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俺は、俺の主であるソ連様の命令で、ナチスのドールの津炎を何かあってもすぐに対処できるという事から俺らの家に運ぶ事になった。
抱き上げて、部屋を出ると津炎は穏やかな寝顔を披露していた。
その顔からはまだ幼さが伺える。
津炎だって、生まれてから数十年。
あんなにも無理をしたような笑顔を浮かべる事なんて無いはずなのに。
津炎を姫抱きしたのは、運びやすいってのもあるが、俺の弟に、炎露に重ねてしまったのもあるのだろう。
さっきまで握り締めていたであろう津炎の手は、爪が手のひらに食い込んで、血が流れていた。
手入れされた様子も、気にかけた様子も無いボロボロの爪に、痩せこけた手。
服で隠されて見えないが、この様子だときっとあばら骨が浮き出てるかもしれない。
胸が痛くなる。もしかしたら、炎露も最近食事を拒否しているし、こんなふうになっているのかもしれない。
そう思うと、兄だと名乗っておいて何もできない自分に少し腹が立った。
俺が津炎に優しくした所で何かが変わるわけではない。そんな事で罪滅ぼしをしようとしているなんて、兄さんに知られたらきっと笑われてから、怒って一発ビンタをかまされる。
兄さんは怒ると怖いからな……。
そんな事を考えながら車に乗る。運転手の人間に運転させながら、津炎の手の傷を応急処置してみる。
俺の手が触れると、津炎は微かに微笑んでみせた。
いい夢でも見ているのだろうか。
きっと、起きてる時には絶対に見せてくれない津炎の本当の笑顔。
俺は神だとかは信じない方だが、こればかりは少しだけ、神に感謝しても良いのかもしれない。
おれは、手先は器用じゃない。だから、包帯を巻くのは苦手だ。後で担当のやつにやらせればいいか。
今だけは、汚い巻き方だが、ここは目を瞑ろう。
津炎はまだ眠ったままだ。
相当疲れていたんだろうな。目の下には隈がある。きっと何日も寝ていない。今だけは、安心して寝てて欲しい。
砂利道に車が揺れる。
この振動はなかなかに痛い。怪我人がいても、これはどうする事もできないな。
半ば諦めていると、やっと、家に着いた。