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ベンチに座るエスターの足は冷たくなっていた。
風が吹く度腕を抱きしめる。
あの月の下に何も音がしなかった。ただ胸の奥で「何か」をかきむしる音だけ。
遠くで誰かの足音がした。
ドイツ兵?それともクララ?
振り返る気力はなかった。もう、なんでもいい。
その足音はまっすぐこっちに来た。
止まった、私の前で。
「…エスター。」
聞きたくない、一番聞きたくなかった
でも、聞いてしまった。
あの人の声。
ゆっくり顔を上げると、パパだった。
ナチスの制服じゃない。ただの黒いコート。髪は乱れてた、顔には深い隈。
目の奥だけがずっと昔と同じだった
私のことを見る。娘として。
「お前が居なくなったって…クララから…」
声が詰まる。
「遅くなってごめんな」
私は何も言えない、言いたくなかった。
パパの顔をじっとて見ていた。
ふいにパパはしゃがみ私にコートをかけた。私はそれを拒まなかった。
私は一言だけ呟いた
「……遅すぎ、」
パパは頷いた。その目には涙が溜まっていた。
そして、抱きしめてくれた。あたたかった