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MOMO🩲
ひな
104
けだま15号🍓🐾໊
6,356
夕鳴
128
『見つけた』
その言葉が響いた瞬間。
世界が止まった。
風が消える。
川が止まる。
炎も。
音も。
全て。
静止した。
旅僧は息が出来ない。
身体が動かない。
声も出ない。
だが。
意識だけは残っている。
最悪だった。
逃げられない。
目を逸らせない。
巨大な瞳が。
空の全てを埋め尽くしている。
そして。
見ている。
葛城佐衛門を。
いや。
菫を。
その時だった。
渡守が舟を蹴る。
轟音。
止まっていた川が動き出す。
世界が軋む。
旅僧の身体も自由になる。
「下を見るな!」
渡守が叫ぶ。
「空を見るな!」
矛盾した言葉。
だが。
誰も疑わない。
今は従うしかない。
その時。
忘れられた岸の人影たちが動いた。
一斉に。
空へ向かって。
手を伸ばす。
助けを求めるように。
あるいは。
何かを押し返すように。
旅僧は凍り付く。
岸を埋め尽くすほどの死者たち。
その全てが。
同じ方向を向いている。
巨大な瞳へ。
その時。
墓守が前へ出た。
静かな足取り。
だが。
覚悟は決まっていた。
「時間を稼ぐ」
鐘撞きが顔をしかめる。
「馬鹿言うな」
「馬鹿じゃない」
風が吹く。
「こういう時の為の」
小さな笑み。
「俺だ」
旅僧は息を呑む。
その言葉の意味を。
理解してしまった。
その時。
佐衛門が言った。
「死ぬ気か」
静かな声。
墓守は笑う。
「まさか」
風が吹く。
「もう死んでるようなものだ」
軽口だった。
だが。
その目は笑っていなかった。
その時だった。
空の瞳が瞬く。
たった一度。
それだけで。
世界が裂けた。
川が割れる。
空が割れる。
地平線が割れる。
旅僧の悲鳴が漏れる。
「何ですか、あれは!」
裂け目。
その向こう。
闇。
底のない闇。
そして。
何かがいる。
巨大すぎて。
形すら分からない。
ただ。
こちら側を覗いている。
ほんの僅かに。
近付いている。
「不味いな」
お師さんの声が低い。
今までで一番低い。
「近過ぎる」
鐘撞きも顔を青くする。
渡守も。
墓守も。
誰も動けなかった。
その時。
忘れられた岸の少女が動く。
黒髪の少女。
ずっと佐衛門を見ていた少女。
彼女は歩く。
静かに。
川の上を。
そして。
佐衛門の前で止まった。
風が吹く。
花の匂いがした。
懐かしい匂い。
少女は微笑む。
泣きそうな顔で。
『ごめん』
静寂。
佐衛門の胸が軋む。
何故だ。
何故そんな顔をする。
『私が』
風が吹く。
『見付けさせた』
旅僧が凍り付く。
渡守も。
鐘撞きも。
墓守も。
顔色が変わる。
少女は俯く。
震える声で。
『寂しかった』
静寂。
『会いたかった』
涙が零れる。
『だから』
その瞬間。
佐衛門の頭の中で。
何かが繋がった。
花守。
約束。
春の日。
笑う少女。
そして。
雪の日。
失った何か。
あと少し。
本当にあと少しで。
思い出せる。
その時だった。
少女が叫ぶ。
『思い出しちゃ駄目!』
轟音。
川が荒れる。
空が震える。
巨大な瞳が。
明らかに反応した。
そして。
旅僧の札が燃える。
今まで見たこともないほど強く。
文字が浮かぶ。
血のように赤く。
滲みながら。
『真名を守れ』
静寂。
全員が息を呑む。
続く文字。
『思い出せば』
風が止む。
そして。
最後の一文。
『門が開く』
誰も。
言葉を発しなかった。
ただ。
川の向こうで。
巨大な瞳だけが。
菫を見ていた。
コメント
1件
ああ、もう…冒頭から「見つけた」の一言で心臓掴まれました。世界が止まる感じ、すごく映像が浮かびました。特に、黒髪の少女が「寂しかった」「会いたかった」って泣きそうに笑うところが切なくて…涙腺に来ました。花守とか雪の日とか、まだ繋がってない記憶の断片がこれからどうなるのか、気になって仕方ないです。最後の札の「真名を守れ」「門が開く」も背筋が冷えました。重くて美しい一話でした。