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私は覚悟を決めて指定されたホテルに向かった。


約半月ぶりに奏多に会えるのは正直うれしい。

会いたい思いは日に日に募っていたから。

でも、黙って姿を消してしまった手前会ってしまうのが怖い気もする。


「いらっしゃいませ」


ここは都内のホテル。

先日おじいさまの誕生パーティーをしたのと同じ場所。

私はこのホテルのラウンジに行くようにと琴子さんから言われてきた。


「平石で、予約しているはずですが」

「はい。承っております」


ラウンジの責任者らしい男性に仰々しく頭を下げられ私は窓際の席に案内された。



さあ、約束の時間まであと少し。

奏多のことだから遅れてくるってことはないだろう。

あと数分後には私は奏多と対面しないといけない。


「あの、よろしければお部屋をご用意できますが」

「いえ、いいんです」


きっと、琴子さんが予約した席だと知ったうえで気を使ってくれているんだろうと思う。

でも、今日はここがいい。

誰もいない個室で奏多と2人になるには不安がある。

このくらい人がいる方が気が楽でいられる。

逃げ出してしまった後ろめたさがある分、奏多と正面から向き合うには勇気がいるから。


***


「芽衣」


ん?

名前を呼ばれ、窓の外を眺めていた視線を戻した。


「久しぶりだな」

「うん」


そこにいたのは少し疲れた顔をした奏多。



奏多が席につき、2人で向き合って、訪れる沈黙。



「ご注文がお決まりですか?」

「俺はコーヒー」

「私はオレンジジュース」


私が注文するのを聞いて、奏多が不思議そうな顔をした。



「珍しいな」

「そお?」


普段酸味のあるものを好まない私がオレンジジュースを注文したことが不思議だったらしい。


「体調が悪いのか?」

「大丈夫」

「嘘つけ、顔色がよくないぞ」


それを言うなら奏多だって。

そう言い返そうと思ったけれど、言い合いになりそうでやめた。



飲み物が運ばれてくるまでの間、また沈黙が訪れる。


おかしいなあ。

言いたいことも、言わないといけないこともたくさんあるし、奏多だって言いたいことがあるはずなのに、言葉が続かない。


「お待たせしました」


飲み物が運ばれてきて、奏多と目が合った。


***


きっと怒られるんだろうなと思って、今日はここへ来た。

奏多にはすごくよくしてもらったのに黙って姿を消してしまったし、何度もくれる連絡を無視し続けてきた。

どんなに怒られても言い訳できないと覚悟してきたのに。


「ごめんなさい」

怒りよりも寂しさを浮かべる奏多の表情を見て、先に謝った。


今の奏多が、怒っているのか、呆れているのか、私のことを切り捨てようとしているのか、その真意はわからない。

ただ、いつもならもっと激情的に怒るはずの奏多が普段と違うことに不安を感じた。



「そんなに俺が嫌いか?」

「え?」


いきなり聞かれ、ポカンと口を開けてしまった。

「黙って消息を絶つほど、俺のことが嫌いになったのか?」

「違うっ」

「じゃあ」


何でいなくなったんだって言いたそうな奏多。


「ごめんなさい」

私は謝ることしかできない。


「平石の名前がそんなに重たかったか?」

「そうじゃない」


奏多のことが好きだから、負担になりたくなかった。

私には何の力になることもできないから。


「俺はただ、芽衣の側にいたいと思った。それだけだったのに、お前にはそれが負担だったんだな」

「ごめん」

「もういい」


その言葉を聞いた瞬間、目の前の景色が揺れた。

泣かない。

泣きたくない。

私は今日奏多と別れるためにここへ来たんだから、泣いたらダメ。

わかっているのに、涙が止まらない。


***


しばらく、私は涙を流し続けた。

奏多は気づかないふりをしてコーヒーを飲んでいた。



「ところで、何で母さんと芽衣が知り合いなんだ?」

「は?」


奏多のお母様?


どうしてここで奏多のお母様が出てくるのかわからない。


「芽衣のことを母さんが保護しているって聞いたんだが?」

「えっと・・・それは・・・」


え、あぁ、もしかして・・・


「琴子さんは、奏多の・・・」

「母だ」


嘘。

そんなあ・・・


私の頭の中で何かが音を立てながら崩れていく。


冷静になって考えれば、わかりそうなものなのに。

どうして今まで琴子さんの素性を確認しようとしなかったんだろう。


は、は、はぁ・・・息が苦しい。


「芽衣、しっかりしろ。大丈夫か?」


遠のく意識の中で、焦った奏多の声を聴いた気がする。


***


目が覚めると、ベットに寝かされていた。

真っ白な天井と少し硬めのベット。

きっとここは病院だ。


えっと、何があったんだっけ。

ホテルで奏多と会っていて・・・そうだ、琴子さんが奏多のお母様だって聞かされて、急に息が苦しくなった。


「芽衣?」


ん?

