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瀬名 紫陽花
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「……おい、朝だぞ。起きろ」
揺さぶられて目を覚ました。視界の端に映った時計を見ると、13時だった。またやってしまったのかもしれない。
メリルの手を振り払って、体を起こす。
「っ……おい、起こしてやったのになんだその態度は。僕がわざわざ起こしてあげたんだから、もうちょっと優しくしてくれても良くない?」
「……ごめん」
弱々しく謝れば、メリルはため息をついて腕を組んだ。そのまま目を逸らして、言いづらそうに言う。
「ダーリン、その……なんだ。野菜が雪で死んだから、当分は肉だけだからな」
メリルはそれだけ俺に伝えてから、踵を返して居間に戻っていく。
自分も立ちあがろうとしたが、眩暈がしてそのまま壁に手をついた。
「……メリルぅ……待って……」
そんなことを弱々しく吐きながら、のそのそと表現するに相応しい足取りで居間に向かう。
メリルの部屋の扉を通り過ぎて、居間の扉を開けると、メリルは台所にいた。
何か作ってくれているんだろうか。それとも、ただ単に湯を沸かしているだけなのだろうか。ここからでは分からない。
「……メリル? なぁにしてるのぉ……?」
ゆっくりと、驚かせないように近づいて、メリルに後ろから抱きつく。ぎゅっと、軽く。とても優しく。
「……離れてくれない? 僕たちそういう仲じゃないでしょ」
「うぅ……だってメリルあったかいもん……」
ぎゅ、と抱きしめる力を込めた。メリルが苦しそうに呻く。
「うぅっ……お前のことを信じられないよ。お前のことをダーリンと呼ぶのさえ億劫なのに」
「それは俺の名前だよぉ……馬鹿にしないでよぉ……」
肩越しにメリルの手元を覗いてみる。そこには、なかなか粗末なスープがあった。赤黒いような気もするが、いつものことだ。まともな調味料がないからってのもあるが。
メリルから離れると、メリルは安堵のため息をついていた。俺はそのまま居間に戻っていく。
「ねぇ……メリルぅ……」
「んだよ」
「パンとか……ないの? 俺、お腹空いてるんだけどぉ……」
そう言った途端、メリルが舌打ちをしたような気がして、肩が跳ねた。怒られてしまったのかもしれない。
スープを器に移しているメリルは、こちらを見ることもなかったが、言葉は返してくれた。
「……僕が朝食べたよ。お前の分もあったんだぞ、お前が起きてこないのが悪いんじゃないか。あぁ、そうだよ、お前が悪い」
「……ご、ごめん……」
俺がそう言うと、メリルはまた舌打ちをした。この状態のメリルは何をしても怒ってくるから、あまり好きではない。だって怖いから。
でも、メリルは俺の事を世話してくれる。そこだけはいい所なのかもしれなかった。
「ほら、出来たぞ。お前にとっては朝食だけど、僕にとっては昼食だからな。お前のせいで一食分無駄になったってことを覚えておけ」
「う、うん……分かった……」
受け取ったスープを飲みながら、ふと窓の外を見る。一面真っ白だった。どうやら今日も外に出ることは出来なさそうだ。
まぁ、僕はメリルが家に居てくれるなら、何もしなくていいから楽で嬉しいんだけど……メリルは日に日にイライラしている気がする。ちょっと怖いな。
コメント
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読み了しました。第1話なのにすでに濃い関係性が見えてきますね。ダーリンの甘えた口調と、世話しつつイライラが滲むメリルの距離感が絶妙です。「野菜が雪で死んだ」という一文だけで外界の状況を匂わせる構成も好み。二人だけの閉鎖空間と、時間感覚の曖昧さ——「朝食か昼食か」が日常の曖昧さを象徴しているようで、続きが気になります。設定の設計が丁寧で引き込まれました。