〜」

そう言ってニコッと笑ってくれたのは営業のワンコ系・武田たけだくんだった。


「だけってなんだよ。他も結構充実しとるわ」


ムスッとした顔で足利あしかがくんが言って、北条ほうじょうくんが「この男、こう見えてバンドに入ってる」と教えてくれる。


「バンド?」


聞いたら「そうそう。俺、ヴィジュアル系バンドのヴォーカルなんだぜ?」とか……。

体育会系にしか見えない足利くんから、V系バンドのイメージがわかなくて、人って見かけによらないなって思ってしまった。


「今度カラオケで俺の魂の叫びシャウト、披露してやるよ」


ニカッと笑って自信満々な足利くんに、「人の趣味をとやかく言うつもりはないが、他人を巻き込むのはやめてやれ」と北条くんはにべもなくて。


要するに、部屋で歌ったり楽器を奏でたりしても大丈夫なように、音大生向けの物件に住んでいるんだとか。


「足利さ〜、こう見えて結構真剣に取り組んでるんだよ〜」


サラリと武田くんがそんなことを言って、私は思わず足利くんをしげしげと見つめてしまった。


柴田しばた春凪はな。今の足利をいくら見つめてもステージの上のコイツとは別人だからな?」


北条くんに苦笑混じりにそう言われて、私は小さく吐息を落とす。


「うん、全然イメージわかない……」


歌う時の足利くんは髪型とか色々変えたりメイクをしたりするのかな。

どんなに思い浮かべようとしても、ジャージの方が似合いそうな足利くんを前にしたら、全然ぴんとこなかった。



(あ、でも……今の口ぶりからすると、北条くんは聴きに行ったことあるのかな? 正直そっちの方もイメージわかないんだけどっ!)


ヴィジュアル系バンドの観客席にいる、仏頂面眼鏡のスーツ男性。


うー。違和感しかない……よ?


足利くんがいつか言った通り、北条くんは口こそ毒舌気味だけど、(友達思いの)優しい男性なのかも知れない。



***



「カンパーイ」


足利あしかがくんの部屋は1LDKの角部屋で、八畳の広い部屋の隣に二畳くらいの小さな防音室がくっついた間取りになっていた。

防音室にはキーボードやスピーカーなどの機材が所狭しと置かれていて、とてもみんなでワイワイやれる気配ではなくて。


「んなわけで、防音室付き物件っちゅっても、こっちの部屋にいたんじゃ意味ないんだけどね」


ククッと笑う足利くんに、みんなが「確かに」とうなずいて。


あんまりどんちゃん騒ぎをするのは良くないねってそれ相応な声音で静かに飲むことにした。



***



「あの、さ……ずっと気になってたんだけど。――いま指輪してないのと……今日Misokaミソカに来なかったのって……ひょっとして関連あったりする?」


大分お酒が進んできて、みんなの気持ちがほぐれた頃、足利くんが恐る恐ると言った調子で話しかけてきて。


北条ほうじょうくんが「おい」と彼をたしなめてくれる。


武田たけだくんはと言うと、ゴロンと横になって、すやすやと眠ってしまっていた。


真剣な表情で問うてくる足利くんを見て、一時の感情に駆られて指輪を外してこの場に来てしまったのは失策だったと気がついたけれど後の祭り。


お酒の力も手伝って、私は「べちゅ宗親むねちかしゃんと喧嘩とかしらわけじゃないんれす」と呂律ろれつの回らない口調でフワフワと答えた。


「しゅっごく大切たいせちゅころ、……うしょちゅかれてらのが堪えたらけれ……」

(すっごく大切な事、嘘かれてたのが堪えただけで)


