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「まだ、これからよ」
風だけは以外と涼しい。ここが、非現実な広大なゴルフ場だということを一瞬でも忘れさせる。しかし、帽子もないのは危険過ぎだった。
安浦は汗のかき過ぎで、青い顔をしている。カジキマグロを喜び勇んで料理した時の顔とは、正反対だった。
「大丈夫か安浦」
「な……なんとか。ご主人様」
私の言葉に反応して、青い顔は少し晴れた。
3時間くらいかけて雑木林に着く頃には、2リットルのペットボトルは空になっていた。雨は降らず、空はからからだった。
「暑い、暑い、丁度日影がある。少し休もう赤羽くん」
暑さに根を上げた角田は雑木林の方へ向かって、日影にどっしりと腰をおろした。それを見て呉林は「ええ、そうしましょ」と賛同した。
みんなが、日蔭に座る。やはり、この世界には夜がなかったようだ。この世界にきてから、10時間は経ったと思われるが、空は相変わらず猛暑で少しも変わっていない。昼も夜も朝もない。
「呉林。気がついたんだが、穴を掘るものなんて無いぞ。手で掘るしかない。かなり深いところにあるとしたら、お手上げだぞ」
私は家にすぐに帰りたかった。
「そうね。その時はみんなで池の水を飲みましょ」
休憩が終わり、東に向かってしばらくすると、みんな汗でバケツをかぶったようにびしょびしょの格好になった。疲れてきていた。頭もぼーっとして、これからの重労働どころではない。
「水もないし、池もない。どうしよう。あ、暑いよー……」
角田は疲れ果てた顔つきになって、さすがに弱音を吐いた。
「とりあえず、目的地らしいところに着いたわ」
呉林は少し先の広大な砂地を指差した。ぼっかりとこれでもかと空いているバンカーだ。かれこれ、休憩をした雑木林から1時間余り東に行ったところだった。
「何で掘るんですか」
渡部ももう真っ青でふらふらだ。
「手よ」
この灼熱の世界で、炎のような広大な砂地を手で掘るのは気が引けるどころか、自殺行為なのでは……。
私は目が回った。今から水分補給をしに、遥か西へ戻れるワケでもない。呉林がいても、ここで死んでも何も可笑しくはない。どうしても、この灼熱地獄の真っ只中、砂地に入りたくは無かった。グラグラする頭から死の文字を必死で追い出した。