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「受け取って、振り分けました……」
「だよな、あんたのハンコ押してあるんだよ配達票!宅配業者から取り寄せた!」
ヒラヒラとFAXを見せられる。確かに真衣香の印鑑が受け取りサイン部分にしっかりと押されている。
定時を少し過ぎた、この時間帯。事務の女性たちの姿は多く見られるが、坪井をはじめ高柳など男性の姿は疎らだった。
真衣香に掴みかかる勢いの川口を、遠目にひそひそと眺める姿を視界の端に映した。
「は、はい……。でしたら、その……受け取っていると思います」
「思いますって、あんたの意見は聞いてないんだって!わかるか?現に荷物がないんだよ!ないからわざわざ呼んだんだろ!?どこやった!」
「え、わ、私は宛名通りにしか」
真衣香が答えるたびに、川口の怒りが増していくように見える。
「あのさぁ……!何回同じこと言わせんだよ。他の荷物は置いてあって、これだけないんだって!明日朝一必ず必要なんだよ、あんたどこやったんだマジで」
真衣香の声など届いてない様子で、声を張り上げ続ける。それだけでまともに頭の中を整理できなくなっていた。
震える自分の手に、同じく震えるもう片方の手を握り合わせて声を振り絞る。
「ほ、他の……部署に間違えて持って行ってないか、さが、探してきます」
「初めからそうしろよ!あんた暇なんだろ毎日!少ない仕事くらいちゃんとしろって」
「す、すみません……」
勢いよく頭を下げてから二階へ上がり、総務も人事部も。企画も開発も、品質管理もコールセンターも広報も。滅多に入らない海外事業部も、走り回ったけれど川口宛の荷物を見つけることができない。
(……どうしよう。でも、本当に見た覚えがない、今日の荷物の中になかったと思う)
再び階段を駆け降りて、最後は営業部の一課の、まだお昼のまま移動されてない荷物が乗った台車を確認した。
(どうしよう、ない、やっぱりないよ……)
「もう一階は全部探したっつーの!二階見るだけでどんだけ時間かけてんだよ、トロいなマジで」
川口にどう伝えようかと思い悩んでいたら、向こうから声がかかった。もちろん、怒鳴り声だけれど。
「に、二階にもありません……。あの、最近は荷物が多いので毎回宛名まで確認してます、今日は川口さん宛の荷物はなかったはずで……」
「はあ? 何あんた、俺が間違えてるって言うのか?こっちは工場に問い合わせてさぁ、向こうから宅配業者に判取お願いしてんだって」
「は、はい……」
矢継ぎ早に怒鳴り散らされて、いよいよ言葉が出なくなってきた。
いや、出せなくなってきたと言った方が正しいかもしれない。
こんなに目の前でひたすら怒鳴り散らされた経験がない。
なんて甘ったれだろう。涙が出そうになって、隠すように俯いてしまった。
(やだ、ほんと、なんですぐ泣きそうになるの最悪……!)
ぐっと唇を噛んでみても、目に力を込めても。どれも頼りない。
「はあー、だるいなぁ」と、頭上から呆れたようなため息。またビクッと肩が震えた。
こんな動作が、人をイライラさせる。そんなこと昔から何度も言われて、経験して、知っていると言うのに。
萎縮していく自分を、どうすることもできない。