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曖昧な返事をすると、岬くんは軽く頷いただけで特に追及してこなかった。


僕の気持ちを尊重してくれるその態度に、僕はホッとした。


すると彼は代わりに別の提案をしてくれた。


「じゃあコーヒーカップはどうかな。あれならそんなに激しくないと思うし」


その言葉にホッとしながら頷く。


コーヒーカップなら、僕でも楽しめるかもしれない。


「…それなら平気かも 」


僕たちはそのまま園内の中央にある


巨大な円形プールのようなアトラクションへ向かうことにした。


コーヒーカップは見た目通り可愛らしい外観をしており


赤や青などのカラフルなカップが水面近くに並んでいる。


まるで大きなティーパーティーが開かれているようだ。


カップにはそれぞれ窪んだハンドル部分があって


それを回せば回転速度を変えられる仕組みになっているようだった。


自分のペースで楽しめる、という点が僕にはとても安心できた。


「これなら自分たちで動かすから、酔ったりしないだろうし安心だよ」


二人で空いている席を見つけカップに乗り込みながら岬くんが笑う。


彼の気遣いが、僕の心を温かくする。


実際乗り込んでみると予想以上に安定していて乗り心地もいい。


ゆったりとした揺れが心地よい。


「ねえ、みさきくん」


ふと、心に引っかかっていたことを口にしたくなった。


「なに?」


「その…ジェットコースターとか乗れなくてごめんね?僕に合わせてばっかで…」


不安になってそう切り出すと、岬くんの表情が少しだけ真剣なものに変わった。


「……朝陽くん」


急に名前を呼ばれてびくりとする。


振り返ると、真剣な瞳でこちらを見る彼がいた。


「な、なに……?」


僕は恐る恐る尋ねる。


「いい?俺は朝陽くんと一緒にいる時間が一番大事なの。だから、俺といてくれるだけで充分だし……せっかくのデートなんだから、二人で楽しめることしたいじゃん?」


彼の言葉が、僕の心の奥深くに響き渡る。


僕の不安を、彼は全て理解してくれているようだった。


「みさきくん……」


「だから気にしなくていいからね。俺はこのまんまの朝陽くんが好きなんだから」


彼は優しく微笑んでそう言った。


その笑顔は、僕の心を温かく包み込み


同時に、どうしようもないほどに彼を愛おしいと感じさせた。


(……本当にずるい)


どうしてこうも簡単に嬉しいことを言ってくれるんだろう。


胸の奥が熱くなるのを感じながら俯くことしかできない。


彼の言葉一つ一つが、僕の心を溶かしていく。


それでも伝えたい言葉があって勇気を出して顔を上げる。


彼の目を見て、真っ直ぐに伝えたかった。


「…ありがと、僕、みさきくんと遊園地来れてよかった」


そういうと、彼が一瞬目を丸くする。


そして、すぐに嬉しそうに破顔した。


「ほんと?」


「うん」


しばらくすると他のカップの中にも人が増えてきて少し混雑してきたけれど


それでもまだ楽しかったし、何より岬くんと一緒にいるだけで心が満たされていた。


彼の隣にいるだけで、どんな場所も特別になる。


10分くらいだろうか?


コーヒーカップを一周して出口付近まで来るとちょうど係員さんの合図とともにカップの回転が止まった。


カップから降りようとすると岬くんがまた手を差し伸べてくれた。


今度は何事もなくその手を取って降りることが出来たものの、やっぱり緊張してしまう。


彼の指が僕の指に触れるたびに、胸が高鳴る。


しかし彼の手から伝わる体温は不思議と落ち着くもので


そのままエスコートされるような形で通路へと移動した。


彼の優しい気遣いに、僕はただ感謝するばかりだった。


すると、視界の端に小さな看板が見えた。


《ふれあい動物エリア☆羊さんにエサをあげよう!》


その文字が目に入った瞬間、僕の足がピタリと止まった。


僕の目が、キラキラと輝くのを感じた。


「みさきくん見て!羊さんいる」


そう言って指差すと、岬くんもすぐに気づいたようで興味深げに眉を上げる。


彼の表情も、僕と同じくらい楽しそうだ。


「ほんとだ、行ってみる?」


「うん!」


即答すると彼も苦笑しつつ承諾してくれる。


僕の子供っぽい反応を、彼はいつも優しく受け止めてくれる。


僕らはそのまま歩いて目的のエリアへ向かうことにした。


足取りは自然と軽くなる。


そこは園内の一角にある広々とした牧草地のような場所で


柵の向こう側では数匹の羊たちが悠々と草を食んでいる。


のどかな風景に、心が和む。


入口付近ではスタッフさんが観客に何か配布しており


「餌やり体験やってますよ~」という明るい声が響いていた。


「お、エサ1個100円だって」


岬くんが説明書きを見て呟く。


僕は慌ててポケットを探ったが札しか入っていないことに気づく。


「ど、どうしよう…今1000円札しかない…ここって両外機とかないよね?」


困った顔をすると岬くんは笑って


「それなら200円ぐらい俺が払ったげるよ」


と言ってくれた。


彼のさりげない優しさに、また胸が温かくなる。


それから自分の財布を取り出し100円玉を2枚取り出した。


「二人分買ってくるからここで待ってて」

朝陽くんは無防備すぎる

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