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あの日、翔太と会ってから数日。
康二と翔太は、少しずつ連絡を取り合うようになっていた。
毎日電話するわけではない。
会う約束をたくさんするわけでもない。
それでも、朝の「おはよ」や、仕事終わりの「お疲れ」が戻ってきた。
以前より少し慎重に。
でも、以前より少し素直に。
そんな日々だった。
*
ある日の夕方。
仕事を終えた康二は、休憩室でスマホを開いた。
SNSのおすすめ欄に、見覚えのある名前が流れてくる。
翔太の所属するグループのニュースだった。
『人気グループ、年末の大型音楽特番への出演が決定!』
「……すご」
思わず笑みがこぼれる。
翔太が頑張ってきたことを知っているからこそ、うれしかった。
すぐにメッセージを送る。
康二:出演決定おめでとう!!🎉
しばらくして、返信が来た。
翔太:ありがと! まだ実感ない笑
康二:絶対見るからな!
翔太:お、プレッシャー笑
康二:ちゃんと見つけるから!笑
翔太:見つけられるかなー?
康二:余裕やろ笑
くだらないやり取り。
でも、康二にとっては、それだけで十分幸せだった。
翔太が夢に向かって進んでいる。
そのことを、素直に喜べる自分がいた。
*
数日後。
翔太から、珍しく電話がかかってきた。
「もしもし?」
『康二? 今、大丈夫?』
「うん、ちょうど帰ってきたとこ」
『よかった』
いつもより少し真剣な声。
「……どしたん?」
『実はさ、今度、雑誌の特集で個人インタビューを受けることになって』
「えっ、すごいやん!」
『ありがと笑』
「絶対買うわ!」
『いや、まだ発売前だからね?笑』
「わかってるって!笑」
二人で笑ったあと、翔太が静かに続けた。
『……それで、ちょっと相談があって』
「うん?」
『インタビューで、最近の自分について聞かれるらしいんだよね』
「最近の自分?」
『仕事のこととか、プライベートのこととか。いろいろ』
康二は黙って聞いていた。
『俺、最近思うんだよ。仕事が忙しくても、帰る場所があるっていいなって』
その言葉に、胸が温かくなる。
「……うん」
『でも、俺の場合は普通に出かけることも難しいじゃん?』
「せやな……」
『だから、どうしたらいいのかなって。大切なものができたとき、どこまで話していいんだろうって』
康二はすぐには答えられなかった。
はんぎょ
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翔太が何を伝えたいのか、少しわかった気がしたから。
「……翔太は、どうしたいん?」
『え?』
「周りがどう思うかも大事やけど、翔太自身はどうしたいん?」
電話の向こうで、翔太が少し黙る。
「仕事も大事やろ? ファンのみんなも大事やろ?」
『うん』
「でも、自分の気持ちまで全部隠さなあかんわけちゃうと思うねん」
康二は、ゆっくりと言葉を選んだ。
「全部を話す必要はない。でも、翔太が大切にしたいもんまで、なかったことにせんでええんちゃうかな」
しばらく沈黙が続いた。
やがて、翔太が小さく笑った。
『……康二に相談してよかった』
「ほんま?」
『うん。なんか、頭の中が整理できた』
「そっか。よかった」
『ありがと』
その声があまりにも優しくて、康二は少し照れた。
「……どういたしまして」
*
ところが。
インタビューの収録が終わった翌日。
思いがけない記事が公開された。
『翔太、最近の心境の変化を語る。「守りたいものができた」』
康二は、思わず記事を開いた。
そこには翔太の言葉が載っていた。
『忙しい日々の中でも、自分が自然体でいられる時間を大切にしたいと思うようになりました』
『守りたいものができたからこそ、もっと頑張りたいと思っています』
恋人がいるとは、一言も書かれていない。
康二の名前も、カフェの名前も出ていない。
それでも。
コメント欄には、さまざまな反応が並んでいた。
「翔太くん、なんか最近雰囲気変わったよね」
「守りたいものって何だろう?」
「恋愛とか……?」
康二の指が止まる。
さらに、別の記事では、以前のカフェの写真まで話題にされていた。
もちろん、二つの出来事が本当につながっているという証拠はない。
けれど、康二の心には、また不安が広がり始めた。
――俺のこと、なんかな。
そう考えた瞬間、スマホが震えた。
翔太:記事、見た?
康二:見たよ! すごくかっこよかった!
翔太:ありがと笑
少しして、もう一通。
翔太:今度、ちゃんと会って話したい
康二は画面を見つめた。
以前なら、会いたいという気持ちだけで返事をしていたかもしれない。
でも今は、違う。
会いたい。
もちろん会いたい。
それでも、二人がこれからどうしていくのか、ちゃんと話さなければいけない。
康二:うん。私も話したい
送信すると、すぐに返信が届いた。
翔太:じゃあ、最初に会ったカフェで
康二:……あのカフェ?
翔太:うん。俺たちが出会った場所
康二は、思わず微笑んだ。
康二:わかった
翔太:康二
康二:ん?
翔太:これからも、ちゃんと隣にいてほしい
その文字を見て、康二の胸がいっぱいになった。
でも、返事をする前に、もう一度記事を読み返した。
翔太は、少しずつ前に進んでいる。
自分の仕事も、自分の気持ちも、大切にしようとしている。
だったら。
康二も、ただ守られるだけではいたくなかった。
翔太の夢を応援すること。
自分の生活を大切にすること。
二人で一緒にいられる方法を探すこと。
それが、今の自分にできることなのかもしれない。
康二は、ゆっくりと返信した。
康二:うん。今度は、ひとりで悩まへん
翔太:……うん
翔太:俺も
*
その夜。
翔太は仕事を終え、ひとりで帰り道を歩いていた。
ふと、初めて康二と会った日のことを思い出す。
撮影の合間に交わした、何気ない会話。
自分のことを特別扱いせず、普通に接してくれた康二。
あのときは、こんな気持ちになるなんて思ってもいなかった。
「……ほんと、不思議だな」
翔太は小さく笑った。
そして、スマホを開く。
画面には、康二とのメッセージ。
最後の一言を、もう一度読む。
『今度は、ひとりで悩まへん』
翔太は、その言葉を大切にするように、そっと画面を閉じた。
今度会ったら、伝えよう。
自分がどれだけ康二を大切に思っているのか。
そして、これから先も、一緒に考えていきたいということを。
カメラの向こう側にいる自分も。
誰にも見せない、普通の自分も。
どちらも自分だから。
その両方を大切にしながら、康二と歩いていきたい。
そう思った。
次に会う場所は、二人が初めて出会ったカフェ。
そこで、二人はどんな答えを見つけるのだろう。
物語は、最後の一話へ。