それからしばらくの間、僕は未来の映像の中から抜け出す事が出来ず、身動き1つ出来ない状態に陥っていた。
「紺野さん!」
ハッ!?
葵さんの声で現実に呼び戻された。
「ごっ‥ごめん。考え事をしてた」
「大丈夫ですか?」
「えっ‥えぇ…‥」
葵さんが、心配そうな顔をして手を差し伸べてくれたのに、僕は躊躇してしまった。
「紺野さん…‥」
「だっ‥大丈夫だよ」
すると葵さんは、後ずさりをしながら僕から離れた。
「瑛太さん、顔色悪いですよ」
少しの間、床に膝をついてしゃがんでいると、亜季ちゃんは僕に歩み寄り、手を取って起き上がらせてくれた。
「ありがとう。用が済んだから、もう帰るよ」
とにかく今は、この場から離れたかった。
葵さんから伝わってきた映像を見てから、震えと激しい動悸を抑えられないでいた。
「瑛太さん…私、途中まで送ります」
「ありがとう。そうしてもらえると助かるよ」
いつもなら遠慮して断わる所だけど、今は亜季ちゃんに傍にいてもらいたかった。
1人にはなりたくなかった…。
「瑛太さんが、いいって言うまで傍にいます」
「亜季ちゃん…‥」
「何か2人とも良い感じじゃない?」
「美咲ちゃん、無理しなくていいから…」
「・・・・・」
遠藤さんは黙ってしまうし、2人の会話の意味は全くわからないし…。
一体何なんだ。
ふと…葵さんが先程までいた場所に目を向けると、リビングからは既に姿を消していた。
「葵さん…」
僕のせいだ。僕があんな行動をとったから…。
「葵ちゃ~ん、紺野くん帰っちゃうよ! いいの?」
遠藤さんが、大声で呼びかけていたけど何の反応もなかった。
「瑛太さん、行きましょう」
「うっ‥うん…‥」
そして、僕は亜季ちゃんに支えられながらエレベーターで1階まで降りて、マンションの外に出た。
「どこか休める場所あるかな?」
「公園なら、すぐ近くにありますよ」
「ちょっと寄ってもいい?」
「はい…」
公園に着くとベンチに座り、1人考え事をしていた。
もちろんそれは、葵さんの能力と葵さんから伝わってきた未来の映像の事だった。
僕が考え事をしている間、亜季ちゃんは一言も話しかけてくる事なく、ただ黙って待っていてくれた。
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