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(あ、けど……猫って部分は羽理、喜ぶかも知んねぇな)
そこまで考えて、論点はそこじゃなかったなと、大葉は頭を切り替えた。
はぁ、と溜め息混じり。意図して携帯の画面に視線を落とせば、まだ十九時にはなっていなくて。
急げば、ホームセンターの閉店時間に間に合うだろうか。
(ひとっ走り行って、布団を一式買ってくるか?)
そう思いはしたものの、それだと羽理をまた一人にしてしまうと気が付いた。
(置いてってる間にまた来客があったら嫌だしなぁ)
実際、そんなことは滅多にないのだが、大葉は岳斗の訪問で変に気が張ってしまっている。
かといって……連れて行くにしてもこんな太ももむき出しの可愛いルームウェアを着た羽理を、これ以上誰にも見せたくない。
もちろん、着替えさせている時間はさすがにないから、大葉は無限ループに陥って「うー」とうなった。
懸命に寝床をどうすべきか思い悩んでいる様子の羽理を横目に、嫉妬心丸出しでそんなくだらないことを思ってしまっている自分はある意味バカだなと思ってしまった大葉だ。
***
で、結局――。
「ほっ、ホントに良いのかっ!?」
「なっ、何度も聞かないで下さいっ。決心が鈍りますっ!」
羽理からベッドで一緒に寝ましょうと提案された大葉は、そんなやり取りを繰り返した後、羽理が落っこちたりしないよう壁側を彼女に譲って、自分は逆に今にも落ちそうなくらいベッドの端っこに寝かせて頂いている。
せめてもの温情というか……自分への戒めで羽理に背中を向けているのだけれど――。
「あ、あの……落ちたら大変です。もっ、もうちょっとだけこっちに来ませんか?」
羽理に服のすそをキュッと引っ張られて、大葉の〝タイヨウ〟は結構ピンチなのだ。
「こっ、これ以上そっちへ行ったらさすがにまずい」
背中を引っ張る羽理からじりじりとさらにベッド脇へと逃げると、背後の羽理が「でも! 大葉があんまりそっちに行ったら……私、背中が出て寒いんですっ」とか言ってくるから。
「ああああーーーっ!」
と悶絶しながらむくりと起き上がった大葉は、自分の方へ巻き込まれて落ちそうになっていた掛け布団をグイッと引っ張って羽理の上に着せ掛け直してやった。
だが――。
「う、ぁっ!」
緊張の余りバランスを崩した大葉は、期せずして羽理の上に覆い被さる形ですぐ間近。
羽理の顔を見下ろすようになってしまって。
結果、変な声を上げる羽目になった。
(何だってこんな薄暗がりのなか、俺の目はこんなに優秀なんだ!)
本来ならば見えないはずなのに、お互いの吐息すら感じ取れるくらいに近付いてしまったからだろうか?
「……大葉?」
ちょっぴり眦の吊り上がった猫のようなアーモンドアイをした羽理が、驚いたようにじっと大葉を見上げてくる、その目元のまつ毛の一本一本まで事細かに確認出来てドギマギしてしまう。
ああ、そう言えばベッドに入る前、羽理が「慣れない部屋で大葉がテーブルとかにつまずいたらいけないから」とか言って、シーリングライトの豆球をひとつ、点けっぱなしにしてくれていたんだったなっ!?と今更のように思い至った大葉だ。
(……にしたって見えすぎだろ!)
それに、そのことを思い出したからと言って、現状が変わるわけではない。
(ちょっ、待っ……、そもそも何で俺、こんなバカな格好になってる!?)
パニックの余り、羽理の上に影を落としたまま、身動きの取れなくなった大葉は、誰にともなく問い掛けてみたのだけれど――。
当然答えなんて返ってくるはずがない。
ばかりか――。
「あ、あの……大葉……」
そっと大葉の腕に触れてきた羽理が、ギュゥッと目を閉じて。まるでキス待ちのように「んー」っと唇を突き出してくるから。
(ば、バカっ。その顔は反則だろ!)
と思った大葉だ。
本来ならば、二十歳を越えたいい年の女性が、こんな風に分かりやすく唇を突き出すのは笑える行動だと思う。
目のつぶり方だって、そんな力を入れたら逆にギャグだと思うのだけれど。