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2年も前の話になるか…………俺はターゲットの調査を終えて、深夜遅くに帰宅しようと帰路を急いでいた。表向きは商社マンと言う肩書きとなっているので、どうしても諜報活動は夕方以降となるのだ。
俺は味方の國出身だが、ここ……北方の国の対外情報庁に所属しており、今日の依頼もそこからの依頼だった。異国の人間は業界に面が割れていない為、重宝される。勿論、俺以外にもスパイはいた。
彼女のように…………
この深夜の時間帯に憂鬱な雨が降って来た。それでも弱く、霧のような雨。
…………?
薄暗いネオンが反射する中で、何かが動いた。それが影になって映る。よく見たら細い路地から出て来た1匹の猫。ゆっくり近づいて見ると、血塗れで大きな怪我をしている。まともに歩けないようだ。俺は更に近づき猫に近寄る。
猫は肩で息をしながら、俺の顔を覗き込んだ。
ブルブル震えながら、ギリギリの生命を刻みながら。
そして、細い路地に踵を返す。2、3歩進んだところで俺を見る。付いてこい……そう言っている……それが分かった。
路地に入るともう1匹、別の猫が倒れていた。こいつも激しくやられている。倒れちゃいるが、確認すると息は微かにある…………
そう言ってるうちに、最初の猫もぶっ倒れちまった。
俺はこの2匹を抱えて、ドクターの元に走る。
元の道を引き返してトンネルに向かう。暫く歩いた先……そこにはトンネルがある。
この歩道専用の長いトンネルは薄暗く、出口の灯りさえまともに見えないくらいだ。暗いトンネルの中、俺の靴音だけが響く。そのトンネルの中程に俺は立ち、壁に向かってIDカードをかざす。
すると、何もない壁が扉の形状になり、扉の右側を押すと扉はゆっくりと開いた。
扉を閉めて奥へと進む。坑道のような一本道をひたすら進むと、そこにはまた扉がある。カードをかざすと扉が開く。
その先には、多くの機器、電子部品、薬、外科手術に用いる用具…………
それらに囲まれた、中央の大きなテーブルに、1人の男が居る。ドクター・マレと呼ばれている修理屋だ。
生物の外科手術、治療…………シンパシーネック等の修理、そして魔改造手術を施す男。
俺が北方の國に潜入してからの付き合いで、幾度となく彼に救われて来た。今の状況で頼りに出来るのはこの男しか居ない。
「…………珍しいな、猫を連れて来るなんて。」
「任務帰りにたまたま会っちまった……見て貰えるか」
俺は、2匹の猫をドクターのテーブルにゆっくりと置いた。
ドクター・マレは、1匹ずつ身体の部位を確認しながら、メモに症状?(俺からは見えない)を書き込んでいる。
「こりゃ多分、アレだな……改造された奴らにやられたんだろう。普通の猫じゃ、爪でここまで深く傷を付けられない。」
その正体は、魔改造手術。
獣体強化研究の最大手「Kronos Bioengineering」は、世界初となる動物専用インターフェース装置「Sympathy Neck(シンパシー・ネック)」を公開した。
首輪状の外見を持つこの装置は、装着された動物の脊髄へ直接接続し、神経信号を解析・制御する。これにより肉体と精神状態を最適化し、本来の能力を超えた力を発揮できるという。
開発責任者であるローレンス・ケイン博士は、発表会でこう語った。
「シンパシーネックは、動物が持つ特性を極限まで引き出します。狩猟本能を鋭利に、感覚を拡張し、欠点を補う。人類のために、彼らを新たなパートナーへと進化させる技術なのです。」
発売から半年。シンパシーネックは軍事機関を中心に急速に普及した。
犬は索敵兵として、猫は暗殺・潜入任務として、鳥類は高高度監視として導入され、各国の特殊部隊は次々に「強化獣」を採用していった。
動物は装着により強靭な肉体を得るだけでなく、AIが脳内に直接「行動指令」を送ることで、恐怖や痛みを抑制された。任務に最適化された個体は、人間の兵士以上の効率を発揮すると報告されている。
だが、栄光の裏には陰があった。
過度な改造を施された個体の多くは、任務終了後に凶暴化し、制御不能となった。
また「装着動物の精神崩壊」や「アイデンティティの喪失」が多発し、装着者は長期任務を終えるたびに再調整・再洗脳を余儀なくされた。弱き動物はここで生命を失う。
闇市場では「不法改造シンパシーネック」が高額で流通。違法ファイトや暗殺に利用され、都市部での動物暴走事件が急増した。
国際動物倫理委員会は、シンパシーネックが「生命への加虐的技術」であるとする報告書を提出した。
しかし軍事利用を理由に多くの国は規制に反対し、現状維持を選択した。
犬は恐怖を失い、
猫は沈黙の刃となり、
鳥は目となり耳となった。
人類は動物の首に「神」を飼った。だが、その神に従えるのは、ほんの一握りの生き残りだけだった。
そして、その瞳に映る孤独や苦痛には、誰も耳を貸さなかった。本当に強き生物のみが、それに耐える事が出来た。
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「A cat in gloves catches no mice」 意味:慎重すぎると成果を上げられない。 例:遠慮してちゃダメ、猫が手袋してたらネズミは捕まえられないよ。
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