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⚠自己満夢小説
⚠お相手→宮治
⚠夢主と治は両片思い設定
⚠夢主と治は同じクラスの同級生設定
■ 恋 の 知 ら せ
「次の家庭科、クッキー作るんやろ?」
とある日の昼休み。
私の前の席に座る治くんはイスに逆向きで座って、組んだ腕に顎を埋めながらそう話しかけてきた。
上目遣いが妙に可愛らしい。普段背が高くて見下げられる側の私だから、尚更かも。
「よく知ってるね…。ほんと食べ物に関する情報だけは早いんだから」
「なぁなぁ、俺にも少し分けてくれへん?」
「えぇー…」
「俺が家庭科取ってへんの知っとるやろ?」
もちろん私は渋った。
治くんは普段から色んな人(主に女子)から食べ物を分け与えられている。
それは市販のお菓子であったり、購買のおにぎりであったり、時には…手作りのものだったりもする。
家庭科で調理実習があれば、治くんに渡しに来る女子がいるのは当たり前。
それなのにわざわざ私に頼んでくる理由が思い付かなかった。
「…上手くできたら…ね」
「やった。約束な。絶対やで」
「はいはい」
心底嬉しそうに目を輝かせ、普段あまり変わらない表情を崩すようにはにかむ治くん。
好きな人のそんな表情を見たら、不本意ながらも繋がれた約束を破る事はできなかった。
( うわ、失敗しちゃった… )
午後の調理実習。
オーブンから取り出されたトレーに並ぶクッキー達は、全てひび割れていたり所々焦げていたりと不格好なものだった。
普段からあまり難しい料理はしない。
お菓子なんて以ての外。だいたい私はどちらかと言うと食べる専門だし。
治くんだって、本気で私の手作りが欲しかったんじゃなくて確実に貰うために言ってきただけで、貰えるなら誰からでも良いんだろう。
…自分を納得させたくてそんな言い訳を頭の中で並べても、心がチクリチクリと痛むだけ。
とりあえず透明の袋とリボンでラッピングをしてみたものの、お世辞にも上手とは言えないものだった。
そして渡せないまま時間は過ぎてゆき、気付けば放課後。
私はクッキーをバッグの奥に押しやったまま、ホームルームが終わるとすぐに帰ろうとした。
「ミョウジちゃん」
「…どうしたの?治くん」
なんてとぼけるけど、治くんは子犬のような瞳で私を見つめてきた。
「調理実習どやった?クッキー作ったんやろ?」
「うん…。でも全部食べちゃった」
「嘘や。さっきバッグん中に入れてるとこ見た」
「なっ…」
「……他に渡したい奴がおるん?」
「ち、違う!」
思いもよらぬ言葉に咄嗟に首を横に振る。
他の人に欲しいって言われたって、わざわざラッピングして渡したりなんてしない。
って、本人に言えたらどれだけ楽か。
「…失敗しちゃったの」
「失敗?」
「うん」
私はひとつ息を吐くと、バッグの中からクッキーが入った袋を出して見せた。
バッグの中に押し入れたせいでリボンもよれて、ビニールもクチャクチャ。
中のクッキーだけキレイになってるなんて魔法のような事があるわけもなく。
俯くと、窓から差し込んだ夕日で2人の影が伸びているのがわかる。
部活へ行ったり帰ったり、すっかり人が少なくなった教室。
それでもまだ数人は残っているというのに、この空間に私と治くんだけしかいない気さえして、沈黙が耳を貫いた。
「もっとキレイなのを他の子に貰った方がいいと思うよ」
「ううん、俺はミョウジが作ってくれたのが食べたいんや。やっぱ貰ってええ?」
「でも…」
治くんのグレーの瞳が、夕暮れの朱色と混ざって熱を持つ。
真剣な眼差しに射抜かれ、私は恐る恐る袋を差し出した。
「食わして」
「えっ!?それは流石に…。ゔっ」
甘えん坊な子犬のような顔。
治くんは私がこの顔に弱いことを分かってて、いつもする。
リボンを解いて袋からひとつクッキーを摘む。
と、その私の手を治くんの手が包み、屈んで近付いた治くんの口元に引き寄せた。
サクッ。
軽い音が妙に鮮明に耳に響いた。
治くんの手から伝わる体温。普段より圧倒的に近い距離にある整った顔。指先に感じる吐息。
「っ……」
思わず息を飲む。恥ずかしくて顔を背けたいのに、治くんの瞳から目が離せない。
その一瞬の出来事が、私には1分にも10分にも、永遠にすら感じられた。
「ん、美味いやん。ミョウジちゃんが作ってくれたから」
「っ、それ手作り貰う度に言ってるの?」
「はぁ?何言うてんの。手作りのお菓子なんて高校入ってから貰ってへんわ」
「嘘だ、私何度も見てるよ。女の子が治くんにお菓子渡してるの」
「渡されても受け取ってへんっちゅうねん」
「なんで?食べるの好きでしょ」
「はぁ…、まだ分からへんの?」
「?」
呆れたようにため息を吐いた治くんは再び屈むと、私の手元に残ったクッキーを咥えて器用に口の中へ入れた。
そして口の端に付いたクッキーの欠片を親指で取り、ペロリと舐め取って言ったのだ。
「俺らが初めて会ったの、高校入ってからやろ」
私たちが出会ったのは高校1年生の時。
「ミョウジちゃんに会ってから、ミョウジちゃんの手作り以外、貰ってへん」
バクバクとこれ以上ないくらい心臓が鼓動する。
「意味、分かるやんな?」
彼からの恋の知らせは、少しほろ苦いクッキーの味だった。