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星が……綺麗だ……
ただひたすらに……星が綺麗だ……
目を開けても、目を閉じても、そこは満天の星空で、そこは私だけの世界、まるで私の心の中を覗いているような、そんな気がする。旅立つのにこれ以上うってつけの星空はない。
私はそっと心の自分に問いかける。
「もう準備はできた?」
言葉の代わりに心は拍動の音で返す。まるで、“ワクワクが止まらないから早く出発しよう!!”とでも言っているようだ。でも、これでこの星を見ることもしばらくなくなるのかと思うと、やっぱり少し名残惜しい。しかしそんなことを言っているようじゃいつまで経っても夢に追いつくことはできない。
(よし、行こう……)
私はペダルを足で押し、自分を育ててくれた“ここ”に一時の別れを告げた。
田んぼの横の電灯が何本か頼りなさそうに立っている小道を、スピードを出して進んでいく。私の人生の軌跡を1つ1つ確かめながら。この田園風景も、この周りの山も、まるで家族のような温かい村の人たちも、しばらく見ることは叶わなくなる。でもずっと変わらず、私の心の中に在る。いつもきっと支えてくれる。私の宝はずっとそばに在る。そう分かっていても、自然と涙は出てくるものなんだってことを、今始めて知った。
「そうだ、泣いてる場合じゃなかった。あいつのとこに行かないと」
あいつ、正樹(まさき)は幼馴染だ。そしてトンデモ鈍感野郎。ちょっとは気づいたって良かったのにな……なんて思っても仕方ない。この思いはもう閉まっておくって決めた。そんなことを言いながらまだ淡い期待を抱いている自分は、ホントに諦めが悪いなと思う。
予想通りあいつはこの寒い中、外に出て待っていた。鈍感なくせして無駄に優しいのがちょっとムカつく。
「お、来たか!!待ってたぞ!!」
「うん、ありがとね」
「ん?今日はやけに素直だな。あ、あれか?もしかして俺と会えなくなるのが寂しいのか?w」
「そ、そんなわけ無いでしょ?あんたのほうが寂しいんじゃないの?」
そりゃ寂しくないと言ったら嘘になるが、間違ってもこいつの前でそんなことは言えない……
「いやいや、俺は友達たくさんいるし、1人遠くに行ったくらいで寂しいなんて思わねーよ!!」
「あっそ……」
「おいおい、そう落ち込むなって。向こうに行っても1日1回は電話してやるってw」
「1日1回は流石にいらない……でも……」
「ん?」
「1ヶ月に1回は必ず連絡してよ?……」
「お、おう……お前……今日もしかして熱ある?」
「え?いや、そんなんないし!!」
「なんかいつもとだいぶ違うような……」
「あーもう!!この話は終わり!!とりあえず私が帰ってくるまでこの自転車預かっといてね!!じゃ!」
そう言うと私は寂しい気持ちを突き飛ばすように走り出した。
「あ、ちょっと!!おーい!……ったく、そういうこと言われると、こっちだって意識すんだろ……さて、この自転車は大事に閉まっておくかな……頑張れよ、千遥(ちはる)……」
走って走って、息が切れる頃にはもう、寂れた無人駅の入り口に私は立っていた。
「ッハァ、ハァ……」
心臓がはち切れんばかりに激しく脈打っている。いくら全力ではないとはいえ、2分近くもしかもこんな大荷物を持ちながら走り続けたら、流石に疲れる。
「遂に、ここに来た……」
ここから先へ行けばもう戻ることはできない。でも、もう決めたんだ。“夢という星を必ずこの手に掴んでみせる”と。
さぁ、もう改札を通る時間だ。私は夢を追うための切符を購入し、夢の入り口のゲートを通り抜けた。
「またね、私の故郷……いってきます!!」
私を乗せた終電は目的地へとゆっくり進み始めた。