渡部は気乗りしてきた顔だった。渡部は大学帰りの近くのコンビニから、この世界に来たようだ。三本のフライドチキンと二リットルのお茶を持って。どうやら、痩せ型なのに油ものが大好物の様だ。
「ちょっと、待って。何か……」
呉林は考え込むときの癖の様で、何やら俯いて、ぶつぶつと独り言をいいだした。それから、しばらくすると、顔を上げ、
「遠い南の方のようよ。それは、地面に埋まっているみたい」
「地面ですか」
渡部は黙りこんだ。
「南の方って、俺たちが最初に寝てた所じゃないか。戻って穴掘り……」
私は気が遠くなりそうだった。ただでさえ、炎天下できついのに。その上、どこにあるのか解らない何かを。しかも、穴を掘って探し出すのは到底考えたくないことだった。それに、最初から呉林が気が付いていれば、苦労してゴルフ場を歩き回らずに済んだのでは?
「みんないるから大丈夫。元気をだして。きっと、助かるわ。希望を無駄にしないで」
呉林は背筋を伸ばす、けれど、たった五人でこの広大な世界の元来た道を穴を掘って探すのは、不可能に近い。
「けれど、何日かかろうとやらなければ、元の世界に戻れないんだろ」
角田は覚悟を決めたようで立ち上がる。
私もやる気をだして立ち上がった。この世界から抜け出るために。
安浦もキッチンになっていた奥から、こちらに来て、参加してくれるようだ。渡部と呉林も立ち上がった。こうして、五人で私たちが来た道より、遥か遠くを命に危険なほど猛暑の中、穴を掘りながら探すことになった。
私たちは呉林の指示で、私と呉林と安浦がこの世界で最初にきた雑木林に向かうことにした。
念のために、私と呉林と安浦はテイーカップを、角田と渡部はプラスチックのコップを各々持って行った。雨が降ったらそれで受けるためだ。そして、渡部が持ってきたお茶の入ったペットボトル。
炎天下の猛暑はやはりひどく、五人は熱を持った頭をそのままにした。帽子がないことと、体中を流れる滝のような大量の汗。
1時間くらいで、私は早くもリタイアしたかった。渡部の方を見ると、くたくたというより、リタイア寸前の様子。誰でもそうだが、渡部はとくに雪国出身だと言っていたので、炎天下は天敵のようであった。
「後、どれくらいですか」
渡部は泣きべそを掻いて呉林に言った。
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