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#恋愛
篠原愛紀
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「葵、誕生日のことなんだけど」
「えっ?誕生日?」
ああ、そうだ。もうすぐ私の誕生日だ。
「一泊二日で旅行に行こうって言ったじゃん?ここに行こうと思うんだけど、どう?」
彼がスマホで見せてくれたのは、一日十組程しか泊まれないという超高級旅館だった。宿泊費を見るのが怖い。
「費用は全部俺が出すから。その辺は気にしないで?」
いや、こんな高級旅館気にするよ。
「部屋から海が見えるんだって。あと、部屋に露天風呂ついてるし。最近、いろいろあったから、ゆっくりできたらいいかなって思ってたんだけど。葵は例えば遊園地とか、そっち系の方が良かった?」
瑞希くん、ちゃんと考えてくれてたんだ。あんなに忙しいのに。
「ううん。嬉しい!海見たい!」
「泳ぐ?」
泳ぐ?えっ?水着とか持ってない!
しかも瑞希くんと一緒の海水浴なんて、気が引ける。
「ちょっと足とか入る程度がいいな。だったら、水族館とか行きたい」
「そっか。わかった!葵が楽しいって言ってくれる誕生日にできるように頑張るな」
髪の毛を撫でられる。
「私はその日、瑞希くんを独占できることが嬉しい。一日一緒に過ごせるだけで幸せだよ」
思えば、一日ずっと一緒に過ごした日などなかったかもしれない。
「可愛いな。俺、その日は仕事用のスマホ、電源切っとくから」
「うん」
瑞希くんは、私のことを好きだと言ってくれる。
それは信じているけれど、女性の中で一番だっていう自信は正直ない。
どこか心の隅に不安がいつもある。
私より綺麗な人と今一緒にいるんだろうな?とか。
手とか握ったりしてるんだろうな?とか考えちゃう。
今、彼の好意に甘えて一緒に住んでいるのに。
大切にしてくれてるのは十分伝わるんだけど、なぜだろう。
心の隅には、いつも劣等感がある。
瑞希くんは心配してくれたけれど、私は次の日、自分の家に帰った。
熟睡とまではいかなかったが、夜も眠ることができた。
時間がもっと経てば、もう少し心の傷も癒えるんだろうな。
・・・ーーー・・・
開店前の時間、お客さんに連絡を取っていた。
ついに明日は、葵との旅行。自然に顔の筋肉も緩む。
前日まで仕事だということが残念だったけれど仕方がない。
明日に残らないよう、予約のお客さんは少なくはした。
前みたいなトラブルも早々起きないだろう。ていうか、起きてほしくない。
明日の段取りを頭の中で何度もシュミレーションする。
仕事と違って考えるのも楽しかった。相手は葵だから。
「流星。明日、ついに旅行だね!」
春人がソファ越しにいつものようにハグをしてくる。
「いいなー、俺も行きたい。楽しそうだな。俺も連れて行ってよ?」
「そんなことするわけないだろ」
「俺だって海に行きたいっ!ね、歩夢?」
おい、歩夢にも話振るな。
「俺も海、行きたいです」
マジか。
「うしろからついて行こうかなー?」
春人だったら本気でやりそうで怖い。
「うそうそ、ちゃんと楽しんでおいでねー?お土産買ってきてね!」
・・・ーーー・・・
その日の営業は無事に終わり、帰宅する。明日の朝、葵の家に迎えに行くことになっている。
今日は早く寝なきゃな。明日は朝、早いから。
昼夜逆転の生活になっているから、朝の十時と言われても早く感じる。
適当な物を食べ、シャワーを浴び、すぐ眠りについた。
なんか緊張するな。
私は今、瑞希くんが迎えに来てくれるのを待っている。
今日は、瑞希くんが車をレンタルしてくれ、運転をしてくれるらしい。
疲れてるんだから、電車とか新幹線という提案をしてみたが、移動を考えるとそっちの方が楽だと彼は言ってくれた。
車で二時間程の目的地の宿へ向かう。
昨日のうち、いやいや、一昨日のうちから旅行の準備とかしてたけど、忘れ物がないかとか。
服装はこれでいいのか?とか。
嬉しさと不安が交互に押し寄せる。
今日は、たまには女の子らしいワンピースを着ようと思い、淡いブルーの膝下までくるロングワンピースを選んだ。
メイクにも気を遣ったつもりで、いつもより濃くしてみたけれど、おかしくはないかな。
ソワソワしてると、スマホが鳴り<着いたよ>という連絡が瑞希くんから届いた。
ボストンバックを持ち、家から出る。
マンションの前を見ると、黒い乗用車が止まっていた。
「おはよう。荷物貸して」
瑞希くんが車から降りてきてくれ、荷物を持ってうしろの席へ置いてくれた。
私服の瑞希くん、かっこいいな。
黒いTシャツにスキニージーンズ。印象がかなり変わる。
「どうぞ、お姫様」
車の助手席を開けてくれた。
「ありがとうございます」
顔が紅潮すると共に、なぜか敬語になっちゃった。
瑞希くんも運転席に座った。
「今日の葵も可愛いな。ワンピース着ているところ、初めて見たかも。髪の毛巻いている?」
少しの変化に気づいてくれる彼、職業柄かも知れないが嬉しい。
「うん。変じゃないかな?」
「変じゃないよ。可愛い」
彼は私の頬にチュッとキスをした。
ああ、まだ出発もしていないのに最初からこんなんじゃ、心臓がもたないかも。
「瑞希くんもいつもかっこいいけど、今日もかっこいい」
私の言葉を聞いて彼の口角が上がった。
「ありがとう、嬉しい。運転するから、ラフな感じで来たけど良かった?」
「うん!運転、ごめんね。昨日も仕事だったのに」
「大丈夫。ちゃんと寝たし。葵乗せてるから、安全運転に努めます」
「お願いします」
そんな会話をして時刻は十時、車は出発した。
「音楽かけていい?」
そう言って流れて来たのは、人気男性ソロアーティストの曲だった。
「あっ。私、この人の曲好きなんだ!」
瑞希くんも好きなのかな?
「俺も好きだけど。前、葵の家に行った時、CDが飾ってあったから好きなんだなって思って。良かった」
瑞希くん、そういうところも見てるんだ。
観察力、すごいな。
「運転、疲れたら休憩してね」
私にはそれくらいしか言えない。
「ん、わかった。疲れたら、葵にキスしてもらえれば元気になるから大丈夫」
彼はニコッと笑う。
冗談?本気?どっちだろう?わからないよ。
車の中では、いろんな話をした。
華ちゃんの話、春人さんの話。私と瑞希くんの
家族の話。
今まで空白だった情報がだんだんと埋まっていく。彼のことが知れて良かった。話しているうちに、時間と移動距離は進み、車の窓から隣を見ると「海だ!」
天気も良いし、波も荒れていないように見える。
「そろそろお昼ご飯食べる?いくつか調べて来たんだけど、どこが良い?」
一旦、パーキングエリアに車を停めて昼食場所を考える。海鮮丼、海鮮イタリアン。
「この、シーフードパスタ美味しそう」
「んじゃ、そこにするか?」
ナビで場所を調べてくれ、再び車は走り出す。
「混んでるかもしれないけど、ごめんな。予約しておけば良かったんだけど」
「ううん、私こそ瑞希くんばっかりに考えさせちゃってごめん。何もしてない」
「いいんだよ。誕生日で来てるんだし。葵は一緒にいてくれればいいの!」
そうやってまた私を甘やかす。こんなに大切にされていいのかな。
無力さに心が少し痛んだ。