ヘラッと笑ったつもりだったのに、涙がポロリとこぼれ落ちた。


「わー! ごめっ、柴田しばたさんっ! 俺が要らんこと聞いた!」


それを見て足利くんが慌てて手を振り回して。


北条くんが無言でティッシュを手渡してくれる。


私がグスグス言いながらそれで涙を拭っている間、二人は何も言ってこなくて。


ゴーッというエアコンの稼働音と、武田くんの「あ、そこ、もっと……」という謎の寝言だけが静かな室内に響いていた。



***



「おい、柴田しばた春凪はな。お前本当に大丈夫か?」


らなぁ〜。大丈夫らいじょーぶれすよぉーっ」


こすりすぎた目元がヒリヒリするけれど、平気。


Vサインをしてみせたら床に放置していたスマートフォンがチカチカと光っているのが見えた。


音もバイブもオフにしているけれど、着信通知のランプだけは生きているみたい。


家を出た時、手にしていたのはスマートフォンだけ。

お財布すら持って出ていなかった無一文の私は、服と一緒にほたるから渡された、お金入りのお財布一体型ポーチの中に、それをギューギュー押し込んだ。


途端、北条くんが私の耳元に唇を寄せて、私にだけ聞こえる小声で

「なぁ、〝織田おりた課長〟に連絡しなくて良いのか……? 意地張って、後悔しても知らんぞ?」

とささやき掛けてきて。


私はびっくりして瞳を見開いてしまう。


「な……んれしょれを……」

(何でそれを)


相手が織田おりた課長だなんて、私、一言も話してない……よ?


宗親むねちかなんて変わった名前、そうそうないからな」


言われて、私、無意識に彼の名前を出していたんだと今更のように気付かされた。


「まぁ、俺しか気付いてなさそうだから安心しろ」


向こうのほうで武田くんを起こそうと揺すっている足利くんにチラリと視線を流すと、北条くんが小さくフッと笑って。


この人、本当すごいなぁ、敵にはしたくないぞーって、ぼんやりした頭でふわふわと思った。



***



「お邪魔しました」


言って、足利あしかがくんに手を振ったら、「北条ほうじょう、お前送り狼になるなよ?」と足利くんが私の横に立つ北条くんを睨んで。


「文句があるなら眠りこけて起きない武田たけだに言え」


と睨み返されていた。


結局揺すってもペチペチ叩いても半覚醒にもならない武田くんは、足利くんの家に泊まることになって。


結果私は北条くんと二人きり。彼にほたるの住むアパートまで送ってもらうことになってしまった。


いとますると言う間際になって、北条くんはどこかに電話を掛けていて。

もしかして彼女さんが家で彼の帰りを待っているのかな?とソワソワする。


「あにょ、わらしひとりれもちゃんとちゃんろ帰れましゅよ?」


ビシッ!と敬礼しながら言ったら、逆にふらついて北条くんに支えられてしまう。


うー。申し訳ないっ。


と思ったのも束の間、


「フリーでもない女の肩を抱く趣味はない。シャキッと立て!」


キッ!と睨みつけられて私は「はいひゃい! しゅみましぇ……っ」と慌てて北条くんから離れた。


恋人でもない女性に触れることはいけないことだと思っているらしい硬派な北条くんに、私はふらつくたびに叱咤激励しったげきれいと言う名のスパルタ教育を受けています。



「――ったく、この調子じゃあ下まで降りるのも一苦労だろうが」



えー。エレベーターで降りるだけだもーん。

階段じゃないから平気ですよーだ!


なんて心の中で一人毒付いているなんて、怖くて言えません。



ブツブツ言いながら、さっきから北条くんがスマホをしきりに気にしているのが気になって。



られかとお約束やくしょくれもあるんれしゅか?」


だとしたら、私のことは構わずそっちを優先して欲しい。


本当ほんろわらし大丈夫らいじょーぶれすのれ、早く行ってあげれくらしゃい」


言ったら、はぁ〜っと盛大に溜め息をつかれてしまった。


うっ。酔っ払いですみません。

でも、思いのほか頭ははっきりしてるんですよ?

本当です。

好みの彼に弱みを握られていますっ!

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

115

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