舞踏会の翌日、レンブラントは感嘆のため息を吐く。今日はこれで何度目か分からない。だが無意識に出てしまうのだから致し方がないだろう。何故なら……。
ティアナが、可愛過ぎるからだ……。昨夜見た、正装したティアナが控えめに言って女神の様に美しい……いや天使の様に愛らしい……いや子猫の様に……etc。
兎に角、あの愛らしい姿がレンブラントの脳内からこびりついて離れない。昨夜屋敷に帰った後、悶々として中々寝付けなかった。その所為で今日は疲労と寝不足だ。
「レンブラント、サボってないで手を動かして下さい」
テオフィルに注意をされて、レンブラントは気怠い身体に鞭を打つと書類に手を伸ばした。
「そう言えば、もう直ぐ収穫祭だな」
ようやく今日の仕事がひと段落つき、お茶にしていた時だった。クラウディウスが思い出した様に言った。
「そう言えばそうだな! 愉しみだな〜」
「ヘンリックは毎年調子に乗って飲み過ぎるんですから、少しは気を付けて下さいよ」
収穫祭は平民達のお祭りだが、実はレンブラント達は毎年気晴らしに、お忍びで参加している。平民に扮装し紛れ、酒や食事を愉しむ。貴族の世界とはまた違った非日常的な雰囲気を愉しめ、また平民達の生活に触れる事が出来る貴重な時間でもある。普段、レンブラントは街へと出掛ける事はそう多くない。必要な物は屋敷に商人を招くか、使用人が調達してくるからだ。以前は女性とデートで美術館や国立図書館などに行っていた事もあるが、馬車から降りて街中を歩く事はないので、実際はこういった時くらいでしか自分の目で見て触れる事はない。
「今年は勿論、ティアナ嬢も連れて来るんだろう」
それは勿論、連れて行きたい。何ならクラウディウス達とは別行動で、ティアナと二人きりがいいとさえ思う。きっと平民に扮した彼女は、正装に勝るとも劣らないくらい可愛いのは想像に容易い。そんな彼女を他の男の目に触れさせたくない、独り占めしたい。だが、現実は難しい。レンブラントはクラウディウスの護衛も兼ねているので、余り彼の側を離れる訳にはいかないのだ。
「彼女が来れば、エルヴィーラも喜ぶよ」
「最近、やたらとティアナ嬢にべったりですからね」
エルヴィーラ、その名前に更に幸せな気分が吹っ飛んだ。失念していた。彼女も来るんだった。昨夜、彼女はティアナを庇ってくれた。それは感謝している。あの後、婚約者として確りと礼はした。ただ、いい所を持って行かれたと思ってしまう自分は、幼く心が狭いかも知れない。
ーーだが彼女を護るのは、自分でありたい。
レンブラントは、ティアナと出会ってから、下らない自尊心と独占欲に苛まれている。
あの時、後少し早く戻れる事が出来ていたなら自分がティアナを庇い護る事が出来たと、悔いてならない。本当は側を離れずにいられたら良いのだが、立場上そうもいかない。ならせめて有事の時には、直ぐに駆けつけたいと思うのに、上手くいかないものだ。
それに今回の件で、ティアナの中のエルヴィーラの評価は、かなり上がった筈だ。これでは益々二人の仲は深まるばかりだ。ため息しか出ない。まさか男ではなく女に嫉妬する羽目になるとは思わなかった。
「あはは、そうだね……」
(モヤモヤする……重症かも知れない)
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