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ある日、朝起きると10時だった。
7時に起きてコーヒーでも入れようと思っていた時間からは、随分過ぎている。
今日は休日だし特に予定があるわけでもない。
だがなんとなく1日のリズムを崩したくない俺にとっては、とんでもないことだった。
普段は遅くとも8時半には身体を引き摺ってリビングまで行ってるというのになんでこんなことになったのか、シシルがいないからだ。
どこに行っているのかはわからないが、俺が何しようと起きない早朝の時間帯に出かけたらしい。
最近はシシルが上段のベッドに頭をぶつける衝撃で起きるので、迷惑になるかもしれないアラームはセットしないことが増えた。
だから起きるきっかけがなかった今日はこんなにも寝坊したというわけだ。
ここ10分ほど、ベッドの上で想像通りに行かなかった1日への苛立ちと悔しさ、そしてその気持ちを感じてしまう自分の情けなさに一通り落ち込むという、お決まりのフェーズに入ってしまったので全く動けない。
いつもこうだ。一個崩れたらもうダメになるから、細心の注意を払っていたのに。
「あ、美鶴くんおはよ。」
呑気に部屋に入ってきたシシルは、顔を伏せて丸まっていた俺の背中を見て起きたことを理解したらしく、小さな声で朝の挨拶をする。
それがどうもイラついてイラついて、元々はお前が1日の流れを壊すからいけないんだろうとか、理不尽な怒りが湧いてくる。
「朝ごはんフレンチトーストだよ。美味しかった。」
この間ドカ盛りの生クリームが乗ったクレープを食べてから、俺が甘党だと気付いたらしく、時々こうやって「お菓子あるよ」とか「コージーコーナーあるって」とか甘いもので釣ろうとする。
その時のニヤケ面と言ったらどうもカンに触るもので、それが余計に神経を逆撫でする。
「ねえ美鶴、今日さ、朝、」
「うるせえよ。なに、そっちが変則的な動きされると困るんだけど。」
完全なる八つ当たりだ。
何か言おうとしていたシシルを遮って、自分の苛つきをぶつけた。
その瞬間は少しスッキリした気分になるが、すぐに後悔と自己嫌悪の波が襲ってくる。
コイツのことは嫌いだが、だからといって邪険に扱って良いはずはないとわかっているのに、止められない。
こんなにも自分の感情をコントロールすることができない自分はまだまだ子供で、中学生の頃大人だと思った自分の理想像からうんとかけ離れている自分に絶望すらしてくる。
これ以上は今考えたくない。自分のキャパが溢れる前の戦略的撤退だと言い聞かせ、再度毛布を被った。
「もういいや、寝る。」
「おっけ〜次は起こしたげる。何時間後?」
「……2時間後」
「りょかい〜」と言い、ベッドの上に広げられているノートを踏みながら、また新たなノートを出すシシルの姿が、布団とベッドの骨組みの隙間から見えた。
八つ当たりで負の感情をぶつけられてもこうして飄々としていられるのは、コイツが俺よりも大人なのか、なにも考えてないバカなのか。
もしかしたら傷ついているけれどそれを表に出すのが得意じゃないのか。
わからないけれど、今はそれにホッとした。