声のする方に視線を向けると、じっと奏多が睨んでいた。


ヤダ、怒っている。

本当なら逃げ出したいところだけれど、ベットの上では身動きもできない。


とりあえず起き上ろうと体を起こそうとして、

「寝ていろ」

奏多に肩を押されて戻された。


「大丈夫だよ、もう平気だから」

精一杯元気アピールをするけれど、

「いいから寝ていろ」

硬い表情の奏多に言われ逆らえない。


まずいなあ。

かなり怒り心頭の様子。

ここまで機嫌の悪い奏多は見たことがない。


***


「話があるなら聞く」

まっすぐに私を見据えたまま、奏多が聞いてきた。


「別に・・・」

「ないのか?」


ないわけじゃないけれど、奏多がどこまで知っているかを確かめないことにはうかつなことは言えない。



「・・・」

「・・・」

またまた訪れてしまった沈黙の時間。



沈黙に耐えかねた私は、もう一度ベットを出ようと起き上がった。

今度は肩を押さえられることもなく、ベットから床に足をおろそうとしたその時、


「強情な奴だな」

呆れたような声がして


え、ええ。

私の体が宙に浮いた。


奏多が私を横抱きにして抱え、そのままベットに腰掛けたのだ。


「ちょ、ちょっと」

いくらなんでも恥ずかしすぎる。


必死に逃げようとする私に絡まった奏多の腕はビクともしなくて、身動きが取れないまま私は抱きかかえられ続けた。


***


「もう一度聞く。俺に話すことはないか?」


横抱きに抱えられたまま、息がかかりそうな距離で尋ねられる。


「・・・」

それでも私は何も答えなかった。



ぺチン。

「痛っ」


まさかのデコピン。


「お前はマリア様か?一人で子供ができないって、幼稚園児でも知っているぞ」

この状況で、なぜか奏多の表情が緩んだ。


やはり、バレていた。

こうして病院にいるからにはおそらくそうだろうと思っていたけれど、もう少し落ち着いて冷静に話がしたかったのに。


トントン。

ドアをノックする音。


返事を待たずにドアが開き、


「あら、ごめんなさい」

琴子さんが驚いた顔を見せた。


「あ、すみません」

私も慌てて奏多から離れようとするけれど、奏多は離してくれない。


「ちょ、ちょっと奏多」

お母様の前で恥ずかしすぎる。


「いいわ、そうしていなさい。あとでまた来るから」

琴子さんの方が気を使って出て行ってしまった。


***


「お願い、降ろして」

私はもう一度頼んだ。


「じゃあ、自分の口で言えよ」

そう言って私を見下ろす奏多。



フー。


「・・・妊娠しました」

「うん」


「あなたの子です」

「知ってる」


「逃げ出して、ごめんなさい」

「ああ」


伝えたかったことも、言いたかったことも、やっと言えた。


「ったく、手のかかる子だな」

抱きしめている手は緩めることなく、クシャッと髪をなでられた。


「赤ちゃん、産んでもいい?」

「もちろん。俺も一緒に育てる」


「・・・ダメだよ」


奏多には未来があるのに。

もっともっと大きな仕事をして、日本の経済を担っていくんだから。


「バカだな。俺が芽衣を離すわけないだろう。俺から逃げ出そうなんて無駄な抵抗はあきらめるんだな」


いつもと変わらない自信満々な態度。強気な口調。

でもその眼差しはとっても優しくて、伝わってくる温もりは心地いい。


***


「俺はこの子の父親だ」

私のお腹にそっと手を乗せる奏多。


そうか、私はこの子からお父さんを奪うところだったんだ。


「妊娠を告げないなんてありえないだろう」

「ごめん」

「これからはずっと俺がそばにいるからな」


不思議。さっきからまったく悪阻がない。

今まで常に感じてきたムカムカもない。

やっぱり奏多に触れているからかな。


「もう、どこにも行くなよ」

「ぅん」


体って正直。

こうして側にいて、自分がどれだけ奏多のことが好きか思い知った。

いくら強情を張っても、奏多から離れることはできないと気づいてしまった。


「今度いなくなったら平石の総力を挙げて探し出す。もう遠慮はしないからな」

「はい」

***


幸い私の過呼吸は一時的なもので病院の先生はすぐに退院してもいいと言ってくださったのに、


「休養もかねて一週間くらい入院をお願いします」

「はあ?」

奏多の提案に思わず声が出た。


「一週間ですか、わかりました」

いやいや、そこは先生が止めてくれなくちゃ。

いくらここが平石財閥の系列病院でも、患者の言うことを聞いていいの?

それに、やっと少しずつ食べれるようになって動けるようになったところだったのに、入院なんてひどい。

何とかして入院を回避したい私は、琴子さんに視線を送ってみた。


「せっかくだから一週間くらいゆっくりしなさい」

「でも・・・」


今回は琴子さんも見方にはなってくれないらしい。

それどころか、


「先生、特別室を用意していただけますか?」

「ええ、もちろん」

私のいないところで決まっていく入院。


これはきっと逃げ出した私に対する奏多の意地悪でもあると思う。

でもな、心配をかけた私としては従うしかない。

逃げて、恋して、捕まえた

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